229 / 1,321
第四章 西からの迷い人
19 二通の手紙 成人
しおりを挟む
赤璃さまが真面目な顔で話し始める。
「赤虎の婚約が正式にととのって、結婚式の日取りが発表されたの。まだまだ先だけれど、五条家と六条家の婚姻。しかも、赤虎は五条に下ろされたとはいえ、現皇帝の実の息子であることに変わりはない。皇帝一家も参加する盛大なものとなる予定よ。各地の領主にも報せを送り、式と披露宴に参加するかどうかを問うための手紙を付けた。」
「各地からの返信の中に気になるものがあったと六条寧子から連絡が来てね。」
「九鬼家から二通、参加する旨の返信が来たそうよ。」
「二通……。」
壱臣が思わず、といった風に呟く。
「そう、二通。各領地に一通づつ手紙を送って、それぞれの領主から返信が来ている中、九鬼家だけ二通。一通は領主から親族の九鬼弐角が参加します、というもの。もう一通は九鬼一二三名義で、領主名代として参加します、というもの。」
「馬鹿なのか。」
緋色が面倒くさそうに言った。
「わざわざ一枚岩でないことを知らせるなんて。」
「それで気になって調べていたら、ものすごいタイミングで九鬼の壱がここにいると言うじゃないか。いやあ、こんな分かりやすい名前を名乗って、よく市井で今まで無事だったね。」
「……領地を出た後は、誰も名前の意味なんて知らんようやったし、調理師免許証にばっちり名前が書いてあるから偽名も使いようがなかったんですよ。他の仕事なんてできひんし。」
「それで、こうして話を聞きにきてみたんだけど、あっという間に事情が分かって良かったよ。皇家の人間に次期当主として顔を売りたい一二三サイドが、今回の参加者に選ばれずに焦っているってところか。それとも、領主を侮っているのか。」
朱実殿下がうーん、と顎に手をおいた。
「中央に顔を売りたいんでしょうね。私たちの結婚式には領主お一人での参加だったし、誰かさんは勝手に結婚して式も内々に挙げてしまったから、ここまで盛大な集まりはしばらく望めそうもない。焦ってるんじゃないかしら。」
「勝手じゃない。ちゃんと報告はしただろう。」
「事後報告ね。こういうのは事前に報告しなくちゃ駄目なの。」
「求婚されたからなあ。そりゃ、受けるだろ。」
「愛されてるアピールは聞き飽きたわ。」
この話をするときの緋色は、いつもにまにましてる。俺の頬にちゅってした。
あ、ちゅーは二人の時に……。いや、口じゃないからいいのか。
俺もにまにましちゃう。
「何よ。」
赤璃さまがその細い指をきゅっと握った。
「求婚くらい、私だってしてもらってるわ!」
ん?
「赤虎の婚約が正式にととのって、結婚式の日取りが発表されたの。まだまだ先だけれど、五条家と六条家の婚姻。しかも、赤虎は五条に下ろされたとはいえ、現皇帝の実の息子であることに変わりはない。皇帝一家も参加する盛大なものとなる予定よ。各地の領主にも報せを送り、式と披露宴に参加するかどうかを問うための手紙を付けた。」
「各地からの返信の中に気になるものがあったと六条寧子から連絡が来てね。」
「九鬼家から二通、参加する旨の返信が来たそうよ。」
「二通……。」
壱臣が思わず、といった風に呟く。
「そう、二通。各領地に一通づつ手紙を送って、それぞれの領主から返信が来ている中、九鬼家だけ二通。一通は領主から親族の九鬼弐角が参加します、というもの。もう一通は九鬼一二三名義で、領主名代として参加します、というもの。」
「馬鹿なのか。」
緋色が面倒くさそうに言った。
「わざわざ一枚岩でないことを知らせるなんて。」
「それで気になって調べていたら、ものすごいタイミングで九鬼の壱がここにいると言うじゃないか。いやあ、こんな分かりやすい名前を名乗って、よく市井で今まで無事だったね。」
「……領地を出た後は、誰も名前の意味なんて知らんようやったし、調理師免許証にばっちり名前が書いてあるから偽名も使いようがなかったんですよ。他の仕事なんてできひんし。」
「それで、こうして話を聞きにきてみたんだけど、あっという間に事情が分かって良かったよ。皇家の人間に次期当主として顔を売りたい一二三サイドが、今回の参加者に選ばれずに焦っているってところか。それとも、領主を侮っているのか。」
朱実殿下がうーん、と顎に手をおいた。
「中央に顔を売りたいんでしょうね。私たちの結婚式には領主お一人での参加だったし、誰かさんは勝手に結婚して式も内々に挙げてしまったから、ここまで盛大な集まりはしばらく望めそうもない。焦ってるんじゃないかしら。」
「勝手じゃない。ちゃんと報告はしただろう。」
「事後報告ね。こういうのは事前に報告しなくちゃ駄目なの。」
「求婚されたからなあ。そりゃ、受けるだろ。」
「愛されてるアピールは聞き飽きたわ。」
この話をするときの緋色は、いつもにまにましてる。俺の頬にちゅってした。
あ、ちゅーは二人の時に……。いや、口じゃないからいいのか。
俺もにまにましちゃう。
「何よ。」
赤璃さまがその細い指をきゅっと握った。
「求婚くらい、私だってしてもらってるわ!」
ん?
527
お気に入りに追加
5,000
あなたにおすすめの小説
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!
福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。
まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。
優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ…
だったなぁ…この前までは。
結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!??
前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。
今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。
【完結】狼獣人が俺を離してくれません。
福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。
俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。
今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。
…どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった…
訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者
NLカプ含む脇カプもあります。
人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。
このお話の獣人は人に近い方の獣人です。
全体的にフワッとしています。
【完結】塔の悪魔の花嫁
かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。
時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
公爵様のプロポーズが何で俺?!
雪那 由多
BL
近衛隊隊長のバスクアル・フォン・ベルトランにバラを差し出されて結婚前提のプロポーズされた俺フラン・フライレですが、何で初対面でプロポーズされなくてはいけないのか誰か是非教えてください!
話しを聞かないベルトラン公爵閣下と天涯孤独のフランによる回避不可のプロポーズを生暖かく距離を取って見守る職場の人達を巻き込みながら
「公爵なら公爵らしく妻を娶って子作りに励みなさい!」
「そんな物他所で産ませて連れてくる!
子作りが義務なら俺は愛しい妻を手に入れるんだ!」
「あんたどれだけ自分勝手なんだ!!!」
恋愛初心者で何とも低次元な主張をする公爵様に振りまわされるフランだが付き合えばそれなりに楽しいしそのうち意識もする……のだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる