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「もう我慢しなくていいんだよ」
……我慢?
私は何を我慢しているの?
「アイシラ、君の負けだよ」
負け?
私が悲しいって、助けてって思ってしまったから?
サクヤはアイシラの両頬をそっと両手で包んだ。
温かい。
「随分頑張ったようだけど、君の負け。だからもう頑張らなくていい」
あなたがそれを言うの?
「これからは感情を抑えこむ必要は全くないんだよ」
そうしなければならなかった原因はあなたなのに。
「思いっきり笑って、悲しい時は好きなだけ泣いたらいい」
それができなかったなのはあなたのせいなのに。
「婚約者と両親の愛情を義妹の奪われて、厳しい花嫁修業にも耐えながら、それでも泣くことを許されず、辛く寂しかったね。でも、これからは俺がいる。君の傍にはこれからずっと、君だけを愛する俺がいるから。俺は絶対に君を裏切らない」
裏切らない?
リカ王子たちのように私を傷つけたりしない?
違う。
私がこうなったのは……。
「よく頑張ったね、アイシラ」
どうして、あなたがそれを言うの?
ずるい。
なんて残酷な人なの。
どうして、私が一番言ってもらいたかった言葉をあなたが言うの?
ずっと心を殺してきた。
何度も、何度も。
もちろん私自身のためでもあったけれど、私はこの国のために、リカ王子のために頑張ってきたのに。
自分の浅はかな行動で精霊憑きになってしまったから、自業自得だと言い聞かせてきた。
弱音も吐かず、笑うこともせず。
私は、孤独だった。
「これからはずっと一緒だ。愛してるよ、アイシラ。永遠に」
張り詰めていた心が一気にほどけていく。
あなたのせいなのに。
そう思うのに心が止められない。
想いが溢れ出てくる。
私は何を我慢していたの?
私は……。
ずっと泣きたかった。
ずっと笑いたかった。
大きな声で。
「わぁぁあああっ」
アイシラは声を上げて泣いた。
会場中の人がアイシラを見たが、そんなこと気にならなかった。
あんなに騒いでいたリカ王子でさえアイシラに釘付けになっていた。
悲しい。辛い。苦しい。
今まで抑え込んでいた感情が涙と一緒にぼろぼろ流れ出る。
サクヤがぎゅうっと抱き締めた。
「可哀想なアイシラ。さっさと人間に愛想尽かしちゃいな」
抱き締められ、サクヤの顔が見えないアイシラは、その顔が笑っているのさえ気づかない。
その表情に異様な執着を見た陛下は、ぞくりと恐怖を感じ、無意識に後ろへ下がった。
「さぁ、俺と夫婦になろう。幸せにするよ」
甘く魅惑的な言葉。
とっくにアイシラに拒否する権利はないのに、あえてアイシラの返事を求める。
もう心を殺したくない。
もう独りはいや。
私は、愛されたい。
アイシラはサクヤの赤い瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。
サクヤの笑みが深くなる。
幸せでたまらないという顔だった。
「じゃあ俺たちが出会った場所に帰ろうね」
あの大好きだった湖の底に。
サクヤとアイシラの周りに霧のようなものが漂い、二人の姿を隠した。
そして、再び霧が晴れた時そこに二人の姿はなかった。
……我慢?
私は何を我慢しているの?
「アイシラ、君の負けだよ」
負け?
私が悲しいって、助けてって思ってしまったから?
サクヤはアイシラの両頬をそっと両手で包んだ。
温かい。
「随分頑張ったようだけど、君の負け。だからもう頑張らなくていい」
あなたがそれを言うの?
「これからは感情を抑えこむ必要は全くないんだよ」
そうしなければならなかった原因はあなたなのに。
「思いっきり笑って、悲しい時は好きなだけ泣いたらいい」
それができなかったなのはあなたのせいなのに。
「婚約者と両親の愛情を義妹の奪われて、厳しい花嫁修業にも耐えながら、それでも泣くことを許されず、辛く寂しかったね。でも、これからは俺がいる。君の傍にはこれからずっと、君だけを愛する俺がいるから。俺は絶対に君を裏切らない」
裏切らない?
リカ王子たちのように私を傷つけたりしない?
違う。
私がこうなったのは……。
「よく頑張ったね、アイシラ」
どうして、あなたがそれを言うの?
ずるい。
なんて残酷な人なの。
どうして、私が一番言ってもらいたかった言葉をあなたが言うの?
ずっと心を殺してきた。
何度も、何度も。
もちろん私自身のためでもあったけれど、私はこの国のために、リカ王子のために頑張ってきたのに。
自分の浅はかな行動で精霊憑きになってしまったから、自業自得だと言い聞かせてきた。
弱音も吐かず、笑うこともせず。
私は、孤独だった。
「これからはずっと一緒だ。愛してるよ、アイシラ。永遠に」
張り詰めていた心が一気にほどけていく。
あなたのせいなのに。
そう思うのに心が止められない。
想いが溢れ出てくる。
私は何を我慢していたの?
私は……。
ずっと泣きたかった。
ずっと笑いたかった。
大きな声で。
「わぁぁあああっ」
アイシラは声を上げて泣いた。
会場中の人がアイシラを見たが、そんなこと気にならなかった。
あんなに騒いでいたリカ王子でさえアイシラに釘付けになっていた。
悲しい。辛い。苦しい。
今まで抑え込んでいた感情が涙と一緒にぼろぼろ流れ出る。
サクヤがぎゅうっと抱き締めた。
「可哀想なアイシラ。さっさと人間に愛想尽かしちゃいな」
抱き締められ、サクヤの顔が見えないアイシラは、その顔が笑っているのさえ気づかない。
その表情に異様な執着を見た陛下は、ぞくりと恐怖を感じ、無意識に後ろへ下がった。
「さぁ、俺と夫婦になろう。幸せにするよ」
甘く魅惑的な言葉。
とっくにアイシラに拒否する権利はないのに、あえてアイシラの返事を求める。
もう心を殺したくない。
もう独りはいや。
私は、愛されたい。
アイシラはサクヤの赤い瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。
サクヤの笑みが深くなる。
幸せでたまらないという顔だった。
「じゃあ俺たちが出会った場所に帰ろうね」
あの大好きだった湖の底に。
サクヤとアイシラの周りに霧のようなものが漂い、二人の姿を隠した。
そして、再び霧が晴れた時そこに二人の姿はなかった。
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