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久しぶりにラビンスが来る前に目が覚めた。
サファイア国へきてからあっという間に1ヶ月が過ぎてしまっていた。
初めの頃はラビンスが来る前に目が覚めていたが、この国の心地よさに慣れてしまったのかここ最近はラビンスに起こされるまで朝で来たことに気付かないことも多かった。
今日はなんだかいつもより空気が冷たく感じる。
居心地がいいようにと最大限配慮されたこの部屋で、何故かエメラルド国にいた時のような肌に突き刺さる冷たさを感じた。
嫌な予感がする。
昔からこの予感だけは外れたことがない。
母が死ぬ時も、義母から虐待を受ける時も……。
いや、きっと大丈夫。
だってここには怖いものなんて何もないから。
死ぬのだってまだ先の話だし。
扉がノックされる音が聞こえた。
「どうぞ」
開かれた扉の先にはいつものようにラビンスの姿が。
けれど、その顔にはどこか影があるように感じた。
「おはようございます、オリビア様」
「おはよう。どうしたの、ラビンス」
先ほどの嫌な予感が体中を侵食していく。
大丈夫。ここに怖いものなんてない。
大丈夫だから。
けれどラビンスの次の言葉がそれを裏切った。
「オリビア様に来客でございます。エメラルド国より、アリス様でございます」
どうして……。
体全体がひやりとした感覚に包まれた。
なんで、どうして。
まだ死ぬまでの猶予は残されているはずなのに。
出国前に顔を叩かれたことが思い出された。恐怖で体が震えそうになる。
きっと私がちゃんと死ぬつもりでいるのか確かめに来たんだ。
私の監視のために同行していたエメラルド国の従者たちはどうしてなのか早くに帰国してしまったから。
「アリス様は既に陛下に挨拶されて、オリビア様とこちらで朝食を共にされるそうです」
「え……」
ここで、アリスと一緒に?
この国に来てからずっとロゼ様と一緒に食事をしていた。
たわいのない話をしながら笑い合う時間は私にとって至福だった。
「アリス様のご提案でございます」
残りわずかな私とロゼ様の時間が……。
幸せな時間が……。
アリスに奪われてしまう。
私が乗り気ではない態度だからか、ラビンスは不安そうだった。
心配かけちゃだめだ。
「分かった。じゃあすぐに用意しないとね」
こわばった顔を無理に動かして笑顔を作った。
来てしまったものはしょうがない。
死ぬ意志は変わってないことを伝えて早々に帰ってもらおう。
着替えなどの準備をラビンスに手伝ってもらって、アリスを迎える用意を整えた。
しばらくして他の使用人がアリスを部屋へ連れてきてくれた。
アリスは扉が開き、私の姿を目に捉えるとすぐに駆け寄ってきて私の手を握ってきた。
「オリビア!会いたかったわ!」
突然の思わぬ行動に驚く。
「あぁ、よかった!元気にしていたのね!とても心配していたのよ!オリビアったら城を出て行ったきり手紙も寄越さないんだから!」
手紙って……。
私とあなたはそんな関係じゃ……。
にこにこと可愛らしく笑いながらアリスは部屋の中を見回した。
「でも安心したわ。とても大事にされているようね」
ラビンスから死角になっているその瞳は氷のように冷たかった。
サファイア国へきてからあっという間に1ヶ月が過ぎてしまっていた。
初めの頃はラビンスが来る前に目が覚めていたが、この国の心地よさに慣れてしまったのかここ最近はラビンスに起こされるまで朝で来たことに気付かないことも多かった。
今日はなんだかいつもより空気が冷たく感じる。
居心地がいいようにと最大限配慮されたこの部屋で、何故かエメラルド国にいた時のような肌に突き刺さる冷たさを感じた。
嫌な予感がする。
昔からこの予感だけは外れたことがない。
母が死ぬ時も、義母から虐待を受ける時も……。
いや、きっと大丈夫。
だってここには怖いものなんて何もないから。
死ぬのだってまだ先の話だし。
扉がノックされる音が聞こえた。
「どうぞ」
開かれた扉の先にはいつものようにラビンスの姿が。
けれど、その顔にはどこか影があるように感じた。
「おはようございます、オリビア様」
「おはよう。どうしたの、ラビンス」
先ほどの嫌な予感が体中を侵食していく。
大丈夫。ここに怖いものなんてない。
大丈夫だから。
けれどラビンスの次の言葉がそれを裏切った。
「オリビア様に来客でございます。エメラルド国より、アリス様でございます」
どうして……。
体全体がひやりとした感覚に包まれた。
なんで、どうして。
まだ死ぬまでの猶予は残されているはずなのに。
出国前に顔を叩かれたことが思い出された。恐怖で体が震えそうになる。
きっと私がちゃんと死ぬつもりでいるのか確かめに来たんだ。
私の監視のために同行していたエメラルド国の従者たちはどうしてなのか早くに帰国してしまったから。
「アリス様は既に陛下に挨拶されて、オリビア様とこちらで朝食を共にされるそうです」
「え……」
ここで、アリスと一緒に?
この国に来てからずっとロゼ様と一緒に食事をしていた。
たわいのない話をしながら笑い合う時間は私にとって至福だった。
「アリス様のご提案でございます」
残りわずかな私とロゼ様の時間が……。
幸せな時間が……。
アリスに奪われてしまう。
私が乗り気ではない態度だからか、ラビンスは不安そうだった。
心配かけちゃだめだ。
「分かった。じゃあすぐに用意しないとね」
こわばった顔を無理に動かして笑顔を作った。
来てしまったものはしょうがない。
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「あぁ、よかった!元気にしていたのね!とても心配していたのよ!オリビアったら城を出て行ったきり手紙も寄越さないんだから!」
手紙って……。
私とあなたはそんな関係じゃ……。
にこにこと可愛らしく笑いながらアリスは部屋の中を見回した。
「でも安心したわ。とても大事にされているようね」
ラビンスから死角になっているその瞳は氷のように冷たかった。
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