魔法使いの写真屋さん

旅里 茂

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魔法使いの写真屋さん06

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味噌汁を口に運んだユイリィは、その味に眩暈を覚える程、衝撃を受けた。
カップラーメンもある意味、相当、目新しい味わいだったが、これは一層輝いて口の中を刺激した。
「すっごく美味しい!」
「そうか、美味いか」
ユイリィは魔法で手帳みたいなのを出し、勇気に尋ねた。どうやらレシピを記載するらしい。
「でも、味噌はユイリィの世界にはないんじゃないか?」
ハッと気付いたユイリィは、残念そうに筆を置いた。
しかし、直ぐに正面を向き直し、「味噌が欲しい!」と勇気に頼み込む。余程気に入ったのだろう。
但し、出汁がなければ辛いだけになってしまうので、その事も伝えると「ええー!」と不平の声を上げた。
帰れるかは、まだ判断に尽きないが、その時は土産として持たせてあげよう。
さて、タンバリンがあるか探し始めるが、押し入れの中を隈なく探したが、見当たらない。
これはいよいよ以て、買いに出なければいかないか。
それはそうと、市販で売っているタンバリンでいいのか、ユイリィに尋ねてみる。
「わかんない。タンバリンは歴代に渡って引き継がれるから…」
結構、伝統のある物らしい。
ユイリィは軽装なので、若干大きいがジャンパーを着せてあげる。
「うわー、温い。これ、なんていう防具なの?」
「防具じゃないよ。上着だよ」
早速、楽器店を探す為、スマートフォンにて検索を掛ける。
「なに?この絵が動く道具?」
しかし、何にでも興味を引くのだな、と感心した。
「これは、スマートフォンといって、電話を掛けたり、メールをやり取りしたり…」
「電話?メール?」
頭を傾げて考え込むユイリィ。
彼女の住む世界には、そういった概念がない、つまり化学の代わりに魔法が発展したのだ。
「うーん、説明できないな」
勇気は諦めて徒歩を早めた。
ユイリィがその後を追いかける。
商店街に辺り、その一角に小さな楽器店がある。
勇気が幼い頃からある、老舗だ。
「お早う御座います」勇気が挨拶すると、奥から初老の男性が姿を現した。
「おや、勇気君じゃないか?朝早くどうした?」
「実は…」異世界云々は大きく省いて、ユイリィの欲しがっているタンバリンの事を話した。
「可愛い子だね。勇気君の従妹さんかい?」
「え、まぁそんなところです。タンバリン、出来るだけ小さいのってありますか?」
ちょっと待ってねといって、奥に引っ込む。
ユイリィは楽器屋の中で、見た事もない楽器に興奮状態だった。
「勇気、これは何?」ギターを珍しそうに見ながら、弦を引いて見ると音が出た。
「うわ!音が出た」そりゃ出るわなと、思いながら、その様子が面白かった。
「これなんか、どうかね?」
勇気には正直、どの程度のものが良いのか判らないので、ユイリィに尋ねてみた。
「うん!これでいい!」
勇気はホッとして、「じゃーこれ下さい」と購入をしようとしたが。
「勇気君、これね、結構するよ」
「え?」と、なり、思わず身構えた。
「い、幾らするんですか?」
男性は、ニヤッと笑い、一言発した。
「千円!」
拍子抜けした勇気の顔が綻んだ。
「おじさん、びっくりするよ。そんな安いの?」
そうそうと言いながら、袋に綺麗に詰めてくれる。
ユイリィはとても嬉しそうにしている。
それにしても、楽器を買うのは、何年ぶりだろうか。
店を後にして、商店街をぶらぶら歩く。
ユイリィにタンバリンの入った袋を渡し、「これで帰れるのかい?」と尋ねた。
「う~ん、多分大丈夫だと思う」
実際、帰れないと折角買ったのが無駄になってしまう。
そう言うユイリィに勇気は問題ないと気を遣う事を嗜めた。
商店街の出入りの処に、たい焼き屋がある。
勇気が「食べる?」というと大きく頷いて小躍りしている。
一口食べると、目を潤ませながら、「こんな美味しいものがあるのー?」と半分絶叫したものだから、周囲から目線を大いに感じた。
勇気にしてみれば、逆にユイリィたちの住む世界はどんな物を食べているのか、其方の方に興味が湧いた。
早速家に戻り、たい焼きを食し、その余韻を一時間程感じながら、ようやく自分の世界に戻る準備に取り掛かった。
まず、部屋に丸い囲いを設け、勇気が見た事もない文字らしきものをチョークで書いていく。
チョークは先程の店で購入したものだ。
書き終えると、その中央にユイリィが立ち、上を向きながらタンバリンを鳴らし、不思議な踊りを踊った。
すると円を描いた枠から青い光が立ち込め、ユイリィを包んだ。
思わず勇気が仰け反った。
ユイリィの姿が透けてきたのが分かった。

カイの魔法石に反応があった。
「魔法を掛けている者が近くにいる」
リュウイが「もしかしてユイリィか?」
場所からして200ワント以内にいるのが判る。
1ワントはユイリィたちの世界の距離などの単位だ。
1ワントで、凡そ0.5mなので100m以内ということになる。
「リュウイさん、此方の方向からです」
リュウイは慌ててここを出ることにした。
「世話師さん、短い間でしたがお世話になりました。お礼と言える物ではありませんが、コスの葉を置いていきます」
「いやいや、そうか、もう行くか。礼には及ばんよ。処でこれは、薬か何かかね?」
「はい、色んな病気や薬物の緩和に使えます」
世話師はほうと驚きながらも、何処か冷静だ。
「それでは失礼致します」
「気をつけてな」
リュウイとカイ、大将とダイスは急いで外に飛び出した。
魔法石の光が指し示す方向に向かい、全速力で駆ける。
朝の通勤時間と重なっている為、服装が兎に角目立つ。
しかし、そんな事はお構いなしに、ユイリィの場所を目指す。
「あそこです!」
勇気の住むマンションまで辿り着いた。
今度は慎重に、建物の中に入っていく。
魔法石はまだ、輝きを失っていない。
玄関にまでいくと、魔法石は更に光を増した。
「この中にユイリィが…」
リュウイがドアを叩く。インターホンは判らない。
「うん?誰か来たみたいだな」
ユイリィも魔法を、気になり途中で止めてしまったので、カイの魔法石の光も収まってしまった。
リュウイが、それを見て力強くドアを叩く。
「はいはい、どちら様ですか?」玄関を開けたと同時に、パンチが飛んで来て、勇気が吹き飛んだ。
「ユイリィ!私だ!リュウイだ!」
「え?リュウイ?」
奥からユイリィが不振がって出てきた。
「無事だったか、ユイリィ」
ユイリィはノビた勇気を見て、「どうしたの?勇気?あ、リュウイとカイ!」
気を失った勇気に向かって、リュウイが石化の魔法を唱え始めたので、咄嗟にユイリィが勇気に覆い被さる。
「だめだよ!リュウイ!」
「なぜ止める?こいつはユイリィを閉じ込めてた奴だろ!」
「ちがう、ちがう!」
一通り説明をするユイリィ。
それを聞いていく内に、青褪めるリュウイ達。
勇気が気を戻したのは布団の上だった。
何があったのか、若干思い出すのに時間が必要だった。
ユイリィがその時、顔を覗かせ、「大丈夫?」と言った。
「…あ、ユイリィ。!あ、ユイリィ!無事か?」
勇気は上半身を起こしたが、鼻っ柱と頭に痛みが走った。
「いてててて…」
そこへリュウイが「申し訳御座いませんでした」と頭を下げたので、少し状況が判り始めた。
確かこの人に行き成り殴られて…。
「そうか!貴方達もユイリィと同じ世界の人ですか?」
「仰る通りです。ユイリィを迎えに来ました」
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