余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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十二

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 また明日、と言った小太郎は、本当に翌日もやってきた。兄の渋い顔など物ともせず、けろりと伊之助の寝ている部屋に居座る。兄は、小太郎を伊之助の寝ている部屋に案内した後、勝手にしろ、と言うと、すぐに出て行った。
 伊之助は、普段通りに、屋敷の使用人部屋の一角に置かれている。狭く日当たりの悪い場所だ。あまり、兄と対等な身分のお客様を通すような部屋ではないなあと、少しだけ伊之助は申し訳なくなった。一応、使用人部屋の中でもましな方の一人部屋ではあるのだが。

「伊之助殿、少しは何か食べられたか?」

 枕元に置かれた粥をじっと見ながら、小太郎が言う。粥が減っていないことは見れば分かるので、伊之助は正直に首を横に振った。
 女中が来た時に寝ていたので、置いて行かれたものらしい。目を覚まして、粥が置いてあることに伊之助は気付いていた。食べたかったのだが、体が痛くて身を起こすことができず、あきらめたのだ。もともと、伊之助の世話係はこの家にはいない。ごく小さな頃は、まだ生きていた母が世話をしてくれていたらしいが、伊之助が物心ついた頃には母はもういなかった。
 つまり今、動けない伊之助を世話するためには、使用人たちは、普段の仕事に加えて伊之助の世話をするということになってしまう。どうしても後回しになるのは仕方ない、と分かっている。それでも、誰や彼やと部屋をのぞいては水や薬を飲ませてくれて、下の世話もしてくれているようだった。ありがたいことだ、と思う。これ以上、わがままなど言えやしない。
 だが、首を横に振った伊之助に嘆息した小太郎は、小太郎に茶を運んできた女中をつかまえて言った。

「私に茶を出す暇があるなら、伊之助殿に食事を取らせて、体を拭いてやれ。布団も、汗や湿布薬で湿っている。替えの布団に寝かせてやらないと、せっかく下がってきた熱がぶり返してしまうぞ」
「は、はい!」

 女中は、小太郎に一度平伏してから、伊之助をそっと起こして支えてくれた。動いたことで体中が痛んだが、伊之助は歯を食いしばって耐えた。
 小太郎は、覚束ない手つきで、冷めた粥を伊之助の口に運んでくれた。一口食べるたびに、よく食べた、偉い、と褒めてくれるので、伊之助は何だか笑ってしまった。小太郎もにこにこと笑っていて、綺麗な人だな、と見惚れた。
 食後に口に入れられた煎じ薬は、とても苦かった。
 布団も、あっという間に湿っていないものに取り替えられた。動いたことで体のあちこちがひどく痛んでいるのに、何だかふわふわと眠たくなってきた。まだもう少し、小太郎さまと話がしたかったのに、と残念に思いながら、伊之助は瞼を閉じてしまう。
 おやすみ、また明日という小太郎の声が聞こえた気がした。
 
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