君の愛に狂って死ぬ

和泉奏

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…思い当たることがないわけではない。

でも、ありえない、と否定する気持ちで、汗がだらだらと出ている気がした。

(なんなんだろうとは思ってた、…けど、でも、)

だからといって”これ”がそうとは限らない。


「……いや、でも、」

「…良かった。ちゃんと、残ってるんだな」

「ぇ、」


今はズボンで隠れているその部位を思い、狼狽えれば、ひどく安堵したような笑みを零す。

その表情に、見慣れない感情を見て、…息を呑んだ。


「…っ、な、んで…」


無意識に、喉が渇く。


「”Luca”」

「…っ、」


短く呟かれた二文字に、まさか、と目を見開いた。

甘く掠れ、僅かに震えた声音。
彼は、オレの左足の付け根のあたりを見下ろし、睫毛を軽く伏せる。
満足げに細めた瞳に苦しみを滲ませていた。

太腿の内側。
そこに彫られた名前のスペルと、

今、聞いた言葉が、まったく同じで


呆然として二の次を踏めないオレに、彼は薄い唇の端を持ち上げる。


「俺の本当の名前」


”アンタが、つけてくれたんだ”

大事そうに、愛執を隠しきれていない笑みを浮かべて、オレの頬を撫でた。

―――――――

付け根の、すぐ横。
太ももの内側に彼の名前が彫られている。

真新しいものでもない。
けど、嫌がって抵抗した自分に彫り刻まれたと思えるほど、その文字は歪んでいなくて。


(でも、)

(…どうしてこんな場所に)


……思い出せない。

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