257 / 1,321
第四章 西からの迷い人
47 最後の晩餐 3 一二三
しおりを挟む
「殿下、おかえりなさい。」
先ほど私たちを案内してくれた美しい使用人の声が聞こえて、離宮がばたばたと音を立て始めた。
「緋色!帰ってきた!」
緋色殿下が帰ってきたらしい。
成人さまは、嬉しそうに立ち上がった。少し、びくりと肩を揺らしたら、申し訳なさそうにこちらを見た。
「あのね、座ってて。お茶出すね。ご飯まだだから。」
そう言うと出入り口へ向かって歩き出す。母と私たちの護衛がそこを塞ぐように立っている。
「あの、中に入って座ってて。」
退けて、とは言わずに優しく母に声をかける成人さまを睨むようにして、母はそこから動かない。
「お客様がいらしてます。」
「おう、早いな。留守居ご苦労。」
「いえ、今日はなるが頑張ってるのよ。」
「そうか。」
そんな会話が近付いてくる。開いたままの引き戸に赤い軍服が見えて、母が振り返って膝を付き、左拳を右手で包み持ち上げた。護衛二人も膝を付いて包拳礼を取る。私も姿勢を正して同じ礼を取った。いつの間にか私の斜め前で弐角も綺麗な礼をしている。私たちと母に挟まれた成人さまが困ったように立ち尽くしていたが、動くことはできなかった。
「九鬼弐角がご挨拶申し上げます。この度は晩餐にお招き頂き、恐悦至極にございます。」
挨拶と共に顔を上げたらしい弐角へ、緋色殿下の声がかかる。
「よく来たな。うわ、同じ顔じゃないか。常陸丸、見ろ。」
殿下の後ろで黒い軍服が動き、部屋を覗くのが見えた。
礼の姿勢を保ったまま、目を少しだけ上げてみれば、力丸と良く似た男が、驚いた顔で弐角を見ている。兄か……。力丸より少し大きな体格、落ち着いた顔立ち。先ほどの成人さまの話にも出てきていた。常陸丸と力丸よりおんなじ、と。
「育ちが違ってもこんなに似るんだな。俺の知ってる双子はここまで似てなかったが。」
「俺らの同級生は、少し顔が違いましたね。似てはいましたけど。」
「これなら、何の証もいるものか。弐角、壱臣には会ったか?」
「はい。兄に会わせて頂き、ありがとうございました。」
知らなかったのは、私たちだけ。殿下も、壱臣と弐角が双子の兄弟であることをご存知だったことを示すやり取りを、ただ茫然と聞いていた。
「ずいぶん、かしこまった服で来たのだな。」
声がこちらへ向けてかけられ、慌てて挨拶をする。
「九鬼一二三がご挨拶申し上げます。晩餐にお招き頂き、ありがとうございます。」
恐る恐る顔を上げると、薄茶色の瞳がこちらを見ていた。見慣れた黒より薄い色が、何かを見透かすようで落ち着かない。
「ふーむ、成る程?」
「え?」
「いや、何でもない。一二三とは変わった名だな。九鬼は生まれ順に数字を一つ名に入れると聞いたが。」
「は、あ……、その、私には……?」
名を付けられた私には分からないことなので、曖昧に返事をする。
「失礼致します。九鬼綾女がご挨拶申し上げます。その名は、この子こそが生まれ順に関係なく、唯一の九鬼の跡取りであると宣言致したものでございます。」
父の二番目の子だと思っていたら本当は三番目だったようだし、一二三で三番で正しいのかも、なんて少しのんびりしたことを考えていたら、母がとんでもないことを言う。もはや、三番目ですらないような気がしているのに。
「言うのは勝手だからな。ところで九鬼綾女とやら。そこを退けてくれないか。成人が俺を迎えに来られなくて困っている。」
先ほど私たちを案内してくれた美しい使用人の声が聞こえて、離宮がばたばたと音を立て始めた。
「緋色!帰ってきた!」
緋色殿下が帰ってきたらしい。
成人さまは、嬉しそうに立ち上がった。少し、びくりと肩を揺らしたら、申し訳なさそうにこちらを見た。
「あのね、座ってて。お茶出すね。ご飯まだだから。」
そう言うと出入り口へ向かって歩き出す。母と私たちの護衛がそこを塞ぐように立っている。
「あの、中に入って座ってて。」
退けて、とは言わずに優しく母に声をかける成人さまを睨むようにして、母はそこから動かない。
「お客様がいらしてます。」
「おう、早いな。留守居ご苦労。」
「いえ、今日はなるが頑張ってるのよ。」
「そうか。」
そんな会話が近付いてくる。開いたままの引き戸に赤い軍服が見えて、母が振り返って膝を付き、左拳を右手で包み持ち上げた。護衛二人も膝を付いて包拳礼を取る。私も姿勢を正して同じ礼を取った。いつの間にか私の斜め前で弐角も綺麗な礼をしている。私たちと母に挟まれた成人さまが困ったように立ち尽くしていたが、動くことはできなかった。
「九鬼弐角がご挨拶申し上げます。この度は晩餐にお招き頂き、恐悦至極にございます。」
挨拶と共に顔を上げたらしい弐角へ、緋色殿下の声がかかる。
「よく来たな。うわ、同じ顔じゃないか。常陸丸、見ろ。」
殿下の後ろで黒い軍服が動き、部屋を覗くのが見えた。
礼の姿勢を保ったまま、目を少しだけ上げてみれば、力丸と良く似た男が、驚いた顔で弐角を見ている。兄か……。力丸より少し大きな体格、落ち着いた顔立ち。先ほどの成人さまの話にも出てきていた。常陸丸と力丸よりおんなじ、と。
「育ちが違ってもこんなに似るんだな。俺の知ってる双子はここまで似てなかったが。」
「俺らの同級生は、少し顔が違いましたね。似てはいましたけど。」
「これなら、何の証もいるものか。弐角、壱臣には会ったか?」
「はい。兄に会わせて頂き、ありがとうございました。」
知らなかったのは、私たちだけ。殿下も、壱臣と弐角が双子の兄弟であることをご存知だったことを示すやり取りを、ただ茫然と聞いていた。
「ずいぶん、かしこまった服で来たのだな。」
声がこちらへ向けてかけられ、慌てて挨拶をする。
「九鬼一二三がご挨拶申し上げます。晩餐にお招き頂き、ありがとうございます。」
恐る恐る顔を上げると、薄茶色の瞳がこちらを見ていた。見慣れた黒より薄い色が、何かを見透かすようで落ち着かない。
「ふーむ、成る程?」
「え?」
「いや、何でもない。一二三とは変わった名だな。九鬼は生まれ順に数字を一つ名に入れると聞いたが。」
「は、あ……、その、私には……?」
名を付けられた私には分からないことなので、曖昧に返事をする。
「失礼致します。九鬼綾女がご挨拶申し上げます。その名は、この子こそが生まれ順に関係なく、唯一の九鬼の跡取りであると宣言致したものでございます。」
父の二番目の子だと思っていたら本当は三番目だったようだし、一二三で三番で正しいのかも、なんて少しのんびりしたことを考えていたら、母がとんでもないことを言う。もはや、三番目ですらないような気がしているのに。
「言うのは勝手だからな。ところで九鬼綾女とやら。そこを退けてくれないか。成人が俺を迎えに来られなくて困っている。」
492
お気に入りに追加
4,981
あなたにおすすめの小説
主人公に「消えろ」と言われたので
えの
BL
10歳になったある日、前世の記憶というものを思い出した。そして俺が悪役令息である事もだ。この世界は前世でいう小説の中。断罪されるなんてゴメンだ。「消えろ」というなら望み通り消えてやる。そして出会った獣人は…。※地雷あります気をつけて!!タグには入れておりません!何でも大丈夫!!バッチコーイ!!の方のみ閲覧お願いします。
他のサイトで掲載していました。
乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます
syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね???
※設定はゆるゆるです。
※主人公は流されやすいです。
※R15は念のため
※不定期更新です。
※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m
俺の婚約者は、頭の中がお花畑
ぽんちゃん
BL
完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……
「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」
頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う
まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。
新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!!
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
糸が紡ぐ物語
ヒツジ
BL
BL大賞のためにシリーズをまとめ、一部年齢を変更したものです。
※手脚が再生する人達が出てくるので、手を切り落とす描写などがでてきます。
苦手な方はご注意ください。
第一章【白い蜥蜴と黒い宝石】
傭兵団に属する少年、シロ。白い髪に赤い眼を持ち、手脚を切られても新しいものが生えてくるという特殊な体質の持ち主である彼は、白蜥蜴の名で戦場で恐れられていた。
彼と兄弟のように一緒に育った同い年の少年、クロ。この世界では珍しい黒髪の持ち主であり、そのために欲望の目を向けられることに苦しんでいる。子供の頃に男達に襲われそうになり、助けようとしたことでシロが自分の手脚が再生することに気づいたため、ずっと責任を感じて過ごしてきた。
ある日、2人の前にシロと同じ白い髪赤い眼の少年が現れる。シロと少年にしか見えない糸を操り、シロを圧倒する少年。その少年は自分のことを白の人と呼び、シロに白の人の里に来ないかと誘う。
だがシロはクロも一緒でないと行かないと言ったため、シロのためを考え里に同行するクロ。やがて、その里での日々でお互いへの気持ちに気づく2人。兄弟という関係を崩したくなくて気持ちを伝えられずにいるうちに、クロは敵の里の長に連れ去られてしまう。
敵の長であるシュアンから里同士の戦を終わらせたいという思いを聞いたクロは、敵の里に残り和解の道を探る。そんな中、クロの優しさに触れたシュアンは、クロに共に生きてほしいと告げる。だがクロはシロへの想いとの間で悩むのだった。
第ニ章【白き魔女と金色の王】
里同士が和解してから13年。クロに憧れる里の少年チヤは、糸の力が弱く不器用なせいでコンプレックスを抱えていた。
ある日、雨宿りに入った小屋で青年ウォンイに出会う。唯一の特技である天気を読む力や瞳をウォンイに褒められて戸惑うチヤ。そのまま小屋を飛び出してしまう。
だが再会したウォンイに誰にも言えなかった本音を話せたことで、次第に心を開いていくチヤ。里は大好きだが甘やかされている状態から抜け出したいと話すと、ウォンイは自分の妻にならないかと提案する。
王弟として子を持ちたくないウォンイは、男であるチヤを女と偽り妃として迎える。共に過ごすうちにお互いの好意に気づいていく2人。周りの後押しもあり、ついに結ばれる。
そんな中、糸が見える人間や、白の人と普通の人との混血の人間が現れる。ウォンイは白の人は人間の進化のカタチなのではないかと仮説をたて、チヤ達は白の人について調査を始めた。国王も味方となり調査を進めるチヤ達だが、王妃が懐妊したことにより高官達の思惑でチヤが魔女だという悪評を流される。
番外編【青い臆病者と白金の天然兵士】
カダとツギハのその後の話です。
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる