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十七 良くない報せ
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「おこうさんとかよさんが、武家屋敷へ招かれて出かけたまま帰らない」
与兵衛長屋へもたらされた報せは、良い報せでは無かった。どうしても断れぬ頼まれごとだということで、稽古は昨日、一日休みとなっていた。報せをもたらしたのは、おこうとかよが住む長屋の者である。朝にも二人がいないことを不審に思ってはいたが、遅くなって泊まりであったのだろうと考えていた。なれど、稽古の時刻となって弟子たちが来ても姿は見えぬ。
よくよく思い出してみれば、おこうは長くあの長屋で教室を開いているが、どんなに遅くなっても他所に泊まったことなど無かったという。
「稽古を何日も休ませてやる気はないよ」
必ずそう言って笑っていたのだという。そういえば、と今更ながら報せをもたらした女は言う。武家屋敷などへ演奏に出かける時はいつも、長くおこうの弟子であった男がついていた。その男弟子も大した腕であったから、何のおかしな事もない、と受け入れられていたのだという。
だが、此度はおこうとかよの二人で出かけた。
昔から懇意にしている所だから心配ない、とおこうは言っていたという。
本当に心配ないのかもしれない。しかし、おつのやおそめ、おみつへの稽古は本日はできないとの連絡がてら、どうしても松木に連絡せねばと与兵衛長屋へ回ってくれたようだ。
「その武家屋敷は何処か分かるかい?」
共に話を聞いていたおかめが、女に尋ねる。女は、力無く首を振った。
「おこうさんは、自分の話はほとんどなさらないからねえ」
「その男弟子は?」
「もう半年以上も前から、とんと姿を見ていないんだ」
「住まいは?」
「それも」
女は頭を振るばかり。
「武家屋敷の方を探ってみるしかないな」
田端の言葉に、松木はすぐに駆け出した。
「おい。待て!」
田端も、すかさず後を追う。待てと言われて待てるはずもなく、ただひたすらに武家屋敷の立ち並ぶ辺りへと松木は走っていった。
「こちらに来たからって……」
息を切らした田端をよそに、一目散に綾ノ部藩の江戸屋敷へとたどり着く。
「な、何事でござる?」
基本的には長屋暮らしの二人とはいえ、定期的に屋敷に顔は出している。誰だ、と止められることは無かった。
「昨日、三味線の音が聞こえていた屋敷を知らぬか」
「行ってどうする?」
尋ねて回る松木の肩を田端が掴む。
「行って……?」
それは、何も考えていなかった。兎に角、無事を確かめたい、とそればかりであった。
「角館藩の屋敷から、素晴らしい箏と三味線の音が聞こえていた。あの演者をうちにも招きたいものだと、評判になっていた」
他の屋敷に乗り込むことなど、できぬ。
与兵衛長屋へもたらされた報せは、良い報せでは無かった。どうしても断れぬ頼まれごとだということで、稽古は昨日、一日休みとなっていた。報せをもたらしたのは、おこうとかよが住む長屋の者である。朝にも二人がいないことを不審に思ってはいたが、遅くなって泊まりであったのだろうと考えていた。なれど、稽古の時刻となって弟子たちが来ても姿は見えぬ。
よくよく思い出してみれば、おこうは長くあの長屋で教室を開いているが、どんなに遅くなっても他所に泊まったことなど無かったという。
「稽古を何日も休ませてやる気はないよ」
必ずそう言って笑っていたのだという。そういえば、と今更ながら報せをもたらした女は言う。武家屋敷などへ演奏に出かける時はいつも、長くおこうの弟子であった男がついていた。その男弟子も大した腕であったから、何のおかしな事もない、と受け入れられていたのだという。
だが、此度はおこうとかよの二人で出かけた。
昔から懇意にしている所だから心配ない、とおこうは言っていたという。
本当に心配ないのかもしれない。しかし、おつのやおそめ、おみつへの稽古は本日はできないとの連絡がてら、どうしても松木に連絡せねばと与兵衛長屋へ回ってくれたようだ。
「その武家屋敷は何処か分かるかい?」
共に話を聞いていたおかめが、女に尋ねる。女は、力無く首を振った。
「おこうさんは、自分の話はほとんどなさらないからねえ」
「その男弟子は?」
「もう半年以上も前から、とんと姿を見ていないんだ」
「住まいは?」
「それも」
女は頭を振るばかり。
「武家屋敷の方を探ってみるしかないな」
田端の言葉に、松木はすぐに駆け出した。
「おい。待て!」
田端も、すかさず後を追う。待てと言われて待てるはずもなく、ただひたすらに武家屋敷の立ち並ぶ辺りへと松木は走っていった。
「こちらに来たからって……」
息を切らした田端をよそに、一目散に綾ノ部藩の江戸屋敷へとたどり着く。
「な、何事でござる?」
基本的には長屋暮らしの二人とはいえ、定期的に屋敷に顔は出している。誰だ、と止められることは無かった。
「昨日、三味線の音が聞こえていた屋敷を知らぬか」
「行ってどうする?」
尋ねて回る松木の肩を田端が掴む。
「行って……?」
それは、何も考えていなかった。兎に角、無事を確かめたい、とそればかりであった。
「角館藩の屋敷から、素晴らしい箏と三味線の音が聞こえていた。あの演者をうちにも招きたいものだと、評判になっていた」
他の屋敷に乗り込むことなど、できぬ。
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