27 / 73
第3章 姫(?)からメイドになりました
綺麗で儚げなメイド様(side・レナード)
しおりを挟む
私は執事のレナードと申します。
ぼっちゃまに仕えて十数年…様々なことがありました。
ぼっちゃまが城で迷子になったり、森で迷子になったり、ああ…街で迷子になったこともありますね。
おや、迷子ばかりですね。
ぼっちゃまの場合、迷子になっても無表情で歩き回るので、迷子に見えません。
慌てる動作くらいしてほしいものです。探す身にもなってください。
そのようなことはさておき、ぼっちゃまはこの間、美しいお嬢様を屋敷に連れてきました。
屋敷内に密かな激震が走ったのは言うまでもありません。
実はぼっちゃんはたいそう他のお嬢様方におモテになられます。
殿下も大変お顔が整っていらっしゃるのですが、お二人は性格が違っていらっしゃいます。
殿下はその明るく気さくな性格から【太陽の王子】
ぼっちゃまは無表情で 冷静なことから【月の貴公子】
そう呼ばれているそうです。
しかし、お二人ともそう言われるのがお好きではないらしく、それを聞いた時のお顔は……〔プルプルプルプル〕
お二人にとっては笑い事ではないようですが…。
その通り名(?)を言い出したのがどこぞの令嬢だったため、お二人は自国の令嬢が大の苦手です。
ぼっちゃまにいたっては、女性というものに嫌悪感を持ってしまったほどです。
しかし、そのぼっちゃまが連れてきたのはお美しいお嬢様なのです。
彼女はと美しいだけではなく、基本的な礼儀はしっかりしていて控えめで清楚。
しかし、声が出ないというかわいそうな方でした。
お嬢様がお眠りになられた頃、私は執務室に呼ばれました。
「お呼びでしょうか」
「リシアについて話しておくべきことがある」
「はい」
「彼女は以前、住んでいた場所でひどい扱いを受けていたようだ。だからなるべく優しく指導してやってほしい」
「差し出がましいようですが、あのお美しさで…ですか?」
「ああ、うっすらとだが…かなりの数の傷跡がある。船で世話をした使用人にも言われたのだが、背中にも切られたような跡があるらしい」
手ならまだしも、背中に切り傷があるのは、兵士や騎士でない儚げなお嬢様にではありえない。
傷があるということは一般的に美しさを損なうということだ。
美しさを損なって喜ぶのは、自分以外が美しいことに耐えられない人である。
彼女はそんな人たちに囲まれていたのだろう。
「かしこまりました。穏やかに接することにいたします」
「頼んだ」
「一つご報告がございます。大奥様ですが、明日のお昼にはいらっしゃるそうです。お嬢様に会えるのを楽しみにしているとお言葉もいただきました」
「わかった。母上にも声をかけておこう」
連れてきたお嬢様のために心を砕き、かすかに目元を和ませているぼっちゃまに驚きが隠せない。
それに気づいたのか、無言でこちらを不思議そうに視線を向けられた。
「お話は以上でしょうか?お茶はお持ちいたしますか?」
「紅茶を一杯、一応軽食も頼む」
「かしこまりました。すぐお持ちいたします」
退室した後、自然と顔が緩んでしまう。
「さて、リシア嬢はどんな変化をもたらしてくださるのでしょうか…なんでしたら、奥様になっていただいても構わないのですが…」
溢れた独り言は闇夜に消えていった。
ぼっちゃまに仕えて十数年…様々なことがありました。
ぼっちゃまが城で迷子になったり、森で迷子になったり、ああ…街で迷子になったこともありますね。
おや、迷子ばかりですね。
ぼっちゃまの場合、迷子になっても無表情で歩き回るので、迷子に見えません。
慌てる動作くらいしてほしいものです。探す身にもなってください。
そのようなことはさておき、ぼっちゃまはこの間、美しいお嬢様を屋敷に連れてきました。
屋敷内に密かな激震が走ったのは言うまでもありません。
実はぼっちゃんはたいそう他のお嬢様方におモテになられます。
殿下も大変お顔が整っていらっしゃるのですが、お二人は性格が違っていらっしゃいます。
殿下はその明るく気さくな性格から【太陽の王子】
ぼっちゃまは無表情で 冷静なことから【月の貴公子】
そう呼ばれているそうです。
しかし、お二人ともそう言われるのがお好きではないらしく、それを聞いた時のお顔は……〔プルプルプルプル〕
お二人にとっては笑い事ではないようですが…。
その通り名(?)を言い出したのがどこぞの令嬢だったため、お二人は自国の令嬢が大の苦手です。
ぼっちゃまにいたっては、女性というものに嫌悪感を持ってしまったほどです。
しかし、そのぼっちゃまが連れてきたのはお美しいお嬢様なのです。
彼女はと美しいだけではなく、基本的な礼儀はしっかりしていて控えめで清楚。
しかし、声が出ないというかわいそうな方でした。
お嬢様がお眠りになられた頃、私は執務室に呼ばれました。
「お呼びでしょうか」
「リシアについて話しておくべきことがある」
「はい」
「彼女は以前、住んでいた場所でひどい扱いを受けていたようだ。だからなるべく優しく指導してやってほしい」
「差し出がましいようですが、あのお美しさで…ですか?」
「ああ、うっすらとだが…かなりの数の傷跡がある。船で世話をした使用人にも言われたのだが、背中にも切られたような跡があるらしい」
手ならまだしも、背中に切り傷があるのは、兵士や騎士でない儚げなお嬢様にではありえない。
傷があるということは一般的に美しさを損なうということだ。
美しさを損なって喜ぶのは、自分以外が美しいことに耐えられない人である。
彼女はそんな人たちに囲まれていたのだろう。
「かしこまりました。穏やかに接することにいたします」
「頼んだ」
「一つご報告がございます。大奥様ですが、明日のお昼にはいらっしゃるそうです。お嬢様に会えるのを楽しみにしているとお言葉もいただきました」
「わかった。母上にも声をかけておこう」
連れてきたお嬢様のために心を砕き、かすかに目元を和ませているぼっちゃまに驚きが隠せない。
それに気づいたのか、無言でこちらを不思議そうに視線を向けられた。
「お話は以上でしょうか?お茶はお持ちいたしますか?」
「紅茶を一杯、一応軽食も頼む」
「かしこまりました。すぐお持ちいたします」
退室した後、自然と顔が緩んでしまう。
「さて、リシア嬢はどんな変化をもたらしてくださるのでしょうか…なんでしたら、奥様になっていただいても構わないのですが…」
溢れた独り言は闇夜に消えていった。
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる