【完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
上 下
31 / 1,321
第二章 人として生きる

13 乙羽 1

しおりを挟む
「お前を作って良かった」

 たぶん、その台詞は二回、聞いている。一回目は、はっきり覚えているわけじゃない。小さかった。褒められた、と思って嬉しかったのと、結局、しんどいのに病院のベッドに一人ぼっちにされて悲しかった、という記憶がある。
 病気の姉が、私の何かを移植して助かったらしい。
 少し大きくなってから、周りの人の話で知った。
 父と母は、本当に嬉しかったのだろう。姉が何かできるようになる度に、それはもう喜んだ。もう大丈夫でしょう、と医者に言われた日は、記念日になった。毎年、回復記念パーティーをするほどの記念日になった。
 私の誕生日は忘れても、回復記念日を忘れることはない。
 そのうち、弟が生まれた。皇家傍系序列二位、二条家の跡取り息子は、赤ん坊の時に、姉と同じ病気を発症した。

「お前を作って、良かった」

 二度も、一人の人間から取り出して良いものだったのか分からない。けれど、私の何かは弟に移植され、弟も助かった。
 私は、移植手術の後、生死の境をさ迷った。父と母は、姉の世話と弟の看病で忙しいので、うつらうつらとして目を開けても、誰も側にはいなかった。
 吉野よしのが、私の世話をすることになったのは、ベッドの上に座れるようになった頃。あまりに誰も来ないので、病院が苦言を呈したのだろうか。看護士の手を煩わせすぎていたのかもしれない。それで、人を雇ったのだろう。そういえば、姉と弟には、はじめから世話役の人間が何人かいた気がする。私は、どうやって育ったのだろう。姉に移植するまでは、そのために大切に育ててもらっていたのだろうか。ま、分からない。
 吉野よしのがきた頃には、私はご飯を食べることを忘れていた。点滴で過ごしていたから、とかそういうことでは無かったらしい。

乙羽おとわさまがいたから、美羽みはねさまと朱空あけそらさまは命を繋ぎました。素晴らしいことです。あなたは、すごい方です。いなくてはならない方です」

 私と同じ年頃の孫がいる、という吉野よしのは、優しく抱きしめてくれて、そう繰り返した。震える声を、不思議な気持ちで聞いていた。吉野よしのが口に入れてくれたお粥は、今まで食べた物の中で一番美味しかった。
 学校は、楽しかった。うちより偉いのは皇家だけらしく、皆ちやほやしてくれる。先生たちには、いい成績を取れば褒めてもらえ、子どもたちには、可愛い、美人だと言ってもらえ、話しかければ、大人も子どもも返事をしてくれる。
 家では、父と母は、私がいることを忘れているのだろう、というほどの扱いで、使用人たちも主人に倣うのか吉野よしの以外とは話すこともなかったので、楽しくて仕方なかった。
 異変は、吉野よしのの息子が戦死した時。葬儀と、孫の斑鹿乃むらかのの世話をしなくてはならなくて、私の世話をお休みした。食事から味が消えた。家の者は、誰も気付かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!

福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。 まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。 優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ… だったなぁ…この前までは。 結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!?? 前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。 今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。

【完結】塔の悪魔の花嫁

かずえ
BL
国の都の外れの塔には悪魔が封じられていて、王族の血筋の生贄を望んだ。王族の娘を1人、塔に住まわすこと。それは、四百年も続くイズモ王国の決まり事。期限は無い。すぐに出ても良いし、ずっと住んでも良い。必ず一人、悪魔の話し相手がいれば。 時の王妃は娘を差し出すことを拒み、王の側妃が生んだ子を女装させて塔へ放り込んだ。

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活

福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…? しかも家ごと敷地までも…… まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか…… ……? …この世界って男同士で結婚しても良いの…? 緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。 人口、男7割女3割。 特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。 1万字前後の短編予定。

【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。

福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。 そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。 理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。 だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。 なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと… 俺はソイツを貰うことにした。 怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息 弱ざまぁ(?) 1万字短編完結済み

処理中です...