上 下
6 / 16

優しさってなんだろう?

しおりを挟む
「形勢逆転だな」

俺は盗賊のリーダーに言う。
まあ、もともと盗賊が有利になどなっていないから逆転でも無いが。

「うあぁあああああぁぁああっ!!」

盗賊のリーダーは悲鳴を上げて逃げ出す。
イリスを人質に取らずに逃げたのは賢明な判断だと言えるだろう。
人質を取っても無駄だし、更に俺を怒らせるだけだからな。
どうやら悪党も学習はするようだ。
しかし悪党というのは改心しない。
悪党にとっての改心というのは擬態に過ぎないのだ。

≪氷結魔法発動(アイス・マジック・オン・)・自縛氷柱(オウン・ロック・アイスィクル)!≫

パキ……パキパキ……。

逃げ惑う盗賊のリーダーの足元から霜柱が広がる。

「なっ、なんだぁ!?」

そしてその霜柱は奴の身体を隈なく覆い、身動きが取れなくなる。

「やめろっ!やめてくれっ!!金なら幾らでも出すっ!!」

奴は俺を買収するつもりらしい。

「やめろっ!こ、この、人殺……し……」

パキパキ……キイィィィン……!

霜柱は全身を覆い尽くし、膨張して巨大な氷柱となって屹立した。

「人殺し?そりゃあお前らだろうが」

俺は奴の捨て台詞に言葉を返した。
もっとも、すでに声は届かないだろうが。

「怪我は無いか?イリス」

俺はイリスに歩み寄る。

「ソウタさまっ!」

イリスは俺に抱き付く。
イリスの薄紅色の髪はサラサラとしていて良い香りがした。
肌も柔らかい。
これだよ、これこれ。
あぁ~、癒される。
魔族は大体がゴツゴツした身体か、ヌメヌメとした身体だった。
匂いだってそうだ。
イリスのそれは『香り』で、俺のにおいは『匂い』だ。
魔族のにおいは『匂い』じゃなくて『臭い』。
そんで黒板を爪で引っ掻いたような声だったり、ドリルで硬い物を掘削しているような声だったりする。
イリスの声は耳に優しい。

「うっ、うううぅう……」

イリスは泣き声を堪える。
エメラルドの瞳に涙が滲み、その輝きは一段と増す。

「もう安全だ。心配ない」

俺はイリスの桜色の髪を撫でる。
サラサラしている。気持ち良い。
クッションとかの比じゃないな、これは。
クッションなんて異世界召喚されてからは一度も触って無いけど。

「申し訳ありませんっ!」

イリスは俺に謝る。

「なにが?」

俺は聞き返す。

「わ、わたしが足手まといになったせいで、ソウタさまにご迷惑を……」

イリスは自分の事よりも他人の心配をする性格らしい。

「別に足手まといになってないから」

これは事実だ。

「どっ、どうして……どうしてソウタさまはこんなに優しいんですか……?」

それはイリスが超絶かわいい美少女だからだよ、とは言えなかった。
彼女のエメラルドの瞳から向けられる純真な眼差しに対してそんな野暮な答えは出来ない。

「いいかい?イリス。人は優しいんだ。ただ、魔族の脅威や人間同士の争いのせいで心が荒んでしまっているだけなんだ。俺には力がある。だから俺の力で人々に優しさを取り戻させたいと思う」

これは気取って言っている訳では無く、わりとガチめの回答だ。
人間の世界を忘れていたが、イリスと出会って心境が変化した。
俺も人間だったということらしい。
根っからの悪党は許さないけどね。

「あ、ありがとうございます……。わたしもソウタさまのご期待に応えられるように頑張ります」

イリスは初めて笑顔を見せた。
俺はドキッとする。
結局のところ、こういうのに弱いのよね。俺は。

「いや、イリスは元から優しいよ。人質に取られた時に、自分よりも俺を優先しただろ?それにさっきだって、自分が無事だったことよりも俺に対する言葉が出てきたし」

俺は照れくささもあり口がよく動いた。

「わ、わたしは優しくなんて……」

イリスは謙遜する。

「いや、イリスは優しいよ。俺が保障する」

俺はイリスを真っ直ぐに見て言った。

「そ、そうでしょうか?ソウタさまが仰るのなら……」

イリスは顔を赤くして目を泳がせる。
俺も顔が赤くなっている気がした。
鼓動が高鳴り、身体が熱くなる。
青春ってこんな感じだったんだろうか?
甘酸っぺぇ~。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!

高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった! ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...