余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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二十

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「あなたのそんな顔は、初めて見ました」

 どんな顔だろう? と伊之助は首を傾げる。

「住む場所が突然変わっても何を言うこともなかったし、夜に泣くでもない。ひどい怪我をしているのに、治療している時は痛いはずなのに、痛いとか辛いとか、そういったことを何も言わない。……その怪我の具合から見て、まあ、ご実家での様子は察するものがあるのですが」
「え……と?」
「そんなあなたにも、会いたい人がいるんですね」
「あ、うん……」

 会いたい……。そうだな、寺子屋の皆に会いたいな。一番小さい善吉は伊之助にべったりで、文字が上手に書けないと言っては、伊之助に手を持ってもらいたがった。座る善吉の後ろに立って、筆を一緒に持って一緒に動かすと、とても上手に書けて、善吉は大喜びするのだ。師範が、善吉、そうして伊之助に手を持ってもらってばかりいては、いつまでも、一人で上手に書けるようにはならんぞ、と言うところまでが思い浮かんで、伊之助はそっと笑った。周りで、やーい、善吉の甘えん坊、と騒ぐ仲間たちまで頭の中には浮かんできている。

「会いたい……です」
「そう、ですか……」

 草庵は、うーん、と唸った。

「うちの先生にも相談してからになるけれど、もう少ししっかりと腕を固定すれば、外を歩き回っても大丈夫なはず……。後は、あなたのご実家に相談して、お付きの家人を寄越してもらって……」
「え?」
「え?」
「家人って……?」
「寺子屋へ、となると、一番近えとこでもかなりな距離です。共に行っていた家人がいるでしょう?」
「あ、いえ……」
「……」

 驚く草庵に、伊之助の方が驚いてしまった。

「そ、そうか。まあ、そうか……。今も、急にここに連れて来て帰さなくても、何一つ言ってきてないもんな。様子伺いの家人が来たとも聞かないし……」

 ぶつぶつと、何か呟きだした草庵の様子に不安になって、伊之助は言葉を重ねる。

「あの、最初の方は連れて行ってもらってました。でも、行き来にちと時間がかかるんで、誰かが、そっちの方に用がある時しか行けなくて。どうしても行きたくて、寺子屋に行きたい、って言ったら、一人で行くなら勝手に行って来たらいい、って言ってもらったんです。だから、それからは一人で行ってました」
「……」
「あの。だから、一人で行けます。多分。もともと住んでた場所がどのあたりかだけ教えてもらえば、それで大丈夫です。迷惑はかけません」
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