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第77話 龍と拳
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ユウジの背中の月の天鷲は最大出力まで推力を噴射している。ムラサメの前甲板に緑光の炎が波立つ。その頭の上には、ちょうど拳大の緑の魔法陣が回転していた
「参る!」
もう、足をつく甲板はなかった。揚力を得るためか月の天鷲は翼をいっぱいに広げる。大ムカデは天に向かって立っている状態だ。上昇している。
つまりは、新手のアダケモノは上から降ってくるだろう。
飛ぶモノか?ク海を泳ぐモノもしくは浮くモノ。地に足をつけるモノは続戦能力を考えれば出てこないだろう。相手がユウジ達がク海で浮いていると理解しているならば。
でも、そういえば、あの大ムカデ目は良く見えないのに、なんでこちらの位置が分かるのだろう。
あの、触覚が怪しい。たくさんある足でも探知できるのか?
「ムラサメこちらユウジ。アダケモノの分布の傾向を調べてくれないか?」
「うん、今、結果が出たところ。ユウちゃん、あのね、ムカデってもともと目があんまり見えなくて触覚を使って周りの様子を調べるでしょ?」
そんなの知らん、興味ないがな・・・と言いたいユウジ。
「こいつも同じで、ク海特有の感情の揺らぎと音や振動を感知している可能性があるんだ。裏付けとしてはね、こっちがハリセンボンの爆弾を爆発させながら左から右へと動くと、もっと右に爆弾を撒くんだ。ムラサメは外殻で中の人間の感情波を遮断するから、こっちは音と衝撃を追っているんだと思う。」
む。緑の美少年君、とても素晴らしい。
「それでね、さっきユウちゃん、ムカデの頭をかすめて飛んだでしょ。それをヤツはすぐ避けたよね?多分、この場合は音や衝撃というより、ユウちゃんの攻撃的な感情波を感じて避けたんだと思う。」
つまり、殺意が読まれたか。やっかいだな。探知機能が二つ。いずれも波と揺らぎか。
シロウの声がした。
「ユウジ!そなた右利きよな?」
「へっ?あっ・・ハイ。」
「作戦を考えた。マチルダ殿、ステラさんをユウジの所へ送ってくれ。」
「ああ、分かったわ。転送用意にかかる。」
マチルダはシロウのやりたいことを理解したようだ。
ユウジの拡張視界にも作戦が表示された。
「ステラさん、思い切りやっちゃってくれませんか?」
シロウは右の龍姫に両手を合わせた。
彼女はキッとほほ笑みながら睨む。まんざらでもない様子。
「姉様、こちらはお任せを。」
「いや、マリスも行って!爆弾は僕が叩く。モモも居てくれるし。」
「王子がそう言うのなら」
左の龍姫がシロウに目をやる。
「マチルダ殿、変更じゃ!マリスさんも行く。」
「了解!」
ユーグが拡張視界に顔を出す。
「ユウちゃん、その移動型の仇花はやはり固定型より出力は弱いよ。だいたい三分の一ぐらいだと思う。効果範囲もそうだけど、仇花の直上の効果範囲の高さも同じ割合みたい。」
つまりは、この大ムカデは頭の上10mくらいまでク海を生み出すと。
ユーグ、やっぱりよく観ている。
どおりで、いの一番に花を守るわけだ。仲間が動けなくなるから。
ちなみに、ユーグが言うには、なぜ、おぞましいムカデなのかというと、細長い生き物で高さをとりたいなら、足があるから蛇より安定してるんじゃないのという。・・・安易な。
拡張視界の右側に大ムカデの現在の状態が示される。直立した長さは約50m。現在頭の位置は地面から450mの高さを過ぎたところだ。
「こちらで誘導する。その隙にそなたは配置につけ!」
シロウの指示する位置はここだな。ユウジが翼の角度を変えようとした時、
小雨が降ってきた。
「場の概念が変わっていきます。湿度上昇。動きが2割ほど早くなったわ!」
メルから報告が入る。
「ジメジメが大好きか!」
「電探魔法陣探知!目標2!分かれる。中型」
メルの声が、新たな敵に警鐘を鳴らす。
「あっはぁ!ユウちゃん、これサメってヤツだよ!初めて見た。かっこいい!」
ユーグ君は図鑑を片手に興奮してるのだろう。
ユウジはサメを見たことがない。生まれた時から本物の海はク海の底だったから。
海・・・行ってみたい。見てみたい。入ってみたい。
でもコイツには出くわしたくないな。白い鎧をつけた獰猛な奴など。
サメが降ってきた。大口を開けて。
浮遊機雷に平気でぶつかり、爆風で勢いづけて向かってくる。
血眼の目と口が狂気だ。
「脳みそイカれてるわ!」ユウジは銃を槍に替える。
「サメには銛を打ち込むものらしいなぁ!」
魂座の槍が唸っている。
天から降るサメ、地から飛び上がる鷲。見たことのない光景。
ぶつかった。
「ちぃっ!歯まで石かよ!」
爆風とサメの重さ、下降の勢いでユウジはその速さと勢いを失った。
そこへ、もう一匹が噛みつきに来る。
マチルダの声が響いた。
「ユウジ殿へ転送!」
両の腕が、紅く燃えたかと思うと炎の中から蒼く光る盾付きの籠手が装備される。
「待たせたのう。片城の小童!」
「ダメですよ。小童などと。ねぇユウジ。」
ー震拳双龍姫ー 装着!
両の手のひらに赤い目がある。
「ユウジ!破邪の瞳じゃ!その手に握れば龍の震拳が繰り出せる!」
サメが食らいつこうとするのが鎧越しに分かる。
ユウジは力強くその両拳をを握りしめた。
瞬間
一匹は右拳で涙波紋を顔面にぶち込まれて鎧ごと潰され、そしてもう一匹は左拳で腹に涙波紋を喰らって飛び散るハメになった。
「兄様は一度もこのように使ってくれなんだの。」
「お優しい御方でしたから、我らでモノを殴るなど。」
「でも、コヤツらなら存分に遊べるな。」
「50年分の鬱憤、晴らしましょうかえ?」
「おほほほほほほ。」
二人の姫の笑い声が響いた。
ユウジとシロウの心には恐怖が響いた。
「参る!」
もう、足をつく甲板はなかった。揚力を得るためか月の天鷲は翼をいっぱいに広げる。大ムカデは天に向かって立っている状態だ。上昇している。
つまりは、新手のアダケモノは上から降ってくるだろう。
飛ぶモノか?ク海を泳ぐモノもしくは浮くモノ。地に足をつけるモノは続戦能力を考えれば出てこないだろう。相手がユウジ達がク海で浮いていると理解しているならば。
でも、そういえば、あの大ムカデ目は良く見えないのに、なんでこちらの位置が分かるのだろう。
あの、触覚が怪しい。たくさんある足でも探知できるのか?
「ムラサメこちらユウジ。アダケモノの分布の傾向を調べてくれないか?」
「うん、今、結果が出たところ。ユウちゃん、あのね、ムカデってもともと目があんまり見えなくて触覚を使って周りの様子を調べるでしょ?」
そんなの知らん、興味ないがな・・・と言いたいユウジ。
「こいつも同じで、ク海特有の感情の揺らぎと音や振動を感知している可能性があるんだ。裏付けとしてはね、こっちがハリセンボンの爆弾を爆発させながら左から右へと動くと、もっと右に爆弾を撒くんだ。ムラサメは外殻で中の人間の感情波を遮断するから、こっちは音と衝撃を追っているんだと思う。」
む。緑の美少年君、とても素晴らしい。
「それでね、さっきユウちゃん、ムカデの頭をかすめて飛んだでしょ。それをヤツはすぐ避けたよね?多分、この場合は音や衝撃というより、ユウちゃんの攻撃的な感情波を感じて避けたんだと思う。」
つまり、殺意が読まれたか。やっかいだな。探知機能が二つ。いずれも波と揺らぎか。
シロウの声がした。
「ユウジ!そなた右利きよな?」
「へっ?あっ・・ハイ。」
「作戦を考えた。マチルダ殿、ステラさんをユウジの所へ送ってくれ。」
「ああ、分かったわ。転送用意にかかる。」
マチルダはシロウのやりたいことを理解したようだ。
ユウジの拡張視界にも作戦が表示された。
「ステラさん、思い切りやっちゃってくれませんか?」
シロウは右の龍姫に両手を合わせた。
彼女はキッとほほ笑みながら睨む。まんざらでもない様子。
「姉様、こちらはお任せを。」
「いや、マリスも行って!爆弾は僕が叩く。モモも居てくれるし。」
「王子がそう言うのなら」
左の龍姫がシロウに目をやる。
「マチルダ殿、変更じゃ!マリスさんも行く。」
「了解!」
ユーグが拡張視界に顔を出す。
「ユウちゃん、その移動型の仇花はやはり固定型より出力は弱いよ。だいたい三分の一ぐらいだと思う。効果範囲もそうだけど、仇花の直上の効果範囲の高さも同じ割合みたい。」
つまりは、この大ムカデは頭の上10mくらいまでク海を生み出すと。
ユーグ、やっぱりよく観ている。
どおりで、いの一番に花を守るわけだ。仲間が動けなくなるから。
ちなみに、ユーグが言うには、なぜ、おぞましいムカデなのかというと、細長い生き物で高さをとりたいなら、足があるから蛇より安定してるんじゃないのという。・・・安易な。
拡張視界の右側に大ムカデの現在の状態が示される。直立した長さは約50m。現在頭の位置は地面から450mの高さを過ぎたところだ。
「こちらで誘導する。その隙にそなたは配置につけ!」
シロウの指示する位置はここだな。ユウジが翼の角度を変えようとした時、
小雨が降ってきた。
「場の概念が変わっていきます。湿度上昇。動きが2割ほど早くなったわ!」
メルから報告が入る。
「ジメジメが大好きか!」
「電探魔法陣探知!目標2!分かれる。中型」
メルの声が、新たな敵に警鐘を鳴らす。
「あっはぁ!ユウちゃん、これサメってヤツだよ!初めて見た。かっこいい!」
ユーグ君は図鑑を片手に興奮してるのだろう。
ユウジはサメを見たことがない。生まれた時から本物の海はク海の底だったから。
海・・・行ってみたい。見てみたい。入ってみたい。
でもコイツには出くわしたくないな。白い鎧をつけた獰猛な奴など。
サメが降ってきた。大口を開けて。
浮遊機雷に平気でぶつかり、爆風で勢いづけて向かってくる。
血眼の目と口が狂気だ。
「脳みそイカれてるわ!」ユウジは銃を槍に替える。
「サメには銛を打ち込むものらしいなぁ!」
魂座の槍が唸っている。
天から降るサメ、地から飛び上がる鷲。見たことのない光景。
ぶつかった。
「ちぃっ!歯まで石かよ!」
爆風とサメの重さ、下降の勢いでユウジはその速さと勢いを失った。
そこへ、もう一匹が噛みつきに来る。
マチルダの声が響いた。
「ユウジ殿へ転送!」
両の腕が、紅く燃えたかと思うと炎の中から蒼く光る盾付きの籠手が装備される。
「待たせたのう。片城の小童!」
「ダメですよ。小童などと。ねぇユウジ。」
ー震拳双龍姫ー 装着!
両の手のひらに赤い目がある。
「ユウジ!破邪の瞳じゃ!その手に握れば龍の震拳が繰り出せる!」
サメが食らいつこうとするのが鎧越しに分かる。
ユウジは力強くその両拳をを握りしめた。
瞬間
一匹は右拳で涙波紋を顔面にぶち込まれて鎧ごと潰され、そしてもう一匹は左拳で腹に涙波紋を喰らって飛び散るハメになった。
「兄様は一度もこのように使ってくれなんだの。」
「お優しい御方でしたから、我らでモノを殴るなど。」
「でも、コヤツらなら存分に遊べるな。」
「50年分の鬱憤、晴らしましょうかえ?」
「おほほほほほほ。」
二人の姫の笑い声が響いた。
ユウジとシロウの心には恐怖が響いた。
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