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五十五
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伊之助の兄が伊之助を連れ帰ろうとした後、話を聞いた余四郎や時行、小太郎は警戒を強め、藩校の行き帰りも伊之助と共にするようになった。
藩校へ行く際は、小太郎が良庵の屋敷まで迎えに来る。小太郎には、直井家が付けたお付きと護衛がいる上に、時行が手配した左近も付いていた。そこへ伊之助の護衛の藤兵衛も加わって、とんでもなく大勢での道行きとなった。伊之助の兄だけでなく、誰も、気安く声など掛けられるものではない。
帰りは、若様方に連れられて城へ寄ってから、良庵の屋敷へ戻る形とされた。あまりに恐れ多いと恐縮する伊之助へ、何か事があったらなんとする、と皆が口々に言った。城へ行けば、仕事中の良庵や草庵にも会うこともでき、久しぶりにゆっくりと話をすることができた。事の仔細を聞いた良庵は、うちの伊之助を守ってくださってありがとうございます、と若様方や藤兵衛に深々と頭を下げた。良庵の隣で草庵も同じように頭を下げており、伊之助は何だか胸が詰まる思いだった。若様方は、伊之助を守るのは当たり前だ、と笑った。
そんなわけで、良庵の屋敷への帰りも、時行と余四郎、その小姓と護衛が城から付いてきた。鉄壁の守りである。伊之助には、良からぬことを考える者だけでなく誰も、近寄ることのできない状態となった。
そんな中、朝に、小太郎の弟の進次郎が共にくることがあった。驚いた伊之助が目を丸くして、おはようございます、と挨拶をすると、早起きしたから、とぼそりと言葉が返ってきて、更に驚いた。特に何をするでもなく、小太郎と伊之助の会話を黙って聞いてついてくるだけであったのだが、何を気に入ったのか、その後、度々現れた。そのうち、藩校終わりの良庵の屋敷にも姿を見せるようになり、護衛達や時行、余四郎と剣の稽古をするようになり、そして小太郎とも手合わせするようになり……。やがて、良庵の屋敷にいるのが当たり前のようになっていた。
大勢での道行きに、これまで信次郎と親しくしていた者たちが声を掛けられずにいるのを見た小太郎が、よいのか、と聞くと、信次郎は、む、と眉間にしわを寄せ、あの者たちの話は不快です、聞きたくない、と言った。そうか、と答えて小太郎は信次郎の頭を撫でた。二人は、そこから急に何かが吹っ切れたように笑い合うようになった。
伊之助の父からは、少し体裁を整えた文が、伊之助宛だけでなく良庵宛にも届いた。伊之助の元服は飯原家で行うので、間に合うように戻りなさい、といった内容のものであったが、伊之助も良庵も、一通ごとに丁寧に断りの文を書いた。
屋敷の周りを見知らぬ者がうろついたりもしていたが、伊之助をさらうことはできなかったようである。
藩校へ行く際は、小太郎が良庵の屋敷まで迎えに来る。小太郎には、直井家が付けたお付きと護衛がいる上に、時行が手配した左近も付いていた。そこへ伊之助の護衛の藤兵衛も加わって、とんでもなく大勢での道行きとなった。伊之助の兄だけでなく、誰も、気安く声など掛けられるものではない。
帰りは、若様方に連れられて城へ寄ってから、良庵の屋敷へ戻る形とされた。あまりに恐れ多いと恐縮する伊之助へ、何か事があったらなんとする、と皆が口々に言った。城へ行けば、仕事中の良庵や草庵にも会うこともでき、久しぶりにゆっくりと話をすることができた。事の仔細を聞いた良庵は、うちの伊之助を守ってくださってありがとうございます、と若様方や藤兵衛に深々と頭を下げた。良庵の隣で草庵も同じように頭を下げており、伊之助は何だか胸が詰まる思いだった。若様方は、伊之助を守るのは当たり前だ、と笑った。
そんなわけで、良庵の屋敷への帰りも、時行と余四郎、その小姓と護衛が城から付いてきた。鉄壁の守りである。伊之助には、良からぬことを考える者だけでなく誰も、近寄ることのできない状態となった。
そんな中、朝に、小太郎の弟の進次郎が共にくることがあった。驚いた伊之助が目を丸くして、おはようございます、と挨拶をすると、早起きしたから、とぼそりと言葉が返ってきて、更に驚いた。特に何をするでもなく、小太郎と伊之助の会話を黙って聞いてついてくるだけであったのだが、何を気に入ったのか、その後、度々現れた。そのうち、藩校終わりの良庵の屋敷にも姿を見せるようになり、護衛達や時行、余四郎と剣の稽古をするようになり、そして小太郎とも手合わせするようになり……。やがて、良庵の屋敷にいるのが当たり前のようになっていた。
大勢での道行きに、これまで信次郎と親しくしていた者たちが声を掛けられずにいるのを見た小太郎が、よいのか、と聞くと、信次郎は、む、と眉間にしわを寄せ、あの者たちの話は不快です、聞きたくない、と言った。そうか、と答えて小太郎は信次郎の頭を撫でた。二人は、そこから急に何かが吹っ切れたように笑い合うようになった。
伊之助の父からは、少し体裁を整えた文が、伊之助宛だけでなく良庵宛にも届いた。伊之助の元服は飯原家で行うので、間に合うように戻りなさい、といった内容のものであったが、伊之助も良庵も、一通ごとに丁寧に断りの文を書いた。
屋敷の周りを見知らぬ者がうろついたりもしていたが、伊之助をさらうことはできなかったようである。
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