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普通の病院
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しおりを挟むそれから、こっそりと耳打ちするように顔を寄せてきた。
「簡単に嵌められてくれそーなとこ」
「……っ、」
舌なめずりでもしそうなほど楽しげな声音が、囁くように笑う。
昨日染めたらしいダークミルクティー(本人がそういう色って言ってた)色の髪が遠ざかり、僅かに薬剤の匂いが余韻を残す。
「なっ、!!??!??」
小さめの声だったのに聞こえていたらしい。
病室内に響くレベルのとんでもない大きな声に振り向けば、寧音がおっかなびっくり、最大限目を見開いて真っ赤な顔をしていた。
「最低やば!???!!詐欺師!変態!ちょっとそれどういう意味?!どっちの意味で言った!?」
「ったく、叩くなよ。俺は普通に騙されてくれそうって意味で言ったんですけど?寧音の方がそっちのおべんきょーも進んでらっしゃるようで」
「きぃぃぃ!!だまりなさい!!!!」
ぽかぽか湊人の肩を手で叩き、もっともっと赤味を増して非難に声を上げる寧音に、「声でけーよ」と言い返しながら耳を塞いで無言の抗議をしていた。
「いて、いてぇって。仕方ねーな、わかったわかった。言い換えるって。………あーっと、…人が良さそうなとこ?」
「悩んだ挙句出たのそれか!もう遅いっての!あほんだらー!真白に謝れ!」
「謝れっていわれてもなー、…怒ってる?」
「え、ぁ、」
やれやれという態度で発された彼の問いに二人の視線がこっちに集中する。
めぐるましい会話の流れに同じ勢いでついていけず、ぼーっと見ていたせいで慌ててしまう。
考える前に頭を横にふるふる振った。
「う、ううん、別に、」
「だってよ。本人が怒ってないんだからいーじゃん」
「ただ真白が優しいから許してくれただけでしょ!」
本当に何とも思ってなかったけど、代わりにか謝ってくれる寧音になんだか申し訳ない気持ちになってきた。
まさか狙ってるんじゃないの云々と再び二人の言い合いが始まったのを見ていると、視線を感じたのか「ご、ごめんね?部屋に来て勝手に喧嘩ばっかりしてて。うるさいよね」と話を打ち切ってベッドにすとん、と腰を戻す。
「うるさくないよ。…オレの方が色々…よくわかってなくてごめん」
オレも、琉夏と二人みたいなやりとりができればいいのになぁとか、もしかしたら記憶がなくなる前はしてたのかもしれないとか…考えて、あんまり話を聞いてなかった気がする。
こっちの方が失礼なことをしていると思う。
「でも、…寂しかったから、来てくれて良かった」
ありがとうと目を見て感謝を伝えれば、「……っ、」ぴし、と硬直し、固まってしまった寧音に、まずい、何か気に障ったかもしれないと恐々とする。
「……ぁの…、オレ、…変なこと言った、…?」
「…まー、気にすんな。なんかやばいとこに喰らったんだろ」
助けを求めて湊人に聞けば、物知り顔に薄ら笑いを浮かべ、適当な感じで手をひらひらさせた。
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