上 下
14 / 30

新たな学年

しおりを挟む
 春の甲子園に出場したが、一回戦目に大阪の強豪校と当たってしまい、あえなく一回戦負けし、僕たちの春は終わったのだった。
 夏こそは、リベンジ!僕たちは、夏の甲子園にも絶対に出場し、必ず一勝しようと誓った。
 そうして、僕は高校3年生になった。

 僕ら東尾学園野球部は、春の甲子園に出場した名門である。今はエースの戸田遼悠が注目の的。剛速球のストレートに多彩な変化球を投げ、おまけにイケメン。甲子園でテレビにも出てしまったものだから、校内だけでなく全国にファンを持つ男。イケメンで才能溢れるやつだが、その上文字通りの血のにじむ努力を重ねる男なのである。それを知ってしまった僕。なぜか、
「お前を甲子園に連れて行ったら、俺のモノになれ。」
と言われ、断られたら負けちゃうかも、と言われて断れず、まんまとやつの策略に乗せられ、ファーストキスまで奪われたのである。だが、約束は約束だから、僕は一応「遼悠のモノ」という事になっている。
 だが、もちろんこの事は他の部員には内緒である。

 1年生が続々と入部してきた。遼悠に憧れて入ってきた部員も多数いるらしい。そして、マネージャー希望者も多数詰めかけた。
 だが、例によって顧問の小野寺先生が面接をし、二人に絞ったのだった。
先生も、前年の失敗を繰り返さないようにしたようだ。可愛いだけ、遼悠のファンなだけ、というマネージャーは使えない。よって、今年入部したマネージャーは、ちゃんと部員を平等に扱うまともな子二人が入った。
 しかも、二人のうち一人は男子だった。意外だった。僕は部員から転身したけれど、最初からマネージャー希望で入部してきた男子はおそらく初めてだろう。
 1年生マネージャーは牧野芽衣(まきの めい)と横山穂高(よこやま ほだか)。
「相沢先輩、私もそれやります!」
芽衣ちゃんは、僕が何かをやっていると、飛んできて手伝ってくれる。僕がボールを磨いていたら、向こうの方から走ってきた。
「ありがとう、じゃあこれ使って。」
申し訳ないくらい汚い布を、芽衣ちゃんに渡す。芽衣ちゃんは僕の手元を盗み見て、それから一生懸命にボールを磨き始めた。僕はそれを見て微笑んだ。
「瀬那、こっち来い!」
びっくりして振り向くと、投球練習をしていた遼悠が、こっちを見て手招きしていた。
「ちょっとごめんね。」
僕は芽衣ちゃんにそう言って、遼悠の元に走って行った。

 僕たちマネージャーは、学校のジャージを着ていた。おそろいのTシャツは作ってもらって着ているが、野球のユニフォームはもう着ていない。そして、
「瀬那、お前髪伸びたなー。」
「ずいぶんイケメンになっちゃったんじゃないのー?」
「青春しちゃってるのー?」
などと、最近よく部員にからかわれるのだが、坊主頭を卒業して、髪を伸ばしているのだった。
「遼悠、何?」
呼ばれたので駆けつけると、遼悠は自分の手を見た。
「ここ、痛い。」
遼悠はそうつぶやいた。
「は?どこ?」
僕は遼悠の手首をつかんだ。手のひらを見ると、なるほど、豆がつぶれて少し血がにじんでいる。ほらね、血のにじむ努力をしているでしょ。
「はいはい、絆創膏貼ってやるから、手を洗って来て。」
僕はそう言うと、救急箱を取りに行った。戻ってくると、手を洗った遼悠がベンチのところで立って待っていた。
「座らないの?」
「ああ。座ると後輩に示しが付かないだろ。」
「なるほど。名実共にエースだな、お前。」
僕はそう言いつつ、遼悠の手の豆の手当を始めた。
「はい、出来たよ。ちょっと投げるの休めば?」
「ああ、そうだな。」
「じゃあ。」
僕がそう言って、またボール磨きへ戻ろうとすると、遼悠は僕の腕をぱしっとつかんだ。
「え?何?」
「お前さ、あの1年の女子マネと仲良くし過ぎじゃね?」
「は?」
思わずぽかんと遼悠の顔を見てしまった。その、ふてくされたような顔で僕を見る遼悠に、つい吹き出した。
「ぷっ、あははは。」
「なんだよ。」
「お前、もしかしてヤキモチやいてんの?」
「う、うるさいな。お前は俺のモノなんだからな。あんまり仲良くするなよ。それくらい要求したっていいだろ?」
まだ俺のモノとか言ってるのか。そんな事言ったって、実際何もしてないじゃないか。部活以外では今までと同様、ほとんど会話もしないし。
 だが、遼悠はまだ僕の腕を放さない。
「分かったよ。気をつけるよ。」
僕は笑いながらそう言って、遼悠の腕をふりほどき、ボール磨きに戻った。

 部活が終わって、ほとんどの部員が帰った後、いつものように残っていた遼悠と僕が一緒に帰ろうとした。いつもは他のマネージャーも僕より先に帰らせているのだが、今日は芽衣ちゃんが最後まで残っていた。
「相沢先輩と戸田先輩って、仲いいんですね。いつも一緒に帰るんですか?」
バレたか。
「まあ、ね。僕たち同じクラスだし・・・な?」
僕は遼悠に同意を求めた。だが、遼悠はちらっとこちらを見ただけで、何も答えなかった。
「あの、私もご一緒していいですか?」
芽衣ちゃんがそう言った。僕はちらっと遼悠の顔を盗み見た。表情は変わらず。
「えーと、あのね、僕たち一駅先まで歩くんだよ。だから・・・。」
僕が芽衣ちゃんに弁解を始めると、
「え?どうしてですか?疲れてるのに!」
当然驚くよね。
「えーとね、それは・・・。」
説明できない。僕は肘で遼悠の腕を突いた。遼悠はちらっとこちらを見て、
「べつに、いいよ。」
と言った。何がいいのか?そうか、ご一緒してもいいですか、に対しての答えか。なんか冷や汗が出た。
「あ、芽衣ちゃんも一緒に歩こうか。」
あははは、と空笑い。芽衣ちゃんは、
「はい!」
と、元気よく言った。よかった、「どうして?」の質問はスルー出来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どこかがふつうと違うベータだった僕の話

mie
BL
ふつうのベータと思ってのは自分だけで、そうではなかったらしい。ベータだけど、溺愛される話 作品自体は完結しています。 番外編を思い付いたら書くスタイルなので、不定期更新になります。 ここから先に妊娠表現が出てくるので、タグ付けを追加しました。苦手な方はご注意下さい。 初のBLでオメガバースを書きます。温かい目で読んで下さい

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転生貴族可愛い弟妹連れて開墾します!~弟妹は俺が育てる!~

桜月雪兎
ファンタジー
祖父に勘当された叔父の襲撃を受け、カイト・ランドール伯爵令息は幼い弟妹と幾人かの使用人たちを連れて領地の奥にある魔の森の隠れ家に逃げ込んだ。 両親は殺され、屋敷と人の住まう領地を乗っ取られてしまった。 しかし、カイトには前世の記憶が残っており、それを活用して魔の森の開墾をすることにした。 幼い弟妹をしっかりと育て、ランドール伯爵家を取り戻すために。

処理中です...