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情報戦の彼方
黄昏の国家32
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しかしながら、角安は当初と思っていた男ではなかった。
簡単に金に動き、権力に靡く、軽い男だったのだと。
川田から情報を引き出したい。今後の対応としては、この人物が重要になってくる。
尾本より電子回線にて川田の秘書にまず、繋がりを行う。
但し、一癖も二癖もある人物である。こちらの試算通り動くかどうかである。
川田の秘書を名乗る水谷薫という人物が、連絡網を通して電子回線に繋ぎ応答した。
尾本が直ぐに高沢の回線に繋げる。
「突然の非礼お詫び致します。私、高沢と申します。川田先生にどうしてもお話ししたいことがありまして、ご連絡をさせて頂きました」
水谷は少し間を空け、ビッグ・フロートの責任者と直ぐに認識したのか、対等の言葉遣いで応答した。
「これは高沢先生、お初に掛かります。川田の秘書をしております水谷と申します。まぁ、もっとも初めから私を通して川田にコンタクトする手順とは思いますが…」
流石に馴れているなとその一声に感服した。
直ぐにでも川田に連絡を取りたいが、水谷という秘書、一筋縄では流せない人物のようだった。
高沢は今回の事案で、Fー7の青写真を見ている。
あの時の流れで悲願の純国産戦闘機を手にするチャンスだった。
それが荒木外務大臣とその輩は、事もあろうにそれを握り潰そうとしている。
オーイックスも、その産業に食らいつきFー7の完成を夢見ていたのだ。
日本政府の優柔不断さは今に始まった訳ではない。
嘗てのFー2の件でも、米国の横入でFー16をベースにした国産とは言われない歪なのもと化した。
それでも、まだましな状況ではあり、永く日本の領空を守ってきた経緯がある。
感慨ぶかげに浸る物ではないが、荒木率いる外注共の勝手にはさせない。
そんな思いを数秒間の内に考えていた高沢に、知る由もない水谷はまるで透かしたように「さぞ、残念な思いでしょう」と語った。
「実は川田先生は、それを非常に胸を痛めておりまして、同志を集めている最中で御座います。そこへ、貴方からの連絡です。これは天の示し合わせでしょうね」
少し芝居がかった言い草で、水谷は高沢の内心を捉えていた。
其処まで心を読めるのかと、ある種の危機意識を持ったが、別の意味で話は早い。
「水谷さん、川田先生は実情、純国産を謳っている訳ですね。ならばこの高沢、全力で補佐させて頂きます」
オーイックスの技術力を見せつける絶好のチャンスだ、逃す訳にはいかない。
既に先に述べたように、CO2光合成エンジンの開発に成功している。
燃焼と書いたが、実際には通常、植物が光合成を行う速度の一千億倍の周期運動で回転させ、酸素供給を爆発的に作り出し、後方へ打ち出す事によって推進力を得るという全く新しいシステムである。
勿論オーイックスの極秘情報なので、外部への持ち出し等は一切禁止されていたのだが、Fー7の情報が出てから、正確にはIFHの撤退から栄重工と正式な共同内容を交わしていた経緯がある。
水谷は一旦咳払いをして、「では、川田に代わります」といって回線を切り替えた。
「ビッグ・フロート総裁、高沢君だね。お初に掛かる。外務省外部公安自署の川田だ。良く連絡を寄越してくれた。立場上、こちらから連絡を入れることが憚(はばか)らん訳にはいかないので、申し訳ない」
川田の魅力というのだろうか、決して下のものを上から抑える言葉遣いはしない。先生と呼ばれる、その手の人物は自分より格下のものを、平気で無礼に走る。
そして言われた自身も、卑下に感じて話を進めていく。
川田にはそれが無かった、いや、そう感じさせる大きさがあったのかも知れない。
「こちらこそ、突然の不躾をお詫び致します。処で件の内容ですが、荒木外務大臣とその幹部が英国との共同契約を結んだと聞いておりますが…。」
ここまで話して、川田は話を途中で区切った。
「高沢君、荒木外務大臣はまだ、英国との正式協議には入っていない。状況としては逆転劇があるものだよ」
これには高沢は不審に思った。機密隊の報告では既に英国との契約を得たと報告が上がっている。
これを川田にぶつけてみた。すると意外な内容が飛び出し、高沢は面を食らった。
「高沢君、君の隠密を司る機関でも、裏返しの偽情報を流すのは政治的にはいつの時代でも有りうることだよ」
そうか!荒川は先を急いで、偽の情報を流していたのか。
うっかり、その情報を鵜呑みにした事が、今後の危機に繋がる危険性を持っていた事である。
「川田先生、では荒木外務大臣の件はフェイクであったと…。」
「その通りだよ、今でもオーイックスが前面にそのエンジンの広報を流せば、簡単に覆せるよ」
状況は思った以上に単純だった。
簡単に金に動き、権力に靡く、軽い男だったのだと。
川田から情報を引き出したい。今後の対応としては、この人物が重要になってくる。
尾本より電子回線にて川田の秘書にまず、繋がりを行う。
但し、一癖も二癖もある人物である。こちらの試算通り動くかどうかである。
川田の秘書を名乗る水谷薫という人物が、連絡網を通して電子回線に繋ぎ応答した。
尾本が直ぐに高沢の回線に繋げる。
「突然の非礼お詫び致します。私、高沢と申します。川田先生にどうしてもお話ししたいことがありまして、ご連絡をさせて頂きました」
水谷は少し間を空け、ビッグ・フロートの責任者と直ぐに認識したのか、対等の言葉遣いで応答した。
「これは高沢先生、お初に掛かります。川田の秘書をしております水谷と申します。まぁ、もっとも初めから私を通して川田にコンタクトする手順とは思いますが…」
流石に馴れているなとその一声に感服した。
直ぐにでも川田に連絡を取りたいが、水谷という秘書、一筋縄では流せない人物のようだった。
高沢は今回の事案で、Fー7の青写真を見ている。
あの時の流れで悲願の純国産戦闘機を手にするチャンスだった。
それが荒木外務大臣とその輩は、事もあろうにそれを握り潰そうとしている。
オーイックスも、その産業に食らいつきFー7の完成を夢見ていたのだ。
日本政府の優柔不断さは今に始まった訳ではない。
嘗てのFー2の件でも、米国の横入でFー16をベースにした国産とは言われない歪なのもと化した。
それでも、まだましな状況ではあり、永く日本の領空を守ってきた経緯がある。
感慨ぶかげに浸る物ではないが、荒木率いる外注共の勝手にはさせない。
そんな思いを数秒間の内に考えていた高沢に、知る由もない水谷はまるで透かしたように「さぞ、残念な思いでしょう」と語った。
「実は川田先生は、それを非常に胸を痛めておりまして、同志を集めている最中で御座います。そこへ、貴方からの連絡です。これは天の示し合わせでしょうね」
少し芝居がかった言い草で、水谷は高沢の内心を捉えていた。
其処まで心を読めるのかと、ある種の危機意識を持ったが、別の意味で話は早い。
「水谷さん、川田先生は実情、純国産を謳っている訳ですね。ならばこの高沢、全力で補佐させて頂きます」
オーイックスの技術力を見せつける絶好のチャンスだ、逃す訳にはいかない。
既に先に述べたように、CO2光合成エンジンの開発に成功している。
燃焼と書いたが、実際には通常、植物が光合成を行う速度の一千億倍の周期運動で回転させ、酸素供給を爆発的に作り出し、後方へ打ち出す事によって推進力を得るという全く新しいシステムである。
勿論オーイックスの極秘情報なので、外部への持ち出し等は一切禁止されていたのだが、Fー7の情報が出てから、正確にはIFHの撤退から栄重工と正式な共同内容を交わしていた経緯がある。
水谷は一旦咳払いをして、「では、川田に代わります」といって回線を切り替えた。
「ビッグ・フロート総裁、高沢君だね。お初に掛かる。外務省外部公安自署の川田だ。良く連絡を寄越してくれた。立場上、こちらから連絡を入れることが憚(はばか)らん訳にはいかないので、申し訳ない」
川田の魅力というのだろうか、決して下のものを上から抑える言葉遣いはしない。先生と呼ばれる、その手の人物は自分より格下のものを、平気で無礼に走る。
そして言われた自身も、卑下に感じて話を進めていく。
川田にはそれが無かった、いや、そう感じさせる大きさがあったのかも知れない。
「こちらこそ、突然の不躾をお詫び致します。処で件の内容ですが、荒木外務大臣とその幹部が英国との共同契約を結んだと聞いておりますが…。」
ここまで話して、川田は話を途中で区切った。
「高沢君、荒木外務大臣はまだ、英国との正式協議には入っていない。状況としては逆転劇があるものだよ」
これには高沢は不審に思った。機密隊の報告では既に英国との契約を得たと報告が上がっている。
これを川田にぶつけてみた。すると意外な内容が飛び出し、高沢は面を食らった。
「高沢君、君の隠密を司る機関でも、裏返しの偽情報を流すのは政治的にはいつの時代でも有りうることだよ」
そうか!荒川は先を急いで、偽の情報を流していたのか。
うっかり、その情報を鵜呑みにした事が、今後の危機に繋がる危険性を持っていた事である。
「川田先生、では荒木外務大臣の件はフェイクであったと…。」
「その通りだよ、今でもオーイックスが前面にそのエンジンの広報を流せば、簡単に覆せるよ」
状況は思った以上に単純だった。
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