【完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

35 何かが切れる音  緋色

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 商店街の洋服屋で買ってきた靴下は、やはりサイズが大きかったようだ。履いたときに少し、踵の位置がずれている。柄を気に入って、洗濯がすんだらまた履くのを繰り返しているから、余計にゴムがゆるんでいく。

「また買いに行こうかなー。」

 歩きにくそうにしているのに、にこにこと言う。とりあえず服飾部に、これが気に入っていると伝えておいた。ついでにパンツにも、ぞうの絵か金魚の絵でも入れておいてくれ。
 届いたときの、嬉しそうな顔が目に浮かぶ。服なんて大して興味は無かったが、成人なるひとが喜ぶなら服飾部との話も面倒臭がらずにやろうじゃないか。格好いいと言われるのも嬉しいもんだしな。
 商店街で、ずいぶん可愛がられているのも驚いた。小さくて細いからと色んな食べ物を渡す年寄りも多いらしい。コロッケ一つ食べきって腹を壊してからは、荘重むらしげが商店街で説明会を開いて、食べ物はあまり渡さないことを徹底したようだ。揚げ物は消化が難しいからな。八百屋の果物は、軟らかいものなら食べられるので余計に八百屋に懐いているらしい。
 行動範囲の広がりに驚く。布団の上だけで幸せそうにしていた頃が嘘みたいだ。心配は尽きないが、束縛したいわけでもない。
 笑顔で俺の所に戻ってくるのは分かっている。気をつけて遊んできたらいいさ。
 今日は俺の膝の上で本をめくっている成人なるひとをのんびりと抱きしめてソファの上。
 
緋色ひいろ!」

 乙羽おとわを抱えた常陸丸ひたちまるが血まみれで帰ってきた。
 新しくできた総合デパートに買い物に行くと言って二人で出掛けた休日。

「怪我は?」
「無い。」
「ならいい。」 

 俺の膝の上から成人なるひとが下りて乙羽おとわの側に寄る。常陸丸ひたちまるが腕から下ろすとしっかりと立った。

乙羽おとわ。」
「なるー。デパート少し壊れちゃった。」
「うん。」
「まだ半分も見れてなかったのに。」
「うん。」

 成人なるひと乙羽おとわをきゅっと抱き締めて背中を擦っている。乙羽おとわ成人なるひとを抱きしめ返して深呼吸し始めた。
 大丈夫そうだな。

「あいつら許せねえ。乙羽おとわを拐う算段をしてやがった。」
「へえ?」

 どういう考えでそんなことになるんだ?乙羽おとわを拐って壱臣いちおみを誘い出すことなんてできまい?

緋色ひいろ殿下の伴侶を拐うって言って乙羽おとわに手を出すつもりだったんだよ!」

 は?
 
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