13 / 22
平民の娘 【メアリー】
しおりを挟む
この国は実力主義だ。
努力すれば認められ、身分が低い者でも優秀であれば国の官僚として認められることも夢ではない。
だが、国民の心のほとんどは未だ身分によって支配されている。
身分が低い者は環境のせいにして努力を諦め、
身分が高い者は今の身分に満足し、努力しない。
そう。
全ては「そういう身分だから」と。
それでもわたくしは抗いたかった。
『平民』という身分を恥じているわけではない。
父と母は愛情深く育ててくれたし、それほど貧しいわけでもなかった。
ただ、この国がチャンスを与えてくれるならそれに挑戦してみたかった。
でも、それを応援してくれたのは父と母だけだった。
同じ身分の者たちからは「やめておけ」と言われた。
環境に恵まれている貴族の方が有利であり、努力なんてやるだけ無駄だと。
元々負けず嫌いな性質だ。
そう言われれば言われるほど火がついた。
昼は家の手伝いをし、夜は寝る間も惜しんで勉強した。
そのおかげで今年、貴族たちが多く通う名門の学園に入学することができた。
それも主席で。
高額の学費も免除してもらえ、父と母の負担になることもない。
ほら、努力すれば無理だと言われたことでもきっと叶う。
それなのに入学して、次に待っていたのは貴族たちから皮肉や嫌味だった。
どこに行っても思い知らされる『身分』という言葉に悲しくなった。
高みを目指せば同じ身分の者たちに「諦めろ。どうせ無理だ」と嘲笑混じりに囁かれ、
高みへ行けば、貴族たちに「卑しい身分」と罵られる。
わたくしはただ、認めてほしいだけ。
『平民の娘』ではなく、努力して抗おうとしている『メアリー・マーガレット』を。
わたくしの生き方は、諦めない気持ちは間違っていないのだと。
そんな時に現れた、あのお方。
「あなたたち!黙って聞いていれば勝手なことばかり!恥を知りなさい!」
そう言ってわたくしと貴族の女性たちの間に入ってくれたのは、どう見ても高貴なお方で。
「この子はね、努力で全てを勝ち取ったの!あなたたちがこの子に負けたというのなら、この子よりも努力しなかっただけの話よ!」
涙が溢れそうだった。
あなた様は一体、だれ?
「あ、あなたはランズベリー様!?」
女性の一人が顔を青ざめながら言った。
ランズベリー様?
もしかしてあの、噂のローズ・ランズベリー様?
「で、ですがランズベリー様ともあろうお方がこの子より劣っているはずがありませんわ。どう考えても不正を……」
するとランズベリー様はきょとんとした顔をした。
「ランズベリー様ともあろうお方?あら?どこかでお会いしたかしら?私とあなたは初対面だと思うのだけれど」
「いや、それは……噂で……」
「噂?私という存在を勝手に認識しないで頂きたいわね。私だって努力が足りず誰かに劣る時もあるわ。それを負けた相手のせいにするなど、勘違いも甚だしい」
くるりとランズベリー様がこちらを見て、にこりと笑った。
「私も、もっともっと頑張らないといけないわね」
ランズベリー様がそう言えば、女性たちの発言など薄っぺらくなる。
なぜなら、ランズベリー様は入学試験で2位のお方だから。
『身分』というしがらみに捕らわれず、その人自身を見てくれる。
たとえそれが自分より身分が低いにもかかわらず主席の座を勝ちとった相手でも。
ランズベリー様はもう一度女性たちに顔を向け、厳しい表情を見せた。
それに女性たちはまずいと感じたのか、謝りながら走り去って行った。
この人が王子の婚約者様。
未来の妃。
偏見など持たず人を見る彼女は、この国の妃にふさわしいお方。
「私のことはローズって呼んで」
「私が呼んでほしいから」
胸が熱くなる。
彼女のために官僚になれたら。
目指す夢にさらに希望が広がった。
でも。
あぁ、どうしましょう。
ランズベリー様の『仮の婚約』に期待を抱いてしまう。
もちろん官僚として妃の彼女に仕えることも素敵な未来だけれど……。
あぁ、でもだめだ。どうしましょう。
この国ではまだ同性婚は認められていない。
困った。
この国の官僚になり、政治にも携われるようになればこの国の法律を変えることも夢ではないかしら。
愛しいローズ様。
努力であなたを手に入れることも、できるのかしら?
努力すれば認められ、身分が低い者でも優秀であれば国の官僚として認められることも夢ではない。
だが、国民の心のほとんどは未だ身分によって支配されている。
身分が低い者は環境のせいにして努力を諦め、
身分が高い者は今の身分に満足し、努力しない。
そう。
全ては「そういう身分だから」と。
それでもわたくしは抗いたかった。
『平民』という身分を恥じているわけではない。
父と母は愛情深く育ててくれたし、それほど貧しいわけでもなかった。
ただ、この国がチャンスを与えてくれるならそれに挑戦してみたかった。
でも、それを応援してくれたのは父と母だけだった。
同じ身分の者たちからは「やめておけ」と言われた。
環境に恵まれている貴族の方が有利であり、努力なんてやるだけ無駄だと。
元々負けず嫌いな性質だ。
そう言われれば言われるほど火がついた。
昼は家の手伝いをし、夜は寝る間も惜しんで勉強した。
そのおかげで今年、貴族たちが多く通う名門の学園に入学することができた。
それも主席で。
高額の学費も免除してもらえ、父と母の負担になることもない。
ほら、努力すれば無理だと言われたことでもきっと叶う。
それなのに入学して、次に待っていたのは貴族たちから皮肉や嫌味だった。
どこに行っても思い知らされる『身分』という言葉に悲しくなった。
高みを目指せば同じ身分の者たちに「諦めろ。どうせ無理だ」と嘲笑混じりに囁かれ、
高みへ行けば、貴族たちに「卑しい身分」と罵られる。
わたくしはただ、認めてほしいだけ。
『平民の娘』ではなく、努力して抗おうとしている『メアリー・マーガレット』を。
わたくしの生き方は、諦めない気持ちは間違っていないのだと。
そんな時に現れた、あのお方。
「あなたたち!黙って聞いていれば勝手なことばかり!恥を知りなさい!」
そう言ってわたくしと貴族の女性たちの間に入ってくれたのは、どう見ても高貴なお方で。
「この子はね、努力で全てを勝ち取ったの!あなたたちがこの子に負けたというのなら、この子よりも努力しなかっただけの話よ!」
涙が溢れそうだった。
あなた様は一体、だれ?
「あ、あなたはランズベリー様!?」
女性の一人が顔を青ざめながら言った。
ランズベリー様?
もしかしてあの、噂のローズ・ランズベリー様?
「で、ですがランズベリー様ともあろうお方がこの子より劣っているはずがありませんわ。どう考えても不正を……」
するとランズベリー様はきょとんとした顔をした。
「ランズベリー様ともあろうお方?あら?どこかでお会いしたかしら?私とあなたは初対面だと思うのだけれど」
「いや、それは……噂で……」
「噂?私という存在を勝手に認識しないで頂きたいわね。私だって努力が足りず誰かに劣る時もあるわ。それを負けた相手のせいにするなど、勘違いも甚だしい」
くるりとランズベリー様がこちらを見て、にこりと笑った。
「私も、もっともっと頑張らないといけないわね」
ランズベリー様がそう言えば、女性たちの発言など薄っぺらくなる。
なぜなら、ランズベリー様は入学試験で2位のお方だから。
『身分』というしがらみに捕らわれず、その人自身を見てくれる。
たとえそれが自分より身分が低いにもかかわらず主席の座を勝ちとった相手でも。
ランズベリー様はもう一度女性たちに顔を向け、厳しい表情を見せた。
それに女性たちはまずいと感じたのか、謝りながら走り去って行った。
この人が王子の婚約者様。
未来の妃。
偏見など持たず人を見る彼女は、この国の妃にふさわしいお方。
「私のことはローズって呼んで」
「私が呼んでほしいから」
胸が熱くなる。
彼女のために官僚になれたら。
目指す夢にさらに希望が広がった。
でも。
あぁ、どうしましょう。
ランズベリー様の『仮の婚約』に期待を抱いてしまう。
もちろん官僚として妃の彼女に仕えることも素敵な未来だけれど……。
あぁ、でもだめだ。どうしましょう。
この国ではまだ同性婚は認められていない。
困った。
この国の官僚になり、政治にも携われるようになればこの国の法律を変えることも夢ではないかしら。
愛しいローズ様。
努力であなたを手に入れることも、できるのかしら?
1
お気に入りに追加
4,423
あなたにおすすめの小説
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
逃がす気は更々ない
棗
恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。
リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。
※なろうさんにも公開中。
婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。
棗
恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。
そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。
前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。
執事が〇〇だなんて聞いてない!
一花八華
恋愛
テンプレ悪役令嬢であるセリーナは、乙女ゲームの舞台から穏便に退場する為、処女を散らそうと決意する。そのお相手に選んだのは能面執事のクラウスで……
ちょっとお馬鹿なお嬢様が、色気だだ漏れな狼執事や、ヤンデレなお義兄様に迫られあわあわするお話。
※ギャグとシリアスとホラーの混じったラブコメです。寸止め。生殺し。
完結感謝。後日続編投稿予定です。
※ちょっとえっちな表現を含みますので、苦手な方はお気をつけ下さい。
表紙は、綾切なお先生にいただきました!
じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。
【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。
白霧雪。
恋愛
王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。
甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)
夕立悠理
恋愛
伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。
父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。
何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。
不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。
そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。
ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。
「あなたをずっと待っていました」
「……え?」
「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」
下僕。誰が、誰の。
「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」
「!?!?!?!?!?!?」
そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。
果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる