【完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

33 緋色 45

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 不意に、成人なるひとの体がふわりと持ち上がって、ベッドに横たえられた。
 さいの横に!
 成人なるひとの部屋履きの靴をそっと外して、一ノ瀬いちのせ荘重むらしげが離れていく。
 あまりの早業に、成人なるひともきょとんとした後、ほっとした顔でさいの方を向いた。

「おいっ。」
「疲れて限界です。もう少し話したいようなので、しばしご辛抱を、殿下。」

 いつの間にか俺の横にいる。本当に、気配が無い。首の後ろの毛がちりちりと逆立つような感覚がする。荘重むらしげは、涼しい顔で成人なるひとを見守っている。常陸丸ひたちまるがぴたりと荘重むらしげに張り付いた。

「怖え。」

 ぼそり、と呟くのを聞いて、にこりと笑うのがまた、恐ろしい。

「食べるもの、無くて。」
「大丈夫ですよ。」
「パズル持ってきたの。」
「パズル?」
「楽しいから。」
「好きなんですか?」
「うん。絵が出てくるの。きれいで。」

 パズルが好きなのか。いつからしているのか知らなかったな。今度、買ってやろう。

「置いておくから。」
成人なるひとの宝物でしょう?戴けません。私は、無くても大丈夫ですよ。」
「三つあるから。」

 成人なるひとは、ずっと大切に手に持ってきた箱をさいの掛け布団の上に置いた。
 成人なるひとの頭を撫でていた手を下ろしてさいがその小さな箱を掴む。簡単なパズルなのだろう。かさ、と音がした。

「寝ていては、できませんね。」

 箱を掲げて、さいが呟いた。

「うん。」
「今日は疲れたでしょう?」
「うん。」
「明日、一緒にしますか?」
「うん。」

 荘重むらしげがこちらを見た。指示に従っているようで癪だが、ベッド脇に移動した。

「殿下、ご無礼をお許しください。」

 さいの言葉に、

「気にするな。」

 と言いながら、成人なるひとを抱き上げる。

「早く復帰してくれ。書類がたまっている。お前がいないと困る。」
「私など、何も……。」
「お前がいなかった時に、どうしていたのか思い出せないくらいだ。」
「殿下……。」
さい、俺にも、パズルをする暇をくれ。」

 さいは、パズルをそっと胸元に寄せて、はい、と小さく言った。
 

 



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