10 / 32
9
しおりを挟む
オリビアは日が昇るよりも早く目が覚めてしまった。
見慣れない天蓋付きのベッドに一瞬ここはどこだろうと考える。
すぐに頭に浮かんだのはロゼ様の美しいお顔だった。
温かく迎え入れて優しく接してくれたロゼ様。
幸せな夢、ではなかった。
現実だ。
思い出すだけで頬が熱くなる。
名前を呼んでくれた素敵な声も忘れられない。
どうして私なんかを迎え入れてくれたのか。
考えれば考えるほど、それほどロゼ様はお優しい方なのだと感じた。
侍女のラビンスもそう。
突き飛ばしてしまったのに、責めるどころか優しい言葉ばかりをかけてくれた。
一生分の優しさを受けた気分だった。
朝になったらラビンスが起こしに来てくれると言っていた。
ロゼ様と一緒に朝食を食べるために。
お待たせしないように今からでも着替えておいたほうがいいのかな?
ラビンスにこの汚い体は見せられないし。
うん、きっとそう。
持ってきた着替えを出すために部屋の隅に置かれた少ない荷物に近づいた。
箱を開け、中を覗く。
そこにはドレスと一緒に小さな箱が一つ入っていた。
エメラルド国が装飾品なんて高価な物を持たせるとは思えないし、なんだろう。
手に取り、小箱の蓋を開ける。
中に入っているのを見て、どくんと心臓が震えた。
小箱には手の平におさまるほどの小さな瓶が入っていた。
中には紫色の液体が入っている。
それがなんなのかすぐに分かった。
毒だ。
オリビアが自ら死ぬために用意された毒だった。
そして、見慣れない物がもう一つ。
革で作られた細長い入れ物。
中身を見なくてもそれがなんなのか分かった。
きっと、自害するための短剣だ。
毒で死ぬか、短剣を突きして死ぬか。
好きに選べということだろう。
さきほどまでの幸せな気持ちはあっという間に消えてしまった。
涙がこぼれないよう必死にこらえた。
こらえるのは慣れている。泣けば義母の虐待がひどくなるだけだったから。
あぁ、この毒だけが夢だったらよかったのに。
毒の入った小瓶が淡い光を帯びる。
ふと窓の方を見るとカーテンの隙間から朝日が差し込んできていた。
早く着替えなきゃ。
ラビンスが来ちゃう。
どうせ死ぬのならこの幸せをもっと噛みしめたい。
絶望に支配されている時間がもったいない。
きっと私にとって人生最後に幸せだから。
自分を奮い立たせてドレスを掴んだ。
そしてそれを広げ、あることに気づいた。
さっそく絶望する。
オリビアはドレスを着る方法が分からなかったのだ。
エメラルド国ではとても服とは言えないような布切れを渡されて育った。
ど、どうしよう。
ラビンスに手伝ってもらう?
でもそしたら体を見せることになってしまう。
そうなればきっとロゼ様にも知られてしまう。
ロゼ様にもラビンスにも嫌われたくないのに。
どうしようどうしようと思い悩んでいるうちに、扉がノックされた。
ラビンスだ。
どうしてもドレスを着ることができなかったオリビアは観念するしかなかった。
泣きそうな表情で扉を開ける。
ラビンスが驚いた顔をした。
「おはようございます、オリビア様。どうされたのですか」
「ラビンス、あのね……」
見慣れない天蓋付きのベッドに一瞬ここはどこだろうと考える。
すぐに頭に浮かんだのはロゼ様の美しいお顔だった。
温かく迎え入れて優しく接してくれたロゼ様。
幸せな夢、ではなかった。
現実だ。
思い出すだけで頬が熱くなる。
名前を呼んでくれた素敵な声も忘れられない。
どうして私なんかを迎え入れてくれたのか。
考えれば考えるほど、それほどロゼ様はお優しい方なのだと感じた。
侍女のラビンスもそう。
突き飛ばしてしまったのに、責めるどころか優しい言葉ばかりをかけてくれた。
一生分の優しさを受けた気分だった。
朝になったらラビンスが起こしに来てくれると言っていた。
ロゼ様と一緒に朝食を食べるために。
お待たせしないように今からでも着替えておいたほうがいいのかな?
ラビンスにこの汚い体は見せられないし。
うん、きっとそう。
持ってきた着替えを出すために部屋の隅に置かれた少ない荷物に近づいた。
箱を開け、中を覗く。
そこにはドレスと一緒に小さな箱が一つ入っていた。
エメラルド国が装飾品なんて高価な物を持たせるとは思えないし、なんだろう。
手に取り、小箱の蓋を開ける。
中に入っているのを見て、どくんと心臓が震えた。
小箱には手の平におさまるほどの小さな瓶が入っていた。
中には紫色の液体が入っている。
それがなんなのかすぐに分かった。
毒だ。
オリビアが自ら死ぬために用意された毒だった。
そして、見慣れない物がもう一つ。
革で作られた細長い入れ物。
中身を見なくてもそれがなんなのか分かった。
きっと、自害するための短剣だ。
毒で死ぬか、短剣を突きして死ぬか。
好きに選べということだろう。
さきほどまでの幸せな気持ちはあっという間に消えてしまった。
涙がこぼれないよう必死にこらえた。
こらえるのは慣れている。泣けば義母の虐待がひどくなるだけだったから。
あぁ、この毒だけが夢だったらよかったのに。
毒の入った小瓶が淡い光を帯びる。
ふと窓の方を見るとカーテンの隙間から朝日が差し込んできていた。
早く着替えなきゃ。
ラビンスが来ちゃう。
どうせ死ぬのならこの幸せをもっと噛みしめたい。
絶望に支配されている時間がもったいない。
きっと私にとって人生最後に幸せだから。
自分を奮い立たせてドレスを掴んだ。
そしてそれを広げ、あることに気づいた。
さっそく絶望する。
オリビアはドレスを着る方法が分からなかったのだ。
エメラルド国ではとても服とは言えないような布切れを渡されて育った。
ど、どうしよう。
ラビンスに手伝ってもらう?
でもそしたら体を見せることになってしまう。
そうなればきっとロゼ様にも知られてしまう。
ロゼ様にもラビンスにも嫌われたくないのに。
どうしようどうしようと思い悩んでいるうちに、扉がノックされた。
ラビンスだ。
どうしてもドレスを着ることができなかったオリビアは観念するしかなかった。
泣きそうな表情で扉を開ける。
ラビンスが驚いた顔をした。
「おはようございます、オリビア様。どうされたのですか」
「ラビンス、あのね……」
124
お気に入りに追加
3,821
あなたにおすすめの小説
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる