4 / 25
知らない人
4
しおりを挟むただ、今自分の身に起こっていることに呆然として、固まった。
「あ、の…」
静かに離れていった吐息に、どうして、と嫌悪感よりも先に戸惑いを覚えていると、
「さっき、アンタの好きだった女とキスしてきたって言ったら怒る?」
「…っ、」
オレの機嫌を窺うように小首を傾げ、飄々とした口調で突然そんなことを言い出す彼に、また言葉を失った。
全然誰のことも覚えてないはずなのに、一瞬で心臓が握りつぶされたような感覚になった気がして、思わずわけもわからずに泣きたくなる。
それに、今のが、彼の言った言葉のどちらの苦しみに対するものかもわからない。
「…そんな顔するなって。冗談だよ」
こっちを見て、痛々しく思える仕草で頬を緩め、ぐしゃぐしゃと髪をかきまぜるように撫でてくる手。
また、なんだか胸が痛くて泣きそうになった。
なんとなく知っているような気がするのに、わからない。
「あー、もう…覚えてないくせに、」
「…っ、…すみ、ません、」
なぜか涙ぐんだオレを見下ろし、その顔に焦りが滲む。
頭を、酷く複雑そうな表情で今度は優しくなでてくる。
不器用ながらにも安心させようとしてくれてるのがわかって、また涙が溢れそうになってしまった。
「本当に、まだ何も思い出せない?」
「…はい」
曇るオレの答えに、沈黙が返ってくる。
22
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる