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第三章 幸せの行方
9 赤璃 1
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「私を、存分に使いなさい。」
斎文明は言った。
ベッドで横たわり、目を開けることもできない元帝国の文官。平凡な体格の、整ってはいるが目立つ訳ではない、大人しそうな面立ちの男。
少し眉をしかめているのは、話をするのも辛いからなのか。
「何があるかは保証できませんが、あなたの命が少しでも長く保てるように、全力で治療致します。」
そう言った忍部に、微かに首を横に振った。
「私の命よりも、成人の治療に繋がることを優先しなさい。」
「二人とも助けるつもりです。」
忍部の言葉に、斎は辛そうに、うっすらと目を開けた。その目は生松を見る。そして緋色を。
「成人を救うために、私を使いなさい。」
すぐに目は閉じられた。背筋が伸びるのが分かる。朱実が決して意見を変えないときの、決意したときのそれに似た、威厳。彼は、平民の文官などではない。
「治ってもらわないと困る。俺は、本当にお前を頼りにしているんだ。」
緋色の弱々しい言葉は、彼に届いたのだろうか。
麻酔が少しずつ落ちていく点滴の管を見つめて、私たちは沈黙した。
忍部と生松、助手らしき男、その白衣の三人が手術室へとベッドを押して出ていく。緋色と二人でそれを見送り、軽く息を吐いた。
「あれは、何者なの?」
「俺の優秀な部下だ。」
「そう。」
朱実。貴方の勘は当たっている。第二子である陛下には出せない、他者への威圧。自分の曲げない意見を通すときの、あの空気は。
じろり、と緋色を睨む。
「それで、いいのね?」
「……兄上には、関係無いだろう?」
「私は私の見たまま、聞いたままを伝えるわ。」
私は朱実殿下の目であり耳である。自由に動けない貴方の代わりに、私が見ましょう、私が聞きましょう、と誓った。気儘な私のたった一本の操り糸はもう、預けたのだ。
「……俺が言う。」
「賢明だと思うわ。」
しばらくの沈黙の後で緋色は言った。
斎文明は言った。
ベッドで横たわり、目を開けることもできない元帝国の文官。平凡な体格の、整ってはいるが目立つ訳ではない、大人しそうな面立ちの男。
少し眉をしかめているのは、話をするのも辛いからなのか。
「何があるかは保証できませんが、あなたの命が少しでも長く保てるように、全力で治療致します。」
そう言った忍部に、微かに首を横に振った。
「私の命よりも、成人の治療に繋がることを優先しなさい。」
「二人とも助けるつもりです。」
忍部の言葉に、斎は辛そうに、うっすらと目を開けた。その目は生松を見る。そして緋色を。
「成人を救うために、私を使いなさい。」
すぐに目は閉じられた。背筋が伸びるのが分かる。朱実が決して意見を変えないときの、決意したときのそれに似た、威厳。彼は、平民の文官などではない。
「治ってもらわないと困る。俺は、本当にお前を頼りにしているんだ。」
緋色の弱々しい言葉は、彼に届いたのだろうか。
麻酔が少しずつ落ちていく点滴の管を見つめて、私たちは沈黙した。
忍部と生松、助手らしき男、その白衣の三人が手術室へとベッドを押して出ていく。緋色と二人でそれを見送り、軽く息を吐いた。
「あれは、何者なの?」
「俺の優秀な部下だ。」
「そう。」
朱実。貴方の勘は当たっている。第二子である陛下には出せない、他者への威圧。自分の曲げない意見を通すときの、あの空気は。
じろり、と緋色を睨む。
「それで、いいのね?」
「……兄上には、関係無いだろう?」
「私は私の見たまま、聞いたままを伝えるわ。」
私は朱実殿下の目であり耳である。自由に動けない貴方の代わりに、私が見ましょう、私が聞きましょう、と誓った。気儘な私のたった一本の操り糸はもう、預けたのだ。
「……俺が言う。」
「賢明だと思うわ。」
しばらくの沈黙の後で緋色は言った。
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