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シリルは、学園で自分の席へ着くと、隣の席でいそいそと筆記用具を置くリュシルを眺める。
布の筆入れに入っている文具を、嬉しそうに出し入れしている。令嬢たちが持つような華やかなものではなく、シンプルな青の文具ばかりだったが、頬はゆるみっぱなしだ。
朝、指導された侍従としてのポーカーフェイスは、早速崩れている。
それを眺めるシリルもすっかり頬が緩んでいて、マクシムは微笑ましく見てから教室を出た。授業中は、廊下に立って警戒するだけである。
「兄上、その子は?」
教室の中が学生だけになると、すぐにシャルルが話しかけてきた。
「新しい侍従だ。」
瞬時に無表情に戻り、シリルが答える。
「授業を受けるのですか?」
「ああ、見習いだ。年齢も同じなので、共に授業を受けることにした。リュカだ。」
「リュカ・リシャールと申します。シャルル殿下。」
リュシルは立ち上がり、丁寧に侍従の礼を取る。シャルルはまじまじとリュシルを眺めた。
「ずいぶんと線の細い侍従なのですね。」
「そうかもな。」
今日もシリルの素っ気ない様子に、また近くにいた側近候補の侯爵令息が顔を険しくする。
「差し出がましいようですが、そのような形で、殿下のお世話が勤まりますので?」
「ジャン、何を言っているんだ?兄上、申し訳ありません。私の友人が失礼なことを……。」
「いや。別に?」
「あなたは。何故、いつもいつも、シャルル殿下にそのように短い返事しか返されないのです?せっかく、お声を掛けていらっしゃるのに。」
「……兄弟の会話に、何か余計な配慮がいるのか?他人じゃあるまいし。」
弟に愛想笑いする気は全く無いシリルは、いつも通り無表情にそう答えたが、なぜかシャルルは嬉しそうに笑って、
「リュカ、兄上のことをよろしくね。」
と言うと、自分の席へ戻っていった。
穏やかに日々は過ぎていった。学園で習うようなことは、入学前に学習し終えているシリルにとって、授業はつまらないものだったが、一生懸命勉強しているリュシルが可愛くて、眺めているのが楽しかった。
食事もしっかり取れて、夜も眠れて、体格も良くなってきた第一王子には、声をかける令嬢も現れ始めた。シリルには、ただただ面倒くさいばかりだったので、相変わらずの素っ気ない対応であったが、それがまたクールで素敵と評判になるほどである。
そんな中、学園に入って初めての試験が行われた。リュシルが頑張っているので、教えながら一緒に勉強していたシリルは、学年首席、真面目で勉強熱心なリュシルは三位、第二王子シャルルは七位という結果が出た日の夜、また、食べられないもの、がスープに混じっていた。
「しまったな……、つい、普通に試験を受けてしまった。私もリュシルも少し手を抜くべきだったな。」
「申し訳ございません、殿下。」
「いや、リュシルは頑張った結果なのだから、誇っていいよ。」
寮の部屋で落ち込む二人に、食後のケーキが差し出される。え?と、顔を上げると、
「お祝い。試験結果一位と三位だったんだろ?」
と、侍従姿のバジルがウインクした。
「すごいよ、二人とも。胸を張れ。」
分かりやすい称賛と祝いの品に、少し気分が浮上する。
「俺なんて学園のとき、大変だったぜ。何とか追試は逃れようと頑張ってたくらいだ。」
トリスタンがいないと途端に侍従のふりが崩れてしまうバジルの話を聞きながら、ケーキを堪能する。
リュシルがいれば、たとえ毒を入れられたとしても、口にはしないのだから大丈夫だ。次の試験で二人して手を抜いたとて、今さらだろう。シャルルの下の順位であろうとするのが、どのくらい手を抜けばよいのかも分からない。
よし、とシリルはケーキを食べながら、このまま過ごすことを決めた。
リュシルの目があれば、大丈夫。
布の筆入れに入っている文具を、嬉しそうに出し入れしている。令嬢たちが持つような華やかなものではなく、シンプルな青の文具ばかりだったが、頬はゆるみっぱなしだ。
朝、指導された侍従としてのポーカーフェイスは、早速崩れている。
それを眺めるシリルもすっかり頬が緩んでいて、マクシムは微笑ましく見てから教室を出た。授業中は、廊下に立って警戒するだけである。
「兄上、その子は?」
教室の中が学生だけになると、すぐにシャルルが話しかけてきた。
「新しい侍従だ。」
瞬時に無表情に戻り、シリルが答える。
「授業を受けるのですか?」
「ああ、見習いだ。年齢も同じなので、共に授業を受けることにした。リュカだ。」
「リュカ・リシャールと申します。シャルル殿下。」
リュシルは立ち上がり、丁寧に侍従の礼を取る。シャルルはまじまじとリュシルを眺めた。
「ずいぶんと線の細い侍従なのですね。」
「そうかもな。」
今日もシリルの素っ気ない様子に、また近くにいた側近候補の侯爵令息が顔を険しくする。
「差し出がましいようですが、そのような形で、殿下のお世話が勤まりますので?」
「ジャン、何を言っているんだ?兄上、申し訳ありません。私の友人が失礼なことを……。」
「いや。別に?」
「あなたは。何故、いつもいつも、シャルル殿下にそのように短い返事しか返されないのです?せっかく、お声を掛けていらっしゃるのに。」
「……兄弟の会話に、何か余計な配慮がいるのか?他人じゃあるまいし。」
弟に愛想笑いする気は全く無いシリルは、いつも通り無表情にそう答えたが、なぜかシャルルは嬉しそうに笑って、
「リュカ、兄上のことをよろしくね。」
と言うと、自分の席へ戻っていった。
穏やかに日々は過ぎていった。学園で習うようなことは、入学前に学習し終えているシリルにとって、授業はつまらないものだったが、一生懸命勉強しているリュシルが可愛くて、眺めているのが楽しかった。
食事もしっかり取れて、夜も眠れて、体格も良くなってきた第一王子には、声をかける令嬢も現れ始めた。シリルには、ただただ面倒くさいばかりだったので、相変わらずの素っ気ない対応であったが、それがまたクールで素敵と評判になるほどである。
そんな中、学園に入って初めての試験が行われた。リュシルが頑張っているので、教えながら一緒に勉強していたシリルは、学年首席、真面目で勉強熱心なリュシルは三位、第二王子シャルルは七位という結果が出た日の夜、また、食べられないもの、がスープに混じっていた。
「しまったな……、つい、普通に試験を受けてしまった。私もリュシルも少し手を抜くべきだったな。」
「申し訳ございません、殿下。」
「いや、リュシルは頑張った結果なのだから、誇っていいよ。」
寮の部屋で落ち込む二人に、食後のケーキが差し出される。え?と、顔を上げると、
「お祝い。試験結果一位と三位だったんだろ?」
と、侍従姿のバジルがウインクした。
「すごいよ、二人とも。胸を張れ。」
分かりやすい称賛と祝いの品に、少し気分が浮上する。
「俺なんて学園のとき、大変だったぜ。何とか追試は逃れようと頑張ってたくらいだ。」
トリスタンがいないと途端に侍従のふりが崩れてしまうバジルの話を聞きながら、ケーキを堪能する。
リュシルがいれば、たとえ毒を入れられたとしても、口にはしないのだから大丈夫だ。次の試験で二人して手を抜いたとて、今さらだろう。シャルルの下の順位であろうとするのが、どのくらい手を抜けばよいのかも分からない。
よし、とシリルはケーキを食べながら、このまま過ごすことを決めた。
リュシルの目があれば、大丈夫。
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