君の愛に狂って死ぬ

和泉奏

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知らない人

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ただ、今自分の身に起こっていることに呆然として、固まった。


「あ、の…」


静かに離れていった吐息に、どうして、と嫌悪感よりも先に戸惑いを覚えていると、


「さっき、アンタの好きだった女とキスしてきたって言ったら怒る?」

「…っ、」


オレの機嫌を窺うように小首を傾げ、飄々とした口調で突然そんなことを言い出す彼に、また言葉を失った。
全然誰のことも覚えてないはずなのに、一瞬で心臓が握りつぶされたような感覚になった気がして、思わずわけもわからずに泣きたくなる。

それに、今のが、彼の言った言葉のどちらの苦しみに対するものかもわからない。


「…そんな顔するなって。冗談だよ」


こっちを見て、痛々しく思える仕草で頬を緩め、ぐしゃぐしゃと髪をかきまぜるように撫でてくる手。
また、なんだか胸が痛くて泣きそうになった。

なんとなく知っているような気がするのに、わからない。


「あー、もう…覚えてないくせに、」

「…っ、…すみ、ません、」


なぜか涙ぐんだオレを見下ろし、その顔に焦りが滲む。
頭を、酷く複雑そうな表情で今度は優しくなでてくる。
不器用ながらにも安心させようとしてくれてるのがわかって、また涙が溢れそうになってしまった。


「本当に、まだ何も思い出せない?」

「…はい」


曇るオレの答えに、沈黙が返ってくる。



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