君の愛に狂って死ぬ

和泉奏

文字の大きさ
上 下
1 / 25
知らない人

1

しおりを挟む











――…泣きそうな、顔。


ぼんやりと、見上げながらそう思う。
けど、きっと今、彼にそういう表情をさせたのはオレだ。


「…すみません」


上辺だけの謝罪をして、視線を逸らす。
唇をそっと噛んでみると痛かった。
自分が横たわっているシーツに、触れる。目に映るものの実態はちゃんとある。声も耳の奥まで届いている。


「…っ、何も、覚えてない…?」

「はい」


形の良い薄い唇が、先ほどのオレの言葉をなぞる。

見た瞬間、わかった。
さっき看護師さん達が興奮したようにこそこそっと話していたのは、この人のことなんだろう。


”愛よね。意識が戻るまで、毎日欠かさずに会いに来てずっと手を握ってるなんて。”

”しかもびっくりするぐらいの超絶イケメンなんだから、私だったら絶対好きになっちゃう。”


やけに、浮足立っているとは思った。
ぼうっとその時のことを思い出し、まだ温度と感触の残っている手を遠くに感じる。


「嘘、だろ…?」


彼が、ふわりと笑みを零した。
怖がっているような微笑を浮かべ、震える声が問いかけてくる。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

いじめてた奴に身体を入れ替えられた

和泉奏
BL
『リクは、僕が幸せにするから。』 俺の身体で笑うアイツに、全て奪われた。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

君が俺を××すまで

和泉奏
BL
【執着攻め】ただ、いつもと同じように平凡な日を過ごすはずだった。 イラスト表紙、赫屋様

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

処理中です...