3 / 21
髪を切って来た
しおりを挟む
何とか無事な日々を過ごしていたある日。朝のホームルームに立つと、颯太が髪を切ってきていた。俺はいつも生徒が散髪してさっぱりしてくると、
「お、髪切ったな。」
と言って髪をわしゃわしゃする。切りたての髪が気持ちいいのと、まあ、見ているぞという生徒に対する愛情表現というか。なので、颯太が髪を切ってきたという事は、颯太の髪をわしゃわしゃするチャンス!
だが待て。もし他に昨日切ってきた生徒がいたら、大変な事になるぞ。俺が颯太の事ばかり見ていると思われてしまう。俺は慎重に、かつ素早く生徒を見渡した。お、髪がさっぱりしている奴がいた。田中だ。あの感じは切りたてだ。だが、昨日かどうかは正直言って分からない。一昨日だったかもしれない。だがここはもう仕方ない。たとえ昨日切ったのではなくとも、他の奴よりは最近に切った事は間違いない。颯太だけにわしゃわしゃするよりは、数日遅れていても二人にわしゃわしゃした方がいいに決まっている。よし。
俺はまず真ん中辺の前から2番目に座っている田中のところへ行った。
「田中、髪切ったな。」
俺はにこやかに言って田中の頭をわしゃわしゃした。田中は、
「やめろよう。」
と言いながら、嬉しそうに笑う。
そして、颯太のところへ。いかん、心臓がバクバク言う。こういう事は一瞬でもためらったらもうできない。勢いのままやってしまうのがコツだ。そして、震える手に気づかれないように、
「颯太、お前も切ったな。」
ちなみに、隣のクラスに池田がいるので、颯太と呼んでも問題ない。他の先生もそう呼んでいる。田中は、奇跡的に特進クラスには一人しかいないので、田中と呼ぶ。
それはそうと、俺はほんの一瞬躊躇してしまったけれど、思い切って颯太の髪をわしゃわしゃした。やった。颯太の髪はサラサラで、本当に気持ちがいい。
すると、颯太は上目遣いで俺を見て、
「俺が切ったの、一週間前だよ。」
と言った。
う、そ、だー。絶対にない。田中は一瞬間前に切ったかもしれないが、颯太は違う。昨日はもっと長かった。俺は毎日ちゃんと颯太を見ているのだから、間違いない。それなのに、なぜそんな嘘をつくのだ。俺を試しているのか?ん?どう試しているというのだ。俺がちゃんと颯太を見ているかどうかを?それとも特別な目で見ているかどうかを?見ている事をアピールすべきか、特別に見ていない事をアピールすべきか、一体どっちなのだ!
長く固まっているわけにもいかない。
「ふはははは。」
俺は不敵に笑った。とりあえず笑って胡麻化した。田中は何も言わなかったが、本当に昨日切ってきたのだろうか。もし、颯太は絶対に昨日だと俺が言い張った挙句、田中から自分は一週間前だったと言われ、それが本当だったら立つ瀬がない。かと言って、颯太の嘘を信じた振りをして、そうか一週間前だったか、などと言ったら、俺の事ちゃんと見てないじゃん、と思われて、嫌われてしまうかもしれない。ああ、どうしたら、どうしたら。
「この手触りは一週間も経っていないぞ。俺には分かるんだ。お前は昨日切ったのだ。」
俺はさっきは片手でわしゃわしゃしたが、今度は両手で思う存分颯太の頭をわしゃわしゃした。さすがに颯太はくすぐったそうに笑った。
「ギブ、ギブ!」
颯太はそう言って笑いながら俺の手を払いのけた。一瞬、手と手が触れた。ドキ!俺は手を引っ込めて、ついでにくるりと生徒に背を向けて、教卓の所へ戻った。今誰かに顔を見られたらちょっとヤバイ。一つ深呼吸をして顔を戻し、生徒の方に向き直った。これで髪の毛の話題は終わり、ここからはいつもの連絡事項へ。颯太は俺がぐちゃぐちゃにした髪を両手で必死に直していた。ああ、やっぱり可愛い。俺は今日のわしゃわしゃを、後で思い出して幸せに浸るのだろう。
「お、髪切ったな。」
と言って髪をわしゃわしゃする。切りたての髪が気持ちいいのと、まあ、見ているぞという生徒に対する愛情表現というか。なので、颯太が髪を切ってきたという事は、颯太の髪をわしゃわしゃするチャンス!
だが待て。もし他に昨日切ってきた生徒がいたら、大変な事になるぞ。俺が颯太の事ばかり見ていると思われてしまう。俺は慎重に、かつ素早く生徒を見渡した。お、髪がさっぱりしている奴がいた。田中だ。あの感じは切りたてだ。だが、昨日かどうかは正直言って分からない。一昨日だったかもしれない。だがここはもう仕方ない。たとえ昨日切ったのではなくとも、他の奴よりは最近に切った事は間違いない。颯太だけにわしゃわしゃするよりは、数日遅れていても二人にわしゃわしゃした方がいいに決まっている。よし。
俺はまず真ん中辺の前から2番目に座っている田中のところへ行った。
「田中、髪切ったな。」
俺はにこやかに言って田中の頭をわしゃわしゃした。田中は、
「やめろよう。」
と言いながら、嬉しそうに笑う。
そして、颯太のところへ。いかん、心臓がバクバク言う。こういう事は一瞬でもためらったらもうできない。勢いのままやってしまうのがコツだ。そして、震える手に気づかれないように、
「颯太、お前も切ったな。」
ちなみに、隣のクラスに池田がいるので、颯太と呼んでも問題ない。他の先生もそう呼んでいる。田中は、奇跡的に特進クラスには一人しかいないので、田中と呼ぶ。
それはそうと、俺はほんの一瞬躊躇してしまったけれど、思い切って颯太の髪をわしゃわしゃした。やった。颯太の髪はサラサラで、本当に気持ちがいい。
すると、颯太は上目遣いで俺を見て、
「俺が切ったの、一週間前だよ。」
と言った。
う、そ、だー。絶対にない。田中は一瞬間前に切ったかもしれないが、颯太は違う。昨日はもっと長かった。俺は毎日ちゃんと颯太を見ているのだから、間違いない。それなのに、なぜそんな嘘をつくのだ。俺を試しているのか?ん?どう試しているというのだ。俺がちゃんと颯太を見ているかどうかを?それとも特別な目で見ているかどうかを?見ている事をアピールすべきか、特別に見ていない事をアピールすべきか、一体どっちなのだ!
長く固まっているわけにもいかない。
「ふはははは。」
俺は不敵に笑った。とりあえず笑って胡麻化した。田中は何も言わなかったが、本当に昨日切ってきたのだろうか。もし、颯太は絶対に昨日だと俺が言い張った挙句、田中から自分は一週間前だったと言われ、それが本当だったら立つ瀬がない。かと言って、颯太の嘘を信じた振りをして、そうか一週間前だったか、などと言ったら、俺の事ちゃんと見てないじゃん、と思われて、嫌われてしまうかもしれない。ああ、どうしたら、どうしたら。
「この手触りは一週間も経っていないぞ。俺には分かるんだ。お前は昨日切ったのだ。」
俺はさっきは片手でわしゃわしゃしたが、今度は両手で思う存分颯太の頭をわしゃわしゃした。さすがに颯太はくすぐったそうに笑った。
「ギブ、ギブ!」
颯太はそう言って笑いながら俺の手を払いのけた。一瞬、手と手が触れた。ドキ!俺は手を引っ込めて、ついでにくるりと生徒に背を向けて、教卓の所へ戻った。今誰かに顔を見られたらちょっとヤバイ。一つ深呼吸をして顔を戻し、生徒の方に向き直った。これで髪の毛の話題は終わり、ここからはいつもの連絡事項へ。颯太は俺がぐちゃぐちゃにした髪を両手で必死に直していた。ああ、やっぱり可愛い。俺は今日のわしゃわしゃを、後で思い出して幸せに浸るのだろう。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
男だけど女性Vtuberを演じていたら現実で、メス堕ちしてしまったお話
ボッチなお地蔵さん
BL
中村るいは、今勢いがあるVTuber事務所が2期生を募集しているというツイートを見てすぐに応募をする。無事、合格して気分が上がっている最中に送られてきた自分が使うアバターのイラストを見ると女性のアバターだった。自分は男なのに…
結局、その女性アバターでVTuberを始めるのだが、女性VTuberを演じていたら現実でも影響が出始めて…!?
上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い
papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。
派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。
そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。
無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、
女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。
一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる