15 / 15
決着
魔法使いの写真屋さん15
しおりを挟む
「何故、あんな事を!」
最早猶予がない。
TVでは怪我人が複数出ており、勇気は憤りを感じていた。
「リュウイさん、兎に角、僕だけでも行きます!」
リュウイは叫んだ。「一人では危険だ。私たちも同行します」
良く見ると、リュウイを始め、三人の背中に羽が生えている。成功したようだ。
急いで外に出る。
「勇気さん、ここから飛んでいきましょう」
「判りました」
全員が羽を羽搏かせ、その瞬間、大空に舞い上がった。
「うわっ!」バランスを取るのが難しく、一瞬落ちそうになり、恐怖感を味わった。
リュウイが咄嗟さに支えてくれたので、バランスを取り戻し、安定した飛行に入った。
都庁までは、そんなに離れてはいない。
勇気達の姿を察知したのだろう。世話師が心に語り掛ける様に、頭の中に言葉が響いた。
『よく来て下さった。これ以上、犠牲は出したくありませんのでな』
『なんで?なんで、こんなバカな事を仕出かしたんですか?』
世話師は一呼吸置いて、静かに語り始めた。
『この世界、つまり勇気さんの世界は、化学に溢れている。そのあまりにも進んだ文明が、私の世界、貴方にとっては異世界と呼ばれる空間に干渉をもたらした。これは危惧する事ですな』
勇気は疑問を呈した。
『それは、詭弁だ。貴方がそう思っているだけで、逆に異世界ではカメラを中心に…』
そうか。デジタルカメラの世界観が、干渉と受け止めたのか。
しかし、世話師がこの世界に来たのは随分昔のことだ。
その時にはデジタルカメラは存在しなかった。
…。まさかフィルムでも同様の現象があったのか。
そう考えている内に、世話師の元へと辿り着いた。
「世話師さん、フィルムの時代から…」
世話師はニヤリと笑った。
「そうですな、あの時代から干渉は既に始まっていたのですよ。私は自分の世界が貴方の世界に、映しこまれるのを大いに嫌った。何とか食い止めることが出来ないかとね」
それは一方的だ。勇気はそう言い出しそうになった。
「それでですな、魔法悪天を作り出し、其処にオークたちを集めた。予め悪意の芯を植え込み兵士として勇気さんの世界に列挙しようと考えた」
何て事だ。この世界を崩壊させる為に、そんな手の込んだことを目論んでいたのか。
リュウイが話を切って叫んだ。
「魔法悪天に地を作ったのは、お前だというのか?」
「その通りですな。私にとっては造作も無い事でしたがな」
其処で世話師の顔が歪んだ。
「しかし、あの時、魔法悪天のオークが此方の世界にジャンプした際は、若干焦りましたけどな。私の正体をひょっとすると、嗅ぎ分けられるかもしれないと…。これは直ぐに事を起こさないとな」
「貴方は自分だけの都合で、この世界を破壊するというのですか?」勇気は焦りを感じた。
そして、期待通りの、そして聞きたくなかった事を世話師の口から聞く事となる。
「私がすべての世界の王と成る為…」
その瞬間、リュウイが剣を取り出し、世話師を突こうとした。
「リュウイさん!」勇気が叫ぶが、リュウイは怒りの形相で、あと数センチで世話師の心臓を突こうとした瞬間、リュウイが弾き飛ばされた。
カイとユイリィが慌てて、リュウイを受け止める。
「世話師さん、もうやめて!これ以上、此方の人に危害を加えないで!」ユイリィが涙ながらに訴えた。
世話師が勇気の方に向き直り、提言を発した。
「勇気さん、私と共に魔法悪天に来てもらいますかな?」
勇気が何かを言い掛けた時、ヘリの存在に気が付いた。
報道のヘリだ。
「信じられません!背中に羽の生えた人が、四人もおり、現在、容疑者と交渉に当たっています。これは現実なのでしょうか?俄かには信じられませんが、まるで天使の様です」
「少し、五月蠅いですな」
世話師がまた、手をかざし、呪文を唱えている。
勇気は溜まらず、世話師に突撃をした。
その行動に驚くと思われたが、世話師は意外にも笑みを浮かべた。
「それでいいんですよ、勇気さん」
勇気の力が一挙に吸い取られるように、世話師に凭れ掛かった。
見る見るうちに、世話師の姿が変貌する。
角が生えて、牙を剥く。その姿はオークの王のようだ。
報道のヘリからその様子を映し出した映像が一挙に流れる。
正に人外の怪物となしていた。
「ははは。これで天使は私の力の根源となるな」
その時、ユイリィは持ち合わせていたデジタルカメラに囲いの魔法を静かに唱えて、勇気を写した。
瞬間、勇気の姿がまるでパラパラ漫画に様に変化し、その姿を消してしまった。
デジタルカメラを再生した中に、勇気が眠っている。
「小娘ー!今何をした?」世話師が正に怪物のような形相で、ユイリィに近付いてくる。
リュウイとカイは攻撃魔法を駆使し、世話師にアタックを掛けた。
しかし、それは徒労に終わる。
リュウイとカイは世話師の眼力で弾き飛ばされ、地上に落ちて行った。
「リュウイ、カイ!」涙目でユイリィが叫ぶ。
「小娘、そのデジカメを寄越せ!」
最後の手段。ユイリィは全霊を掛けて、封じ込めの魔法をデジカメに施す。
報道のヘリからは「お嬢さん、逃げなさい!」絶叫が飛ぶ。
「五月蠅い雑魚め!」世話師が、報道へりに向かい火の玉を投げつけようとした瞬間、身体が不意に歪んで、ユイリィの持つデジカメに吸い取られていった。
デジカメの液晶には、張り付いたような世話師が其処に居た。
勇気は世話師が吸い込まれたのと略同時に、デジカメから、抜け出した。
世話師を吸収する為、デジカメの中で勇気は全力を使って、ユイリィの力を増大していたのだ。
「勇気!勇気!」涙を流し、勇気に抱き付く。
「終わったよ。ありがとう、ユイリィ」
そうだ。リュウイとカイが…。
「俺たちでしたら、大丈夫ですよ」
その声に、勇気とユイリィは安堵の溜息を付いた。
呆気なく終わった騒動は、犠牲者が十数人出るという、悲劇に見舞われ、勇気達も警察に話を受けたが、あまりにも現実離れした状況に、不可解な事件としてかたずける事となる。
都庁舎は半分崩落して、再建の目途はたっていない。
勇気が思ったのは、魔法は使い方を誤ると、とんでもない悲劇を生むものだと、実感した。
デジカメに吸い取られた世話師は、ユイリィが削除して、その姿を消去された。
これで、物理的にはオークの王として開眼した、世話師は姿を消したのだ。
天使のハーフとして存在した、勇気とユイリィの思いが合併して、強大な力を封じ込めた。
「しかし、あの世話師は、ずっとこの機会を探っていたんですね」
リュウイは腕の傷を触りながら、ホッとした表情で勇気に問うた。
それから暫くして、ユイリィの住む世界であるイベントが行われていた。
デジタルカメラでの撮影コンテスト。カメラは予めユイリィが用意した40台。
自分たちの住む場所を、或は仲間を写してユイリィの写真店に張り出す。
一等にはデジタルカメラ一式プレゼントだそうだ。
審査員にはリュウイとカイ、そして異世界の天使、勇気が含まれる。
「ユイリィ、あの世話師のように、皆、吸い込まれたりしないのか?」
不安げな勇気に、ユイリィは笑顔で答えた。
「大丈夫!あの時は、勇気との力がそうさせたんだから、このコンテストでは、まず、そういう事は起こらないよ」
「そっか」勇気は安心して、空を見上げた。
勇気の世界と同様、青空に真っ白な雲がゆったりと流れ、新たな異世界との関係を、祝福するような一日となった。[第十五章完結]
最早猶予がない。
TVでは怪我人が複数出ており、勇気は憤りを感じていた。
「リュウイさん、兎に角、僕だけでも行きます!」
リュウイは叫んだ。「一人では危険だ。私たちも同行します」
良く見ると、リュウイを始め、三人の背中に羽が生えている。成功したようだ。
急いで外に出る。
「勇気さん、ここから飛んでいきましょう」
「判りました」
全員が羽を羽搏かせ、その瞬間、大空に舞い上がった。
「うわっ!」バランスを取るのが難しく、一瞬落ちそうになり、恐怖感を味わった。
リュウイが咄嗟さに支えてくれたので、バランスを取り戻し、安定した飛行に入った。
都庁までは、そんなに離れてはいない。
勇気達の姿を察知したのだろう。世話師が心に語り掛ける様に、頭の中に言葉が響いた。
『よく来て下さった。これ以上、犠牲は出したくありませんのでな』
『なんで?なんで、こんなバカな事を仕出かしたんですか?』
世話師は一呼吸置いて、静かに語り始めた。
『この世界、つまり勇気さんの世界は、化学に溢れている。そのあまりにも進んだ文明が、私の世界、貴方にとっては異世界と呼ばれる空間に干渉をもたらした。これは危惧する事ですな』
勇気は疑問を呈した。
『それは、詭弁だ。貴方がそう思っているだけで、逆に異世界ではカメラを中心に…』
そうか。デジタルカメラの世界観が、干渉と受け止めたのか。
しかし、世話師がこの世界に来たのは随分昔のことだ。
その時にはデジタルカメラは存在しなかった。
…。まさかフィルムでも同様の現象があったのか。
そう考えている内に、世話師の元へと辿り着いた。
「世話師さん、フィルムの時代から…」
世話師はニヤリと笑った。
「そうですな、あの時代から干渉は既に始まっていたのですよ。私は自分の世界が貴方の世界に、映しこまれるのを大いに嫌った。何とか食い止めることが出来ないかとね」
それは一方的だ。勇気はそう言い出しそうになった。
「それでですな、魔法悪天を作り出し、其処にオークたちを集めた。予め悪意の芯を植え込み兵士として勇気さんの世界に列挙しようと考えた」
何て事だ。この世界を崩壊させる為に、そんな手の込んだことを目論んでいたのか。
リュウイが話を切って叫んだ。
「魔法悪天に地を作ったのは、お前だというのか?」
「その通りですな。私にとっては造作も無い事でしたがな」
其処で世話師の顔が歪んだ。
「しかし、あの時、魔法悪天のオークが此方の世界にジャンプした際は、若干焦りましたけどな。私の正体をひょっとすると、嗅ぎ分けられるかもしれないと…。これは直ぐに事を起こさないとな」
「貴方は自分だけの都合で、この世界を破壊するというのですか?」勇気は焦りを感じた。
そして、期待通りの、そして聞きたくなかった事を世話師の口から聞く事となる。
「私がすべての世界の王と成る為…」
その瞬間、リュウイが剣を取り出し、世話師を突こうとした。
「リュウイさん!」勇気が叫ぶが、リュウイは怒りの形相で、あと数センチで世話師の心臓を突こうとした瞬間、リュウイが弾き飛ばされた。
カイとユイリィが慌てて、リュウイを受け止める。
「世話師さん、もうやめて!これ以上、此方の人に危害を加えないで!」ユイリィが涙ながらに訴えた。
世話師が勇気の方に向き直り、提言を発した。
「勇気さん、私と共に魔法悪天に来てもらいますかな?」
勇気が何かを言い掛けた時、ヘリの存在に気が付いた。
報道のヘリだ。
「信じられません!背中に羽の生えた人が、四人もおり、現在、容疑者と交渉に当たっています。これは現実なのでしょうか?俄かには信じられませんが、まるで天使の様です」
「少し、五月蠅いですな」
世話師がまた、手をかざし、呪文を唱えている。
勇気は溜まらず、世話師に突撃をした。
その行動に驚くと思われたが、世話師は意外にも笑みを浮かべた。
「それでいいんですよ、勇気さん」
勇気の力が一挙に吸い取られるように、世話師に凭れ掛かった。
見る見るうちに、世話師の姿が変貌する。
角が生えて、牙を剥く。その姿はオークの王のようだ。
報道のヘリからその様子を映し出した映像が一挙に流れる。
正に人外の怪物となしていた。
「ははは。これで天使は私の力の根源となるな」
その時、ユイリィは持ち合わせていたデジタルカメラに囲いの魔法を静かに唱えて、勇気を写した。
瞬間、勇気の姿がまるでパラパラ漫画に様に変化し、その姿を消してしまった。
デジタルカメラを再生した中に、勇気が眠っている。
「小娘ー!今何をした?」世話師が正に怪物のような形相で、ユイリィに近付いてくる。
リュウイとカイは攻撃魔法を駆使し、世話師にアタックを掛けた。
しかし、それは徒労に終わる。
リュウイとカイは世話師の眼力で弾き飛ばされ、地上に落ちて行った。
「リュウイ、カイ!」涙目でユイリィが叫ぶ。
「小娘、そのデジカメを寄越せ!」
最後の手段。ユイリィは全霊を掛けて、封じ込めの魔法をデジカメに施す。
報道のヘリからは「お嬢さん、逃げなさい!」絶叫が飛ぶ。
「五月蠅い雑魚め!」世話師が、報道へりに向かい火の玉を投げつけようとした瞬間、身体が不意に歪んで、ユイリィの持つデジカメに吸い取られていった。
デジカメの液晶には、張り付いたような世話師が其処に居た。
勇気は世話師が吸い込まれたのと略同時に、デジカメから、抜け出した。
世話師を吸収する為、デジカメの中で勇気は全力を使って、ユイリィの力を増大していたのだ。
「勇気!勇気!」涙を流し、勇気に抱き付く。
「終わったよ。ありがとう、ユイリィ」
そうだ。リュウイとカイが…。
「俺たちでしたら、大丈夫ですよ」
その声に、勇気とユイリィは安堵の溜息を付いた。
呆気なく終わった騒動は、犠牲者が十数人出るという、悲劇に見舞われ、勇気達も警察に話を受けたが、あまりにも現実離れした状況に、不可解な事件としてかたずける事となる。
都庁舎は半分崩落して、再建の目途はたっていない。
勇気が思ったのは、魔法は使い方を誤ると、とんでもない悲劇を生むものだと、実感した。
デジカメに吸い取られた世話師は、ユイリィが削除して、その姿を消去された。
これで、物理的にはオークの王として開眼した、世話師は姿を消したのだ。
天使のハーフとして存在した、勇気とユイリィの思いが合併して、強大な力を封じ込めた。
「しかし、あの世話師は、ずっとこの機会を探っていたんですね」
リュウイは腕の傷を触りながら、ホッとした表情で勇気に問うた。
それから暫くして、ユイリィの住む世界であるイベントが行われていた。
デジタルカメラでの撮影コンテスト。カメラは予めユイリィが用意した40台。
自分たちの住む場所を、或は仲間を写してユイリィの写真店に張り出す。
一等にはデジタルカメラ一式プレゼントだそうだ。
審査員にはリュウイとカイ、そして異世界の天使、勇気が含まれる。
「ユイリィ、あの世話師のように、皆、吸い込まれたりしないのか?」
不安げな勇気に、ユイリィは笑顔で答えた。
「大丈夫!あの時は、勇気との力がそうさせたんだから、このコンテストでは、まず、そういう事は起こらないよ」
「そっか」勇気は安心して、空を見上げた。
勇気の世界と同様、青空に真っ白な雲がゆったりと流れ、新たな異世界との関係を、祝福するような一日となった。[第十五章完結]
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ゴブリン娘と天運のミミカ
高瀬ユキカズ
ファンタジー
小説を読んで、本気で異世界へ行けると信じている主人公の須藤マヒロ。
出会った女神様が小説とちょっと違うけど、女神様からスキルを授かる。でも、そのスキルはどう考えても役立たず。ところがそのスキルがゴブリン娘を救う。そして、この世界はゴブリンが最強の種族であると知る。
一度は街から追い払われたマヒロだったがゴブリン娘のフィーネと共に街に潜り込み、ギルドへ。
街に異変を感じたマヒロは、その異変の背後にいる、同じ転生人であるミミカという少女の存在を知ることになる。
ゴブリン最強も、異世界の異変も、ミミカが関わっているらしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる