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愛しい君 【ウィリアム】

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ローズとの婚約は幼い頃に大人たちが勝手に決めたものだった。

好きも嫌いもない。

温室で甘やかされて育った令嬢などどれも同じようなものだ。

現に、初めて会った時のローズは高飛車で、プライドが高く、侍女たちも機嫌を損ねないよう手を焼いていた。

そんな彼女に恋などできるはずもない。

彼女の目にも“私”ではなく、“ウィリアム王子”しか映っていなかった。


そんな彼女の変化に気付いたのは、次に会った時だった。

前日の豪雨や雷で婚約者が傷心していないか見て来いと、ローズに会わせるための口実で無理やり屋敷を訪れるよう言われたのだ。

あんな傲慢な態度をとる者が雷ごときに恐れおののいたりするものか。
そんな可愛いものならどれだけよかったか。

しかし二度目に会った彼女は予想外のものだった。

高圧な態度も口調もなくなり、私の顔を見て驚いたり、顔を赤らめたり、憂いを帯びた表情を見せたり、新鮮な反応ばかりを見せてくれた。

彼女に何があったのだ。

嫌悪さえ抱いていた彼女に興味が引かれた。

それほどまでに、変化した彼女は感情豊かで愛らしかったのだ。


そんな彼女を放っておくはずがなく、幼馴染と彼女の義弟も、彼女に惹かれていた。


盗られてしまうのではないかという焦りと、婚約者という立場の優越感。

彼女に対してこんな感情を抱いてしまうなんて。

それが彼女に恋しているからだと気付くのに時間はかからなかった。

大事にしたい。
誰よりも幸せに。

同じ学園に通うことになったと知った時はどんなに心躍ったことか。

彼女に惹かれる者は少なくない。
片時も離れず、彼女が誰のものかを知らしめなければ。

もちろん私と彼女が婚約していることは誰もが知っていること。
だが、ただの婚約ではなく、私たちは愛し合っているのだと見せつけてやりたい。

愛しい愛しいローズ。
君だけが私にこんな感情を抱かせる。



それなのに。



半年後に学園の卒業式が行われる。

同い年である私とローズは卒業し、ローズは王宮で花嫁修業をするはずだった。

だが、ローズは……

「ウィリアム様。どうか私との婚約を解消してください」

「……は?」

突然の彼女の申し出。

何が気に入らなかった?
何を間違えた?

「理由を聞こうか」

感情的になるのを理性で抑え、問う。

「私が何か気に入られないことをしたかな?」

「いえ!ウィリアム様は何も!……ただ、もっと見聞を広めたいんです」

「というと?」

「他国へ留学しようかと」

「そんなのこれから私の妻として他国へ視察に行くこともあるのだし、それからでも遅くはないだろう?」

彼女の目が泳ぐ。

その仕草で察した。

あぁ、彼女はこの国へ戻るつもりはないのだ。
王妃という立場、そして私から逃げるつもりなのだと。


私から、逃げる?


その後はもう感情のままに動いた。

彼女を王宮に閉じ込め、ライリーとニコルを呼び、事情を説明する。

本当は誰にも会わせたくなかったが、私一人ができることには限界がある。

彼女を守る者が必要だ。
王宮に閉じ込めておくなら彼女の家族を欺くために口裏を合わせる者が必要だ。

二人はすぐに了承した。

当然だ。
3人とも彼女を失うことなど耐えられない。
もはや生きてさえいけないのだから。







森の中で、ローズを見つける。

愛しい人。
さぁ、帰ろう。

鳥かごの中へ。

大事に大事に飼ってあげるから。
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