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平民の娘 【メアリー】

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この国は実力主義だ。
努力すれば認められ、身分が低い者でも優秀であれば国の官僚として認められることも夢ではない。

だが、国民の心のほとんどは未だ身分によって支配されている。

身分が低い者は環境のせいにして努力を諦め、
身分が高い者は今の身分に満足し、努力しない。

そう。
全ては「そういう身分だから」と。

それでもわたくしは抗いたかった。
『平民』という身分を恥じているわけではない。
父と母は愛情深く育ててくれたし、それほど貧しいわけでもなかった。

ただ、この国がチャンスを与えてくれるならそれに挑戦してみたかった。

でも、それを応援してくれたのは父と母だけだった。
同じ身分の者たちからは「やめておけ」と言われた。
環境に恵まれている貴族の方が有利であり、努力なんてやるだけ無駄だと。

元々負けず嫌いな性質たちだ。
そう言われれば言われるほど火がついた。

昼は家の手伝いをし、夜は寝る間も惜しんで勉強した。

そのおかげで今年、貴族たちが多く通う名門の学園に入学することができた。
それも主席で。
高額の学費も免除してもらえ、父と母の負担になることもない。

ほら、努力すれば無理だと言われたことでもきっと叶う。

それなのに入学して、次に待っていたのは貴族たちから皮肉や嫌味だった。

どこに行っても思い知らされる『身分』という言葉に悲しくなった。

高みを目指せば同じ身分の者たちに「諦めろ。どうせ無理だ」と嘲笑混じりに囁かれ、
高みへ行けば、貴族たちに「卑しい身分」と罵られる。

わたくしはただ、認めてほしいだけ。
『平民の娘』ではなく、努力して抗おうとしている『メアリー・マーガレット』を。

わたくしの生き方は、諦めない気持ちは間違っていないのだと。




そんな時に現れた、あのお方。

「あなたたち!黙って聞いていれば勝手なことばかり!恥を知りなさい!」

そう言ってわたくしと貴族の女性たちの間に入ってくれたのは、どう見ても高貴なお方で。

「この子はね、努力で全てを勝ち取ったの!あなたたちがこの子に負けたというのなら、この子よりも努力しなかっただけの話よ!」

涙が溢れそうだった。

あなた様は一体、だれ?

「あ、あなたはランズベリー様!?」

女性の一人が顔を青ざめながら言った。

ランズベリー様?
もしかしてあの、噂のローズ・ランズベリー様?

「で、ですがランズベリー様ともあろうお方がこの子より劣っているはずがありませんわ。どう考えても不正を……」

するとランズベリー様はきょとんとした顔をした。

「ランズベリー様ともあろうお方?あら?どこかでお会いしたかしら?私とあなたは初対面だと思うのだけれど」

「いや、それは……噂で……」

「噂?私という存在を勝手に認識しないで頂きたいわね。私だって努力が足りず誰かに劣る時もあるわ。それを負けた相手のせいにするなど、勘違いも甚だしい」

くるりとランズベリー様がこちらを見て、にこりと笑った。

「私も、もっともっと頑張らないといけないわね」

ランズベリー様がそう言えば、女性たちの発言など薄っぺらくなる。

なぜなら、ランズベリー様は入学試験で2位のお方だから。

『身分』というしがらみに捕らわれず、その人自身を見てくれる。
たとえそれが自分より身分が低いにもかかわらず主席の座を勝ちとった相手でも。

ランズベリー様はもう一度女性たちに顔を向け、厳しい表情を見せた。

それに女性たちはまずいと感じたのか、謝りながら走り去って行った。

この人が王子の婚約者様。
未来の妃。
偏見など持たず人を見る彼女は、この国の妃にふさわしいお方。

「私のことはローズって呼んで」
「私が呼んでほしいから」

胸が熱くなる。

彼女のために官僚になれたら。
目指す夢にさらに希望が広がった。

でも。

あぁ、どうしましょう。
ランズベリー様の『仮の婚約』に期待を抱いてしまう。
もちろん官僚として妃の彼女に仕えることも素敵な未来だけれど……。

あぁ、でもだめだ。どうしましょう。
この国ではまだ同性婚は認められていない。
困った。
この国の官僚になり、政治にも携われるようになればこの国の法律を変えることも夢ではないかしら。


愛しいローズ様。
努力であなたを手に入れることも、できるのかしら?
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