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価値 【ローズ】
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「本日よりあなた様の護衛を務めさせて頂きますライリーと申します。まだ騎士として未熟で至らぬこともあるかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します」
同じ年なのに?
実物のライリーと出会い、挨拶されて最初に思ったことがそれだった。
背丈だって頭一つ分高いだけ。
幼い見た目に変わりはない。
こんな子供が護衛?
確かにライリーは王子の婚約者であるローズの護衛という設定のキャラクターだ。
近衛騎士団長兼王子の婚約者護衛担当だ。
しかし、こんな幼い頃から護衛として仕えていたとは知らなかった。
こういうのってもっと大人の騎士が担当するものじゃないの?
「俺の兄も担当します」
心を読んだようにライリーは言った。
兄?
確かにライリーの家族、ハリス家は代々騎士をしている。
だから兄がいたらもちろん同じく騎士だろうけど。
ライリーはハリス家の後継ぎのはず。つまりは長男のはずだ。
兄なんて……。
あっ。
急に思い出した。
そうだ、ライリーには10歳以上年の離れた兄がいた。
優秀で、人望が厚いライリーの憧れの人。
けれど若くして任務中に亡くなってしまったのだ。
その任務が、まさにローズの護衛だった。
兄を亡くしたライリーにゲームの中のローズが言い放った言葉が思い出される。
「この私を命の危機にさらして、この役立たずども!」
「私のために命を散らせたことを光栄に思いなさい」
「あなた方は王宮の騎士でしょう。ならば私の道具であるも同じよ」
まだ婚姻前のご令嬢がどうしてここまで強気になれるのか。
正式に王族の一員になったわけでもないのに。
そりゃウィリアム様に嫌われて婚約破棄されるよ。
まぁ、それはさておいて。
その事件は公爵家であるランズベリー家のこれ以上の繁栄を願わない者が仕向けた刺客だった。
けれどその事件は、今の時点でまだ起きていない。
ということは、どうにかしてライリーの兄を死なせずにすむのでは。
「我々はお呼びがかかればいつでも駆け付け、あなた様をお守りします。命を懸けてあなたの盾になります」
そんなことしなくていい。
そう言いたいのに、ライリーの瞳に宿る意志が固く何も言えなかった。
数か月後。
シナリオ通り事件は起きた。
ある日、貴族のご婦人方が集まるお茶会に招待された。
事件は日が落ちたそのお茶会の帰りに起きた。
お母様と私が乗る馬車に何者かが奇襲を仕掛けてきたのだ。
数名の刺客たちと剣を交えて戦ってくれているライリーとその兄アレックス。
きっとこの事件だ。
この事件でアレックスは命を落とす。
シナリオは分かっているのにどうしたらアレックスを死なせずに済むのか結局何も考えが浮かばなかった。
どうしたらいい?
どうしたらアレックスを死なせずにすむ?
ライリーにとってたった一人の兄弟なのに。
近衛騎士としての教育が原因でもあるが、アレックスが死んだ後のローズの暴言によってライリーはさらに自分を道具だと思うようになる。
自分の命は軽く、価値がないのだと。
それをヒロインが“違う”と気付かせてあげるのだ。
鋭い金属音が鳴り響く窓の外をそっと見る。
怪我を負いながらもアレックスとライリーは懸命に戦っていた。
そんな彼らに価値がない?
そんなわけない。
どちらもここで散っていい命であるはずがない。
ふと、窓に映った自分を見た。
なら私は?
ゲームの中の悪役令嬢ローズ。
そのキャラクターに与えられた役割は人を傷つけ、貶めること。
そして最後はその生涯にお似合いの末路を迎える。
生きる価値がないのは、だれ?
アレックスもライリーも近衛騎士として、この国の一員として、輝かしい未来がある。
誰かを愛し、愛される未来がある。
悪役のために死ぬなんて間違っている。
ローズももちろん両親から愛されているけれど、それ以上にたくさんの人を傷つけ、貶める。
悪役が物語から退場すればシナリオが変わる?
刺客が狙っているのは私だ。
私が死ねばその目的は果たされる。
任務を果たせなかったアレックスとライリーはもちろんお咎めを受けるかもしれないが、死ぬよりマシだ。
怖い。死にたくない。
でも……。
「お母様」
向かいに座った体を震わせるお母様の手をとる。
「もうすぐ終わります。大丈夫」
「ローズ?」
「今までたくさん迷惑をかけてきました。傲慢で、わがままで……ここまで育てていただいたこととても感謝しています」
「どうしたの?どうしてそんなことを言うの?」
「お母様、どうかお父様とお幸せに。最後まで不出来な娘でごめんなさい」
お母様の手を離し、馬車の扉を開いて勢いよく外に飛び出した。
「ローズ!ローズ!!」
後ろからお母様の叫びが聞こえる。
さよなら、お母様。
向かう先はアレックス。
こちらに気付き驚いた表情を見せるアレックスにまさに刺客が剣を振り下ろそうとしているところだった。
「やめて!!」
何かを考えるより先に、気付けば刺客の男の懐に突進していた。
一瞬態勢を崩したものの、倒れることはなくすぐにまた剣を振り下ろそうとする男。
月の光を反射して銀色に輝く剣を見て、痛いのかなって我ながら気の抜けたことを思った。
目を閉じ、死を覚悟する。
「ローズ様!!」
同じ年なのに?
実物のライリーと出会い、挨拶されて最初に思ったことがそれだった。
背丈だって頭一つ分高いだけ。
幼い見た目に変わりはない。
こんな子供が護衛?
確かにライリーは王子の婚約者であるローズの護衛という設定のキャラクターだ。
近衛騎士団長兼王子の婚約者護衛担当だ。
しかし、こんな幼い頃から護衛として仕えていたとは知らなかった。
こういうのってもっと大人の騎士が担当するものじゃないの?
「俺の兄も担当します」
心を読んだようにライリーは言った。
兄?
確かにライリーの家族、ハリス家は代々騎士をしている。
だから兄がいたらもちろん同じく騎士だろうけど。
ライリーはハリス家の後継ぎのはず。つまりは長男のはずだ。
兄なんて……。
あっ。
急に思い出した。
そうだ、ライリーには10歳以上年の離れた兄がいた。
優秀で、人望が厚いライリーの憧れの人。
けれど若くして任務中に亡くなってしまったのだ。
その任務が、まさにローズの護衛だった。
兄を亡くしたライリーにゲームの中のローズが言い放った言葉が思い出される。
「この私を命の危機にさらして、この役立たずども!」
「私のために命を散らせたことを光栄に思いなさい」
「あなた方は王宮の騎士でしょう。ならば私の道具であるも同じよ」
まだ婚姻前のご令嬢がどうしてここまで強気になれるのか。
正式に王族の一員になったわけでもないのに。
そりゃウィリアム様に嫌われて婚約破棄されるよ。
まぁ、それはさておいて。
その事件は公爵家であるランズベリー家のこれ以上の繁栄を願わない者が仕向けた刺客だった。
けれどその事件は、今の時点でまだ起きていない。
ということは、どうにかしてライリーの兄を死なせずにすむのでは。
「我々はお呼びがかかればいつでも駆け付け、あなた様をお守りします。命を懸けてあなたの盾になります」
そんなことしなくていい。
そう言いたいのに、ライリーの瞳に宿る意志が固く何も言えなかった。
数か月後。
シナリオ通り事件は起きた。
ある日、貴族のご婦人方が集まるお茶会に招待された。
事件は日が落ちたそのお茶会の帰りに起きた。
お母様と私が乗る馬車に何者かが奇襲を仕掛けてきたのだ。
数名の刺客たちと剣を交えて戦ってくれているライリーとその兄アレックス。
きっとこの事件だ。
この事件でアレックスは命を落とす。
シナリオは分かっているのにどうしたらアレックスを死なせずに済むのか結局何も考えが浮かばなかった。
どうしたらいい?
どうしたらアレックスを死なせずにすむ?
ライリーにとってたった一人の兄弟なのに。
近衛騎士としての教育が原因でもあるが、アレックスが死んだ後のローズの暴言によってライリーはさらに自分を道具だと思うようになる。
自分の命は軽く、価値がないのだと。
それをヒロインが“違う”と気付かせてあげるのだ。
鋭い金属音が鳴り響く窓の外をそっと見る。
怪我を負いながらもアレックスとライリーは懸命に戦っていた。
そんな彼らに価値がない?
そんなわけない。
どちらもここで散っていい命であるはずがない。
ふと、窓に映った自分を見た。
なら私は?
ゲームの中の悪役令嬢ローズ。
そのキャラクターに与えられた役割は人を傷つけ、貶めること。
そして最後はその生涯にお似合いの末路を迎える。
生きる価値がないのは、だれ?
アレックスもライリーも近衛騎士として、この国の一員として、輝かしい未来がある。
誰かを愛し、愛される未来がある。
悪役のために死ぬなんて間違っている。
ローズももちろん両親から愛されているけれど、それ以上にたくさんの人を傷つけ、貶める。
悪役が物語から退場すればシナリオが変わる?
刺客が狙っているのは私だ。
私が死ねばその目的は果たされる。
任務を果たせなかったアレックスとライリーはもちろんお咎めを受けるかもしれないが、死ぬよりマシだ。
怖い。死にたくない。
でも……。
「お母様」
向かいに座った体を震わせるお母様の手をとる。
「もうすぐ終わります。大丈夫」
「ローズ?」
「今までたくさん迷惑をかけてきました。傲慢で、わがままで……ここまで育てていただいたこととても感謝しています」
「どうしたの?どうしてそんなことを言うの?」
「お母様、どうかお父様とお幸せに。最後まで不出来な娘でごめんなさい」
お母様の手を離し、馬車の扉を開いて勢いよく外に飛び出した。
「ローズ!ローズ!!」
後ろからお母様の叫びが聞こえる。
さよなら、お母様。
向かう先はアレックス。
こちらに気付き驚いた表情を見せるアレックスにまさに刺客が剣を振り下ろそうとしているところだった。
「やめて!!」
何かを考えるより先に、気付けば刺客の男の懐に突進していた。
一瞬態勢を崩したものの、倒れることはなくすぐにまた剣を振り下ろそうとする男。
月の光を反射して銀色に輝く剣を見て、痛いのかなって我ながら気の抜けたことを思った。
目を閉じ、死を覚悟する。
「ローズ様!!」
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