黄昏の国家

旅里 茂

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ビッグ・ワン

黄昏の国家02

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 神戸空港沖に建造された大型フロート、ビッグ・ワンが完成して一年が経つ。
その東側先端の監視サイトの先で佇む男が一人いた。
この計画に全権を委ねられた、高沢健司である。
「リュクスタ、こちらにおいででしたか」、リュクスタとは権限の最高位が持つコードネームである。
高沢は静かに振り返り、声を掛けたフロートマネージャーの杉本才気に答えた。
「今日は風が強く冷たい。冬ももう直ぐだな」
杉本は一瞥して、高沢に用件を話し出す。
「リュクスタ、角安様からの連絡です」徐にチップを取り出し、それを渡す。
高沢は首の後ろに接続しているビジョノートと言われる端末にそれを差し込む。
『高沢、現在のビッグ計画は順調みたいだな。私は来週から欧州を巡回する。引き続き進捗報告とSN計画を進めてくれ。』
SN計画とは、大掛かりな軍事事業の事である。
日本政府は長年、第九条に縛られてきた。その論争も激しく先に進むことが出来なかった。
しかし、2032年の新内閣発足で誕生した、唐崎信也総理が大胆に改革を進めた結果、第九条は廃止し防衛省は国防省に、自衛隊は自衛軍と改名した。
また、非核三原則も撤廃、世界でも有数のプルトニウム保持国であるが為、アメリカでさえ懸念を示したが核保有はある内示で、そこへ突き進むことはなかった。
では、何故非核三原則を撤廃したのか?疑問は残り様々な憶測を呼んだが、表向きはアメリカの核の傘を更に大義に表現したと伝えられた。
納得のいかない野党は追及を進めたが、力及ばずであった。
一つはSN計画で秘密裏にプルトニウムを使用する。あくまで平和利用とする事を大型ビック計画の前身である、ファルシタという組織との公約とした。
そして現在、高沢は航空部門の新型戦闘機と超大型戦艦の建造を進めていた。
まず、エンジンの開発は今までにない特殊な構造をしたものを提案した。
通常、ジェットエンジンは空気、要は酸素で燃料を燃やしジェットとする。
だが高沢が考案したのは、CO2を使用した、全く新しいエンジンであった。
植物が光合成を起こしエネルギーに変えることに着目し、それらを何万倍にも増幅するフレキシブル・フォトシイサシイスCO2エンジンを開発した。
通常はフレキシブル・CO2エンジンと呼んでいる。
つまりは二酸化炭素を利用した、全く新しい発想のエンジンである。
試行錯誤を繰り返し、まずは小型の飛行体を用意して空に飛ばした。
実験は見事成功を収め、ビッグ計画の革新へと進める。
やがてファルシタから、『オーイックス』という完全な組織名を発表した。
それが高沢が打ち立てたビッグ計画とSN計画の中枢組織である。
これが全ての計画にあるフロート・ビッグ建造が完成すれば周辺国からの抑止力にもなる。
CO2の削減が騒がれて久しいが2052年、新潟議定書が発効され、CO2の削減に世界が何度も挑んだ結果は、やはり好ましくなかった。が、SN計画の根幹であるフレキシブル・CO2エンジンに日本政府は期待を寄せた。
だが突飛なこの計画に世界は冷ややかな眼で見ていたが、成功したことを切っ掛けに、フレキシブル・CO2エンジンの設計やモデルを公開して欲しいと世界各国から問い合わせが殺到した。
無論、中枢ユニットはブラックボックス化して解析出来ないよう、工夫を凝らした。
また、その技術を応用してCO2による発電機も開発に入った。
これが成功すれば、半永久機関としての電気が手に入る。
「リュクスタ、この基盤にフォトシイサシイスを組み込んでモータを駆動させれば、理論上は可能です」
SNマネージャーの春本新規が報告した。
高沢は少し考えて「春本、どの程度の時間があれば、モノにできると思う?」
「あと、一か月頂ければ…。完成させて見せます」
「頼もしいな。これが成功すれば世界の電気事情がひっくり返るぞ」
まさに革命と言うべき計画である。
春本は慎重に言葉を選び「突破致します!リュクスタが提示して頂いた図面からこぎ着けますよ」
「宜しく頼むよ。私も必要とあれば対応する」
「有難う御座います。どうしても我々で解決できない事案が出た場合は、恐縮ですが宜しくお願い致します」
そう言って春本はセンター内に消えていった。
さて、やることは山程ある。
漁業組合との間に締結した事案も早急に解決しなけらばいけない。
養殖チームリーダーの和巻一平をビジョノートの映像化で呼びだした。
「こちらは少し手古摺っていますが、何とかなるでしょう」
彼は、結構言いたいことをはっきりという性格で、敵も多いが、それだけ純粋ともいえる。
高沢は全てのマネージャー、リーダーを信頼している。
それは高沢が率先して全ての計画を順序良く指示している事もあるのだろう。
また、高沢も信頼を大きく受けている。
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