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前世の記憶 【ローズ】

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きっかけは幼い頃の些細なことだった。

その日の夜は豪雨と雷で屋敷中に大きな音が響き渡っていた。

その音が原因で眠ることができず、なんとなく自室の窓から外を眺めていた。

すると突然庭にある大きな木に雷が落ち、激しい音と光がローズを襲った。

途端に頭の中に広がる覚えのない記憶の数々。
白いベッド、薬品の匂い、針で刺され続け痣のようになってしまった腕。

みお!しっかりして!澪!!」

澪?
誰?私の名前を呼ぶのは。

私の名前?

私の名前はローズなのに。

「最近ゲームに夢中みたいね」

「うん。本も楽しいけど、今はこのゲームにハマってるの」

ウィリアム王子がすごく素敵なの。
あと、ライリーもニコルも。

ゲーム?

あぁ、そうだ。
ウィリアムも、まだ出会っていないライリーもニコルも、ゲームの中のキャラクターだ。

じゃあローズは?

『あなたのような人、ウィリアム様にはふさわしくないわ!』
『どうして!ウィリアム様!どうして私ではなくあんな娘を選ぶのですか!』

あ、悪役令嬢だ……。




気付いたら自室のベッドの上で眠っていた。
ゆっくりと目を開け、辺りを見回すとお父様とお母様、専属の医師が心配そうな顔で見ていた。

お母様は意識を取り戻した私に安堵の表情を見せ、抱きしめてくれた。

「あぁ、良かったわ。怖かったでしょう。もう大丈夫よ」

あたたかい。
このぬくもりを私は知ってる。

人に抱きしめられるあたたかさ。

ぽろりと涙がこぼれた。

お母さん。

あれは私の前世の記憶。
体が弱く重い病気を患い、いつも病院で過ごしていた。

そんな私の隣で優しく看病してくれた母。

でも結局、最後は病気に負けてしまった。

お母様の背中に腕を回す。

「心配かけさせてごめんなさい」

そう言った瞬間、お母様は離れ、驚いた顔で私を見た。

「え、あなた今なんて……」

「え……心配かけさせてごめんなさい?」

さぁっとお母様とお父様の顔が青ざめる。

「おい!熱があるんじゃないか!?先生!」

「あぁ、可哀想なローズ。よほど雷がショックだったのね」

お父様とお母様が口を揃えて言う。

「あなたが謝るなんて」と。

悪役令嬢ローズ。
彼女は両親に対しても変わらぬ態度だったのか。

シナリオ通りなら婚約者のウィリアム様は学園でヒロインと恋に落ち、ローズは婚約破棄される。

ヒロインに嫌がらせ三昧を繰り広げたローズは国外追放や牢獄行き。
さらにその家族も落ちぶれることになる。

自業自得なローズは仕方ないが、こんな優しい家族まで巻き込むわけにはいかない。
それにもうすぐ孤児を養子として迎え入れ、可愛い弟ができる予定なのだから。

攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど、仕方ない。
なるべく穏便に婚約破棄してもらえるようにしよう。

ウィリアム様、好きだったんだけどな。
でも全力でヒロインとの恋を応援しなくちゃ。
嫌がらせやいじめなんてもってのほか。

それに悪いことばかりじゃない。

自分の手を見て、閉じたり開いたりする。
健康な体。

思わず笑みがこぼれた。

自分の足でこの世界を回り、自分の目でいろんなものを見てみたいな。
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