余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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四十一

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 伊之助の元服をこの屋敷でするのだと聞いて、張り切ったのは使用人のたみさんである。

「先生の御用達のところで衣装を仕立てたんじゃ、ちと格が落ちるかねえ」
「いや、たみさん。あそこでいいじゃねえか。腕が抜群なのは間違えねえだし、格もくそもあるもんかい」

 真剣な顔で考え込む、使用人最年長のたみさんに言葉を返したのは、唯一の男の使用人、寅次郎である。

「伊之助ちゃんの一世一代だよ、寅坊。適当なこと言うもんじゃないよ」

 もう三十路に手が届こうかという寅次郎だが、たみさんにかかったらまだ寅坊らしい。

「適当なことなんて、言っちゃいねえよ、たみさん。おれぁ、あそこの腕が良いから、あそこでいいってぇ言ってんだよ」
「腕がいいのは当たり前さ。だからいつも、城へ上がる先生の衣装だって仕立ててもらってんだからね! そこら辺のえばりくさった武家御用達になんて負けちゃいないのは、よぉく知ってんだよ。ほつれた衣装の手直しをしてるのはあたしなんだからさ。でもさ、元服だよ、元服。ありゃあ、武家にとっちゃ大変に大切な行事だって言うじゃないか? そんな大変に大切な行事ごとの衣装を、武家の御用達じゃないとこで作った、なんて言われてケチがつくのも嫌なもんじゃないかい? ちぃとは調べないといけないよ」
「たみさん。あたしたち、武家の元服の時に揃えなきゃならないもんなんて、何にも知らないけど·····」
「先生がやるって言ってんだから、先生がなんとか揃えるんだろうさ。まずは衣装だよ、うめ。他のことは後で、遊びに来た坊ちゃん方に聞いたらいいさ。時間がかかるのは、なんたって衣装なんだから。ほら、三の若様が、最近元服なさったって仰ってただろ? お聞きするのにちょうどいいよ」
「宴会とか、したりするんですかね? あたし、お偉いさんの給仕やお酌なんてようしないですよ。どうしましょう、たみさん」

 おろおろと心配事をあげつらうのは最年少のうめだ。

「宴会! そうだ、宴会の手配もしないとね。目出度いことだもの。仕出しを頼むか、それとも料亭を予約するか·····。坊ちゃん方が来なさるだろうから、仕出しかね。あすこはどうだい? ほら、あの、あすこの角の老舗。あたしはもちろん食べたことないけど、店はいつも予約で一杯だって言うじゃないか。ここまで仕出しを頼めないか聞いてみようかね、それから·····」
「あの、たみさん。その、あまり先生のお金をたくさん使わずに済む方法で·····」
「だーいじょうぶだよ、伊之助ちゃん。ああ見えて、先生は御典医なんだから。心配ない、心配ない」

 張り切るたみさんを止められる者は誰もいない。
 
 
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