余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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五十六

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 そうして、伊之助の元服は予定通りに行われた。
 その日、普段、決まった人間しか訪れることのない良庵の屋敷は、朝から、祝いの品を持った各家からの使いであふれかえることとなった。言いふらしたりなどしたわけではないのだが、有力家はきちんと情報を把握していたようである。小太郎を元服の儀に招待するためのふみを良庵が直井家に出したことで直井家の当主が伊之助の元服を知ったことが、知れ渡った大きな理由であろう。直井家の当主は、仕事場である城で飯原家の当主に祝いを述べたからだ。その様子を見ていた者は、たくさんいたのである。
 そこから、実際の元服の儀がどこで行われるのか、ということをしっかりと把握した家の者たちが、こうして良庵の屋敷に集まってきているようであった。
 朝から玄関の戸は開け放たれて、数少ない使用人たちは目を白黒させていた。儀式後の宴会の料理などは仕出しを頼んであるし、伊之助や良庵、草庵の衣装の支度も専門家に依頼したため、このようなことになるとは予測していなかったのだ。使用人たちは、数少ない見慣れた客の案内と、知らせを出していないからそんなに多くはないだろうと考えていた祝いの品を受け取るだけのつもりであった。
 予定よりかなり早くに余四郎と時行がやってきてくれなければ、屋敷の前にはかなり長めの行列ができていたかもしれない。余四郎と時行の小姓たちが張り切って使いの者たちの相手をしてくれたことで、使用人たちはほっと息を吐くことができた。 

「いつも突っ立っているばかりで、この方々は何をするために若様方についてらっしゃるのかと首を傾げていたもんだけど、今日ばかりはいてくれて助かったよ」

 たみさんが支度部屋でひと息吐きながらぼそりと言った言葉には、聞いていた家の者たちは心の中で深く頷いたのだった。
 飯原家からは、使用人ではなく、身支度を整えた嫡男成正なりまさが、渋柿を噛んだような顔でやってきた。列をなす人々を見て更に顔をゆがめ、どけ、と蹴散らそうとしたことで騒ぎとなる。額に青筋を立てながらにっこりと笑った藤兵衛が表へ出て、成正と便話し合い、祝いの品だけ受け取って帰した。

「今回は内輪での祝いとなりますので、ご招待していない方の参列はお断りしております。申し訳ございませんが、本日はお引き取りください」

 藤兵衛が大きめの声で言ったことで、飯原家が招待されていないことが真実として知れ渡ってしまったのは、飯原家にとっては不測の事態であったことだろう。
 いっそ、他家のように使用人に祝いの品を持たせて済ませば、招待されていなかったのではないか、という憶測で済んだものを、とは、事の次第を聞いた直井家当主のげんであった。 
 支度部屋にいた伊之助の耳に騒ぎが届くことはなく、飯原家からも祝いの品が届いた、とだけ伝えられた。
 伊之助は、飯原家から祝いが届いたことにひどく驚いていた。
 
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