【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
204 / 1,321
こぼれ話

真っ直ぐな気持ち  緋椀

しおりを挟む
 こんこん、と扉がノックされる。はい、と作治さくじさんが返事をしながら開けにいくと、緋色ひいろ殿下が立っていた。

成人なるひと、いるか。」
「はーい。」

 中に入りながら殿下が言うと、成人なるひとが返事をする。

「今日は昼寝しろ。」
「えー。今から雫石しずくさんと父さまにまんじゅう渡しに行く。」
「明日か、昼寝の後にしろ。」
「眠くない。」
「いいや、駄目だ。まだ休みをもらっているから一緒にいてやる。」

 殿下はそう言いながら、ひょいと成人なるひとをソファから抱き上げた。口では、眠くないと言いながら、成人なるひとは簡単に殿下の腕の中に収まる。

「あ、話は終わったか?」

 殿下も相変わらずだな。

「まだー。」

 殿下は成人なるひとを抱いたままソファに座った。

「何の話?」
成人なるひとくんが、俺たちに新婚旅行を勧めてくれていたのですよ。」
「はは。斑鹿乃むらかのも言ってたな。今度の広末ひろすえの休みの日に、とりあえず動物園に行くそうだ。皆に勧めるほど楽しかったか、成人なるひと。」

 成人なるひとは、うんうんと頷いている。

「行ってきたらいいぞ、温泉。俺の休みが終わってから交代な。」

 殿下の言葉に、作治さくじさんが笑みを深めた。

「お外のお風呂は、いいよー。」
「おや、露天風呂?部屋に?」
「高いぞ。」

 殿下がにやりと笑う。

「ちょっと頑張ってみますか。」
「大人の余裕だなー。」

 この二人は、何だかんだ仲が良い。もしかしてあっという間に……。

「温泉行こうか、緋椀ひまり。」
「………はい?」
「楽しみだなー。」

 温泉旅行が決定してる?

「だから、俺は新婚じゃない。」
「新婚って何?」
「え?知らずに勧めてたの?」
「結婚したての人のことだよ。」
「結婚してる人が行く旅行じゃないの?したてじゃないとダメ?」
「いいや。」

 殿下は楽しそうに笑って、首を捻っている成人なるひとの頬にキスをする。ひゃ、と嬉しそうな顔をした成人なるひとが振り返って殿下の口に口を押し付けた。
 まともに見てしまって、俺が照れる。二人はただ、機嫌良くそこにいるだけなのに。
 殿下がこちらを見て、にやぁと笑った。どことなく姉上に似たその笑いは、嫌な予感しかしない。

「真っ赤だな。」
「なんでー?」
「そういうことは、人前でしないものなんだよ。」
緋椀ひまりはどこでするの?」
「どこって、そりゃ、部屋とか人の見てないとこで……。」
「するんだな。」

 しまった。

「あ、いや……。」
「ちゅーは気持ちいいよねえ。」

 もう俺は顔を手で覆ってうつむくしかできない。乙羽おとわさん、殿下と成人なるひとを止めに来てくれ。

「楽しみだな、露天風呂。」

 いつの間にか作治さくじさんに肩を抱かれていたことに気付いたのは、殿下と成人なるひとが部屋から出ていってからだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!

福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。 まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。 優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ… だったなぁ…この前までは。 結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!?? 前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。 今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。

【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。 時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活

福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…? しかも家ごと敷地までも…… まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか…… ……? …この世界って男同士で結婚しても良いの…? 緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。 人口、男7割女3割。 特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。 1万字前後の短編予定。

【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。

福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。 そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。 理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。 だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。 なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと… 俺はソイツを貰うことにした。 怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息 弱ざまぁ(?) 1万字短編完結済み

処理中です...