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優しさってなんだろう?
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「形勢逆転だな」
俺は盗賊のリーダーに言う。
まあ、もともと盗賊が有利になどなっていないから逆転でも無いが。
「うあぁあああああぁぁああっ!!」
盗賊のリーダーは悲鳴を上げて逃げ出す。
イリスを人質に取らずに逃げたのは賢明な判断だと言えるだろう。
人質を取っても無駄だし、更に俺を怒らせるだけだからな。
どうやら悪党も学習はするようだ。
しかし悪党というのは改心しない。
悪党にとっての改心というのは擬態に過ぎないのだ。
≪氷結魔法発動(アイス・マジック・オン・)・自縛氷柱(オウン・ロック・アイスィクル)!≫
パキ……パキパキ……。
逃げ惑う盗賊のリーダーの足元から霜柱が広がる。
「なっ、なんだぁ!?」
そしてその霜柱は奴の身体を隈なく覆い、身動きが取れなくなる。
「やめろっ!やめてくれっ!!金なら幾らでも出すっ!!」
奴は俺を買収するつもりらしい。
「やめろっ!こ、この、人殺……し……」
パキパキ……キイィィィン……!
霜柱は全身を覆い尽くし、膨張して巨大な氷柱となって屹立した。
「人殺し?そりゃあお前らだろうが」
俺は奴の捨て台詞に言葉を返した。
もっとも、すでに声は届かないだろうが。
「怪我は無いか?イリス」
俺はイリスに歩み寄る。
「ソウタさまっ!」
イリスは俺に抱き付く。
イリスの薄紅色の髪はサラサラとしていて良い香りがした。
肌も柔らかい。
これだよ、これこれ。
あぁ~、癒される。
魔族は大体がゴツゴツした身体か、ヌメヌメとした身体だった。
匂いだってそうだ。
イリスのそれは『香り』で、俺のにおいは『匂い』だ。
魔族のにおいは『匂い』じゃなくて『臭い』。
そんで黒板を爪で引っ掻いたような声だったり、ドリルで硬い物を掘削しているような声だったりする。
イリスの声は耳に優しい。
「うっ、うううぅう……」
イリスは泣き声を堪える。
エメラルドの瞳に涙が滲み、その輝きは一段と増す。
「もう安全だ。心配ない」
俺はイリスの桜色の髪を撫でる。
サラサラしている。気持ち良い。
クッションとかの比じゃないな、これは。
クッションなんて異世界召喚されてからは一度も触って無いけど。
「申し訳ありませんっ!」
イリスは俺に謝る。
「なにが?」
俺は聞き返す。
「わ、わたしが足手まといになったせいで、ソウタさまにご迷惑を……」
イリスは自分の事よりも他人の心配をする性格らしい。
「別に足手まといになってないから」
これは事実だ。
「どっ、どうして……どうしてソウタさまはこんなに優しいんですか……?」
それはイリスが超絶かわいい美少女だからだよ、とは言えなかった。
彼女のエメラルドの瞳から向けられる純真な眼差しに対してそんな野暮な答えは出来ない。
「いいかい?イリス。人は優しいんだ。ただ、魔族の脅威や人間同士の争いのせいで心が荒んでしまっているだけなんだ。俺には力がある。だから俺の力で人々に優しさを取り戻させたいと思う」
これは気取って言っている訳では無く、わりとガチめの回答だ。
人間の世界を忘れていたが、イリスと出会って心境が変化した。
俺も人間だったということらしい。
根っからの悪党は許さないけどね。
「あ、ありがとうございます……。わたしもソウタさまのご期待に応えられるように頑張ります」
イリスは初めて笑顔を見せた。
俺はドキッとする。
結局のところ、こういうのに弱いのよね。俺は。
「いや、イリスは元から優しいよ。人質に取られた時に、自分よりも俺を優先しただろ?それにさっきだって、自分が無事だったことよりも俺に対する言葉が出てきたし」
俺は照れくささもあり口がよく動いた。
「わ、わたしは優しくなんて……」
イリスは謙遜する。
「いや、イリスは優しいよ。俺が保障する」
俺はイリスを真っ直ぐに見て言った。
「そ、そうでしょうか?ソウタさまが仰るのなら……」
イリスは顔を赤くして目を泳がせる。
俺も顔が赤くなっている気がした。
鼓動が高鳴り、身体が熱くなる。
青春ってこんな感じだったんだろうか?
甘酸っぺぇ~。
俺は盗賊のリーダーに言う。
まあ、もともと盗賊が有利になどなっていないから逆転でも無いが。
「うあぁあああああぁぁああっ!!」
盗賊のリーダーは悲鳴を上げて逃げ出す。
イリスを人質に取らずに逃げたのは賢明な判断だと言えるだろう。
人質を取っても無駄だし、更に俺を怒らせるだけだからな。
どうやら悪党も学習はするようだ。
しかし悪党というのは改心しない。
悪党にとっての改心というのは擬態に過ぎないのだ。
≪氷結魔法発動(アイス・マジック・オン・)・自縛氷柱(オウン・ロック・アイスィクル)!≫
パキ……パキパキ……。
逃げ惑う盗賊のリーダーの足元から霜柱が広がる。
「なっ、なんだぁ!?」
そしてその霜柱は奴の身体を隈なく覆い、身動きが取れなくなる。
「やめろっ!やめてくれっ!!金なら幾らでも出すっ!!」
奴は俺を買収するつもりらしい。
「やめろっ!こ、この、人殺……し……」
パキパキ……キイィィィン……!
霜柱は全身を覆い尽くし、膨張して巨大な氷柱となって屹立した。
「人殺し?そりゃあお前らだろうが」
俺は奴の捨て台詞に言葉を返した。
もっとも、すでに声は届かないだろうが。
「怪我は無いか?イリス」
俺はイリスに歩み寄る。
「ソウタさまっ!」
イリスは俺に抱き付く。
イリスの薄紅色の髪はサラサラとしていて良い香りがした。
肌も柔らかい。
これだよ、これこれ。
あぁ~、癒される。
魔族は大体がゴツゴツした身体か、ヌメヌメとした身体だった。
匂いだってそうだ。
イリスのそれは『香り』で、俺のにおいは『匂い』だ。
魔族のにおいは『匂い』じゃなくて『臭い』。
そんで黒板を爪で引っ掻いたような声だったり、ドリルで硬い物を掘削しているような声だったりする。
イリスの声は耳に優しい。
「うっ、うううぅう……」
イリスは泣き声を堪える。
エメラルドの瞳に涙が滲み、その輝きは一段と増す。
「もう安全だ。心配ない」
俺はイリスの桜色の髪を撫でる。
サラサラしている。気持ち良い。
クッションとかの比じゃないな、これは。
クッションなんて異世界召喚されてからは一度も触って無いけど。
「申し訳ありませんっ!」
イリスは俺に謝る。
「なにが?」
俺は聞き返す。
「わ、わたしが足手まといになったせいで、ソウタさまにご迷惑を……」
イリスは自分の事よりも他人の心配をする性格らしい。
「別に足手まといになってないから」
これは事実だ。
「どっ、どうして……どうしてソウタさまはこんなに優しいんですか……?」
それはイリスが超絶かわいい美少女だからだよ、とは言えなかった。
彼女のエメラルドの瞳から向けられる純真な眼差しに対してそんな野暮な答えは出来ない。
「いいかい?イリス。人は優しいんだ。ただ、魔族の脅威や人間同士の争いのせいで心が荒んでしまっているだけなんだ。俺には力がある。だから俺の力で人々に優しさを取り戻させたいと思う」
これは気取って言っている訳では無く、わりとガチめの回答だ。
人間の世界を忘れていたが、イリスと出会って心境が変化した。
俺も人間だったということらしい。
根っからの悪党は許さないけどね。
「あ、ありがとうございます……。わたしもソウタさまのご期待に応えられるように頑張ります」
イリスは初めて笑顔を見せた。
俺はドキッとする。
結局のところ、こういうのに弱いのよね。俺は。
「いや、イリスは元から優しいよ。人質に取られた時に、自分よりも俺を優先しただろ?それにさっきだって、自分が無事だったことよりも俺に対する言葉が出てきたし」
俺は照れくささもあり口がよく動いた。
「わ、わたしは優しくなんて……」
イリスは謙遜する。
「いや、イリスは優しいよ。俺が保障する」
俺はイリスを真っ直ぐに見て言った。
「そ、そうでしょうか?ソウタさまが仰るのなら……」
イリスは顔を赤くして目を泳がせる。
俺も顔が赤くなっている気がした。
鼓動が高鳴り、身体が熱くなる。
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甘酸っぺぇ~。
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