【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

65 成人 34

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「ちょっと行ってくる」
「どこへ?」
「いくつ? って聞いてくれる」
「聞いてもらう、だろ」

 そう、それそれ。
 俺はすぐに緋色ひいろの仕事の部屋から出た。誰かいないかなー?
 ピンポンとベルが鳴る。玄関にお客さんが来たらしい。ちょうどいい。
 お客さんは青葉あおばさんだった。やったね。玄関に駆け付けると斑鹿乃むらかのが青葉さんにスリッパを出していた。

「青葉さん」
「おや。おはよう、なるちゃん」
「おはよう」
「熱を出していたようだけど、治ったんだね。良かった」
「元気。あのねえ、いくつって聞いて?」
「なんだって?」
「いくつって聞いて?」

 青葉さんはスリッパを履きながら、首を傾げる。もうっ。前に聞いてたじゃん。

成人なるひとさんは幾つですか?」

 横で話を聞いていた斑鹿乃むらかのが、そっと尋ねてくれた。

「十五!」
「そうでしたか。私は二十三歳ですよ」

 うんうんと頷くと斑鹿乃むらかのはふんわり笑ってくれた。

「成程。歳が分かったの、なるちゃん」
さいが教えてくれた。計算するの」
「計算? まあ、良かったね。ところで、元気になったなら私とお勉強しようか」

 えーと、俺は今、忙しい。いくつ? って聞いてもらわなきゃならない。

「今日は勉強しない」

 そう言って青葉さんに背を向けると、ぱしっと腕を取られた。振り向くと驚いた顔をした青葉さんがいる。

「なるちゃん、お勉強しないの?」
「うん。忙しいから」
「……そう。私もなるちゃんに付いて行っていいかい?」

 まじまじと俺の顔を見た青葉さんが言う。

「いいよー」

 今度は台所へ行こう。きっと広末ひろすえがいる。
 廊下を掃除していた吉野よしのも捕まえて、いくつ? って聞いてもらう。うふふ。十五です。俺、十五なんです。

広末ひろすえ。いくつ? って聞いて」
「わ、びっくりした。なる坊、おはよう」

 皆の朝食の片付けを終えて、ようやく自分の食事をしていたらしい広末ひろすえが、新聞から顔を上げた。コーヒーの匂いはあまり好きじゃない。

「なる坊、朝ごは残したろ? ちゃんと食えよ。大きくなれないぞ」
「ジュース飲んだ。」
「雑炊を食べてからジュースは飲むんだよ」
「ジュースがいいの」
「そんなこと言ってたら、ミックスジュース作らないぞ。ご飯は大切なの。体を作ってくれるんだからな」

 そんな……。でも、ご飯よりジュースと飴と団子がいい。むう、と横を向きかけて思い出した。
 こんな話をしにきたのではないのだ。

「いくつ? って聞いて」
「歳か? 知らないんだろ?」
「聞いて!」
「はいはい。いくつ?」
「十五!」
「あれ? 分かったのか?」
さいが計算してくれた」
「良かったなぁ。誕生日いつだ? お祝いに団子に色んな味を付けてパーティーしよう」
「誕生日……?」
「誕生日が無かったら、ずっと十五のままだろう?」
「ずっと十五じゃないの?」
「歳は取るもんだろ」

 やっと十五になったのに、誕生日って何?

「聞いてくる」
「あ、おい」

 台所を飛び出したら、青葉さんが廊下で待っていて、また付いて来た。
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