上 下
2 / 3

2

しおりを挟む



『どんな気持ちだ?愛する者同士を引き裂き、理を捻じ曲げた者よ』

「……」


直接脳内に響いてくる声は、愛しい彼のモノではない。

代わりに、颯真を抱き締める腕に力を入れ、縋るように身を預けた。

圧倒的な安堵と幸福感。
後悔なんて、微塵もしていない。

…幸せだ、幸せだ、幸せだ…ああ、良かった、間に合った、と心の底から込み上げる感情の波に笑みを零した。


俺は颯真が好きだった。

ずっとずっと好きだった。俺には颯真しかいないのに。


それを、アイツが奪っていこうとした。
俺が持っていないものを全て手にしていて、それを当然だとでもいいたげに笑って幸せに生きているアイツが、颯真まで俺から取り上げようとしたから。

だから、悪魔と契約をした。

颯真が俺を愛するように。颯真が俺を一番だと思うように。

大きな、けれど颯真と想いを通じ合えるのならば些細な代償と引き換えに契りを交わした。

小説でよく見るバカな主人公のように、相手に想ってもらわなければ意味がないなんて言わない。

俺だけでは彼を手に入れられない。どう足掻いても、望みは叶わない。

綺麗ごとだけでは幸せになんかなれない。

どんな手段でもいいから、颯真が欲しかった。奪われたくなかった。


「…楓」


耳元で囁かれた名前に、ほんの僅かに身体を離す。

少し背の高い彼の熱っぽい瞳には、俺が映っている。

俺だけを見ている。

他ではない、俺を好きになってくれている。

アイツじゃない。


……俺、だけ。


見上げていると、颯真が愛しい相手を見るような眼差しで微笑んだ。

近づけられる顔に、そっと目を閉じる。
吐息とともにそっと触れてきた唇に、どうしようもないぐらい…救いがたいほどの歓喜が全身を震わせた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

最愛を亡くした男は今度こそその手を離さない

竜鳴躍
BL
愛した人がいた。自分の寿命を分け与えても、彼を庇って右目と右腕を失うことになっても。見返りはなくても。親友という立ち位置を失うことを恐れ、一線を越えることができなかった。そのうちに彼は若くして儚くなり、ただ虚しく過ごしているとき。彼の妹の子として、彼は生まれ変わった。今度こそ、彼を離さない。 <関連作> https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/745514318 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/186571339 R18にはなりませんでした…! 短編に直しました。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

処理中です...