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「お待ちになって、お父様!」

突然王の間が開き、金色のロングヘアの女性が飛び込んできた。

目鼻立ちがくっきりとした小さい顔の美女だった。

幼い頃に何度か見かけたことある程度だったが、すぐに誰なのか分かった。

国王の愛娘、アリスだ。

そしてその後ろには王妃も控えていた。
その姿を見るだけで、恐怖に震えた。

「オリビアにそんな過酷な運命を背負わせるなんてあんまりですわ!」

意外な言葉だった。
アリスとは話したこともなければ、塔に幽閉されてから見たこともない。


父や義母とは、違う?


「自分で死ねだなんて!わざわざそんなことさせなくてもオリビアはサファイア国の魔族に殺されて終わりですわ」


え……?


こちらを見てアリスはくすっと笑った。

「だってそうでしょう?サファイア国は美しいわたくしを嫁にと言ってきたのよ。それなのに代わりにきたのがこんな薄汚い醜い女となったら怒りできっと殺してしまいますわ」

あははっとアリスは高らかに笑う。

父も「確かに」と頷き、笑った。

「でもそうね。意外とオリビアも魔族に愛されてしまうかもしれませんわ」

アリスは近くにいた護衛の兵に何かを耳打ちした。
すると兵はオリビアに近づき、地面へ押さえつけられた。

「い、痛い!なに!?」

ビリィッという音とともに服が破かれた。
元々粗末なものだったそれは、いとも簡単にただの布切れになってしまう。

「いやぁっ!」

「醜い子がなに一人前に恥ずかしがっているのかしら。見なさいよ、自分の体を」

アリスが何を言いたいのか分かった。

「こーんなに醜いなら魔族とお似合いじゃない。気に入られるかもしれなくてよ」

父と義母も笑う。

醜い体。
確かにそうだ。
背中、お腹、足。
顔以外のほぼ全てに義母が毎日虐待した鞭の跡が醜い傷として残っていた。

鞭を打たれた痣、皮膚が裂け血が滲み、化膿して腫れたところもある。

「もし魔族に気に入られたのなら、その時は自分で死になさい。いいわね?」

バチンと頬に衝撃が走る。

「返事は?」

「はい……」

「あら、ごめんなさい。顔まで醜くなっちゃったわね」

ぶたれた頬が赤く染まり、じわじわと痛みが広がる。

サファイア国に行くことに恐怖はない。

竜?
魔族?

そんなもの怖くない。

だって、本当の悪魔たちはここにいるもの。
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