9 / 42
第二章 ~『八咫烏』参入編~
9
しおりを挟む「出会ったのが浅草でよかった。――なにせ妖魔伏滅機関『八咫烏』の本部は、ここ東京にありますからね」
風が吹き去る。景色が過ぎ去る。機械の唸る音がするたび、街並みを高速で抜けていく。
今、俺たちは“自動二輪”なる乗り物に跨って走っていた。
あ、ちなみに俺は清明さんの後ろに乗り、気絶した蘆屋は天草さんに括り付けられた状態だ。
「すごいですね、バイクって」
うーん速い速い。噂には聞いてたが、座ってるだけでこんなに速く走れるのか。二輪ってすごい。
平賀も足に二輪つけてたし、俺もつけようかなぁって思った。
「陰陽師は多忙な仕事。それゆえ悪路でもすぐに踏破できるような、軍用バイクの改造品が与えられているんですよ。シオンくんも陰陽師になれば貰えますよ」
「足に車輪を付けることはできますか?」
「えっ!? ……うーーん……人間の技術力だと、ちょっと無理かもですね……」
難しい顔をしてしまう天草さん。
なるほど、平賀の技術力はそれだけ優れているということか。
「まぁいつかは人に埋め込める機械も出来るでしょうが、段階を踏んで人々に理解をさせて欲しいですね。……その点、狂った先鋭品を撒く妖魔平賀はまずい。元は罪人ながらも偉大な発明家だったとされていますが、今は完全にタガが外れている」
――ゆえに必ず討ち取らなければ、と。天草さんは強く呟いた。
「やる気あるんですね、天草さん」
「いや、私なんて最低限ですよ。陰陽師の中には妖魔への復讐を誓った者も多い。そんな方たちに比べたら――あぁ」
ふと、天草さんは前を見上げた。
俺も釣られてそちらを見ると、そこには大きくて立派なお城が。
「見えましたよ。あれこそ、皇居にして現政府の中心。かつて江戸城と呼ばれた存在」
近づくほどに感じる偉容。白き城壁が目に眩しい。
「そして、我々『陰陽師』たちの本部――東京城です」
その厳めしい城門へと、俺たちは向かっていった。
◆ ◇ ◆
「ま、陰陽師はあくまで機密の存在。正確には城の地下が本部なんですけどね」
「はえー」
天草さんと二人、『自動昇降機』なる箱に乗って地下へ地下へと向かっていく。
ちなみに、清明さんは「蘆屋くんを治療しないとねッ!」と言って彼を抱えてどっかに消えた。
その後ろ姿に、天草さんは「逃げたなアイツッ……!」と唸っていたが。
どうやら清明さん、仕事をさぼって放浪中だったらしい。
「我ら陰陽師の服装がスーツなのも、政府機関内を出歩く際、役人に擬態するためなんですよ。……まぁ、清明のようなちゃらんぽらんな男が役人なワケないんですけどね」
「清明さんのこと怒ってます?」
「別に。アレの任務を私がするコトになりましたが全然怒ってないですよ」
「はえー」
顔が完全に怒っていた。
「……ただ、清明には先祖伝来の『人の才能を見抜く眼』がありますからね。それゆえ人材発掘も彼の仕事。そう考えたら、天才を見つけてきた時点で組織に大いに貢献してるんですよねぇ」
ゆえに怒るに怒りづらいと、天草さんはお腹をさすりながらぼやいた。
その仕草気持ちいいのかなぁと思い、肩に座ってる九尾のお腹を撫でたら『なにするーッ!』と噛まれた。痛い。でも九尾に歯形を付けられて幸せ。
「とにかく天草さん、大変なんですね」
「ええ、大変なんですよ。それにこれから、浅草で暴れた件と――アナタの存在を、報告しなきゃですしね」
「?」
と、そこで。エレベーターの箱がガタッと揺れて止まった。
一番下についたようだ。鉄の扉が、ゆっくりと自動で開いていく。
そして。
「おぉぉ……!」
目の前に広がったのは、日の光が差す桜並木に囲まれた庭園付きの大屋敷だった。
なんだここは、どうなってるんだ。地下なのに空があるぞ。太陽があるぞ。空気だって美味しいぞ。
「九尾のいたとこは空気まずかったのに……」
『まずくて悪かったなッ!?』
「おお」
うっかり九尾を怒らせてしまったのでナデナデする。
あそこの空気はまずかったけど、お前の脳みそは美味しかったよと告げると『ヒュッ!?』と黙ってしまった。許してくれたようだ。
「本部は天下の大陰陽師、安倍晴明が創り上げた疑似世界でしてね。人に巫装を発現させる『陰陽魚』といい、かの存在も平賀と同じく凄まじい技術者だったようです」
「なるほど。清明さんのご先祖、すごかったんですね」
「まぁ清明はアホですけどね」
「怒ってます?」
「別に」
やっぱり完全に怒っていた。
「ふぅ。ではシオンくん、少々申し訳ないですが――組織の方針で、アナタを拘束させてもらいます」
ぱん、と天草さんは手を叩いた。すると俺の両側に黒ずくめの者らが現れ、腕をがっちり握られてしまう。
何だこの人たち? 黒い鳥の仮面被ってるし怪しそうだぞ。
「ふむ」
この状況はもしや……やり返し案件、発生か?
「なぁ天草さん。これは――俺を殺そうと思ってのことか?」
「ッ!? ……いえ、違います。これは、妖魔と混ざっているらしきアナタを、健康診断するためですよ……」
「なんだ」
健康診断か。それならむしろ良いことだな。どうやら『八咫烏』という組織は正義の組織らしい。
俺はいいところにきちゃったな~と思いました。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
if 大坂夏の陣
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話になりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
仇討ちの娘
サクラ近衛将監
歴史・時代
父の仇を追う姉弟と従者、しかしながらその行く手には暗雲が広がる。藩の闇が仇討ちを様々に妨害するが、仇討の成否や如何に?娘をヒロインとして思わぬ人物が手助けをしてくれることになる。
毎週木曜日22時の投稿を目指します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる