【完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

22 成人 15

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「おい。そろそろ目を覚ませ」

 揺さぶられて、目を開けた。いつの間に寝てたっけ? 布団の感触に頬を擦り付ける。気持ちいい。
 うつ伏せにしてもらっていて、背中も痛くなかった。右手と両足には鎖が繋がっていて裸のままだけど、布団を掛けてくれている。

「おいっ、聞こえているか」

 ほっとして、うとうとしかけたら、また揺さぶられた。
 さっきもいた白衣の人だ。忍部しのぶべ博士と、もう一人。

「みず……」

 喉が乾いたので、言ってみる。掠れた声だけど聞こえたようで、二人が顔を見合わせた。

「やっぱり。意志疎通できますよ、博士」
「これは興味深いな」

 水、くれないのかー。
 ま、布団だから寝れる。

「寝るな。熱は下がっているだろう」

 うるさい人だな、と思っていたら、ストローを口に付けてくれた。水が美味しい。

「名前はあるのか」

 ベッドの横に椅子を置いて、話し始めた。あるよ。言わないけど。

「年齢は?」

 知らん。

「喋れるだろう。知らん顔するな」

 いやいや、年齢は本当に知らないんだって。
 ……何だか常陸丸ひたちまるとのやり取りと似てる。懐かしいな。

「何を笑っているんだ」

 苛々した声。
 ごめん。
 楽しいことを思い出してた。『帰りたい』

「博士。どうします?」
「焦るな、睦峯むつみね。まだ今、挨拶の段階だろう」
「しかし」
「とりあえず、血液の採取と皮膚を少し貰おう。それを調べながら、話しかけてみたらどうだ?」

 カチャカチャと、注射器やメスが用意されていく。ぼんやり見てたら、切実な問題が。

「トイレ」

 大きめの声を出してみる。鎖を外さないといけないとしたら、時間がかかる。そして薬打たれてるから、歩けない。間に合うかな。

「え? え?」

 睦峯むつみねが驚いた顔をしている。

「トイレ!」
「あ、ああ。トイレね」

 大慌てで手枷と足枷を外してくれた。早く、早く。足に力が全く入らないので、横抱きにしてトイレに運んでくれる。
 ま、間に合った……。

「終わった」

 と言うとトイレの扉の向こうから、あー、って叫び声が。何、なに?

「尿も採取すれば良かった」

 ああ、そう。
 睦峯むつみねは、また横抱きで運んでくれながら、軽いな、お前、と呟いた。

「あ、もしかして」
「今度はなんだ」

 忍部しのぶべ博士が採血の準備をしながら聞いた。

「お昼ご飯がいるんじゃないですか」
「……確かに」
「おにぎり一つ残ってましたよね。食べるかな」

 俺をベッドにそっと下ろしてうつ伏せにし、睦峯が出ていく。賑やかだな。
 忍部博士は棚をあさって見つけた、病人用のワンピースみたいな服を着せてくれた。
 部屋の隅には赤虎せきとらが残していった軍人二人が、怖い顔をしてずっと銃を構えていたけれど、忍部博士と睦峯は、手枷足枷をもう一度俺に付ける気は無さそうだった。

 
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