黄昏の国家

旅里 茂

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外務大臣の失脚

黄昏の国家33

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荒木の行動を何とか封じ込めば、国産エンジンの展望は明るくなる、筈だ。
単刀直入に高沢は当たってみた。
「川田先生、荒木外務大臣を失脚させる方法はないでしょうか?」
恐ろしい内容ではあるが荒木さえ去れば、上手く行く。
川田は暫く沈黙を守ったが、「高沢君、それは正直、悪手だよ」
それは百も承知で有る。しかし、今ここで引き下がれば現内閣のからくりから、オーイックスは弾かれてしまう。
少し考えた川田の思考に、ある提案を思い浮かべていた。勿論今の今で、それを高沢が察知出来る筈もない。
「オーイックスの全ての実権を私に譲渡する、これで手を打たないか?」
やはり利権を欲しがるのか、音のない溜息が出た。
「…それは、角安の元位置に鎮座するという事ですか?」
「その通りだよ。但し、実権を私が受けても全ての項目は君がやればいい」
要するに、マズい事が発生すれば高沢に押し付ける旨か。
しかしながら、角安も利権で潰された。その手に乗る方が、いっそ楽かも知れぬ。
「…判りました。川田先生の案を了承致します。但し、問題が生じた際、私と共に責任の所在をはっきりとしておきたいものです」
「それにおいては心配はいらないよ。私は君が考えているように、角安君と同じてつは踏まないつもりだ」
高沢は一瞬凍り付いた。見透かされているなと冷静さを取り戻し、改めて了承した。
画して新たな運用者を持って、ビッグ・フロートの運営方針が確定した。
川田はまず、自政党総理次官補、新倉武に連絡を取った。
荒木が軍需産業のデータを政府内での処理に任せず、独断で英国とのコミッションを取ったと話を流した。
内閣情報管理室の室長、種木勇作の元へ、その情報が届いた。これは意図的に川田の手の者が情報を載せてネット上へ拡散した。
勿論、これらは犯罪になるのだが、種木はそれらの内容を削除されないように圧力を掛けた。
何故ならば、種木も荒木とその徒党に反芻はんすうするものがあったからだ。
直ぐに荒木が動いた。
まず手の者に、ネット上の発生源を特定するように指示を出した。
だが、情報の発信源が日本でなく、豪州となっており途中で途切れ情報が掴めない。
これが中越総理の耳にも届き、真相を解明する為の指示を各方面に出した。
荒木は只、狼狽した。
英国とのエンジンの交渉は、正規の流れで契約前にまでいっており、国民の前でも伝達していたのだ。
それが賄賂に基づく不正ならば、国家の一大事である。
何処から情報が漏れたのか。部下をすぐさま各部署に配置し、情報の分析を待ったが、その前に野党の耳に入ってしまった。
直ぐに臨時国会招致の流れになり、荒木は与党からも糾弾する声に当てられた。
最早逃げ場がない。
観念したというべきか、臨時国会の場で荒木は事の全てを白状した。
これにより検察が動き、荒木の英国への賄賂がどのように流れたかを取り調べを受ける事と相成った。
川田はその晩、高沢に連絡を取った。
「君の言う通り荒木外務大臣の失脚は確定だね。恐れ入ったよ」
「こちらこそ、大立ち回りを行って頂き恐縮の限りです」
「ははははは。それは高沢君も同様だよ。今回、与党内から膿を出す事が出来たんだからね」
高沢は川田の話し方に好感が持てたが、所々にとげがあるのも見抜いていた。
かくして、外務大臣が英国の航空エンジンメーカーロイスランドとの賄賂による汚職を吐き出した、一大スキャンダルが世界中を駆け巡った。
また、英国のメーカーとの契約前は、完全に反故にされていた。つまりはこの事件に対して深く追求されるのを嫌ったのだ。そこにはMI5も動いていただろう。
尾本からの連絡受け、機密隊の行動抑制を命じた。
これで日本政府は新たな外務大臣に、沖田隆という厚生労働省の全く畑違いの人物を充てた。
これには多かれ少なかれ、国事大臣も荒木のフェイクを捜査していたという。
先に述べたが、安形国事大臣とは、新たに設立された枠組みで、国防とは別に行動する組織体である。
国事における仕事とは、国内犯罪者、特に大型テロを目論む組織を叩く専用部隊を設けたもので、備品は国防とは可成り落ちるが云わば、海上自衛軍と海上保安庁と同類な関係に当たる。
これで、一抹の騒動は収まった訳だが、オーイックスと栄重工との再度正式な契約を持ってFー7の開発に本格的に入る事となる。

時間の過ぎるのは早いものだ。例の騒動から2年が経った。
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