余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十二

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 そうして、伊之助の元服に向けての準備は着々と進んでいった。たみさんは、先生が何とかするだろうさ、と言っていたのにも関わらず、しっかりと自分で元服のことを調べて、諸々の必要な品を揃えてみせたのだ。かかった費用を気にする伊之助に、安く手に入れる方法はいくらでもあるんだよ、なんてことも教えてくれた。 

「質屋で聞けば、驚くほどたくさん出てきたよ。儀式用の鏡や櫛、切った髪を入れる器なんて、買い取りでなく借用にすれば、大した額でもない」

 烏帽子は流石に新調したけどね、と笑うたみさんはもう、伊之助や良庵、草庵より武家の元服に詳しいようだった。

「烏帽子?」
「ああ。最近は準備しない家も増えているようだけど、お城で殿様に会うような身分の家の若様には必要なんだそうだよ。伊之助ちゃんはお城の若様の許婚だろ? 男同士だから形だけかもしれないけどさ。お城に上がって殿様の前に出る機会があるのは間違いないからね。作って持っておくに越したことはない」

 先日、余四郎の口からはっきりと、伊之助との婚約を無かったことにする気はないと聞いたばかりだ。余四郎と離れる覚悟ではなく、ずっと共に居る覚悟を決めた伊之助は、それは必要なものだと頷いた。殿様の前に出ることは、そりゃあ、あるだろう。なにせ伴侶となる人の親が殿様なのである。

「たみさん、ありがとう」
「やだよ、伊之助ちゃん。頭を上げておくれ。子どもは何にも気にせずに、このたみさんに、どーんと任せておけばいいんだよ」

 とはいえ、そんなたみさんにもできないことはある。

「招待客への手紙は先生が書いておくれよ。あたしにゃそれは無理だよ」
「招待客?」

 首を傾げた良庵の背中を、たみさんがばんばん叩く。

「しっかりしてくださいよ、先生。たとえ、いつもの坊ちゃん方しか招かないとしても、ちゃあんと招待してこそ格式が上がるってもんでしょう?」
「な、なるほど……」
「伊之助ちゃんの実家にも送るんですよ」
「はは。それならもう送ったぞ」
「おや」 

 え? と伊之助も耳をそばだてる。

「伊之助のことは、療養のために預かっているというていだからな。定期的に文を送っている。返事が来たことはないが問題ない。こちらからのせねばならぬことをしっかりしておけば、何か事が起こっても言い訳が立つってものだ」
「見直しましたよ、先生」

 たみさんは、良庵の背をまた、ばんっと叩いた。
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