【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

39 緋色 20

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 あー、苛々する。縦抱きにした成人なるひとの頬にちゅっとキスして落ち着くことにした。
 おーおー、嬉しそうだな。ん? 口もか?

緋色ひいろさま、そこまで」

 乙羽おとわに止められた。

「なる、キスは誰も見ていないところでするものよ」

 成人なるひとに言い聞かせられてはお手上げだ。諦めて、頬を擦り合わせるだけにしておく。

「いい顔つきだな、乙羽おとわ」 

 最近、少し肉が付いてきて美貌に磨きのかかった乙羽おとわが軽く口許を緩める。普段はしない化粧をうっすらとしていて、とんでもない美しさだ。
 腕の中の成人なるひとも、少し肉が付いてきた。二人とも、消えそうな心配が無くなってきたようだ。頑張った広末ひろすえにボーナスをやろうか、と考えていると少し気分が浮上する。
 二条家からの呼び出しなど、とっとと済まして帰ろう。
 話し合いという形式を取られたことを、二条はひどく憤っている。

「私どもは殺人事件として、加害者の罪に適切な罰を与えていただけるよう申し立てした筈だが」

 じろりと二条朱木あけぎが睨むが、裁判官に動じた様子はない。

「その申し立てを幾度却下しても申請されるので、仕方なくこのような場を設けた次第。こちらとしては、泉門院せんもんいん乙羽おとわさまにご足労頂いたこと、誠に申し訳なく思っております。緋色ひいろ殿下にもお付き合い頂き、重ねてお詫び申し上げます」

 裁判官は、落ち着いた様子で椅子から立ち上がり頭を下げて、座り直した。二条朱木の顔の怒りの色が濃くなると椅子から立ち上がる。

「この女は」

 そこで言葉を切り、乙羽おとわを指差す。

「我が家の大切な娘の命を見殺しにしたのだぞ」

 そして、大袈裟に顔を両手で覆い、また椅子に座る。

「ああ、可哀想な美羽みはね。一度は治ったのに。治す手段はあったのに。緋色ひいろさまも同罪です。我らから乙羽おとわを隠すということは、美羽を殺す明確な殺意」
「不敬だな。お前に軽々しく呼ばれる名は持ち合わせておらん」

 本当は何とも思っていないが、名に殿下を付けなかった点を細かく指摘してみる。こういう時は朱実あけみのやり口を思い出すといい。口元だけの笑みを貼り付けて、棒読みでない程度の声音で。
 隣に座った成人なるひとの、きょとんとした顔が面白くて笑ってしまいそうだ。
 お、楽しくなってきた。
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