712 / 786
壊れて、
29
しおりを挟む………
………………………
…何を、していたかはあまり覚えていない。
どうしてたっけ。何だっけ。
「…痛い、」
ぽつりと、声が零れた。
迷子で、空虚に震えている音に…あはは、と笑ってしまう。
本当は二人で行くはずだった大浴場にいる予定だったのに、今いるのは部屋にある小さな洗面台。
ぼたぼたと、腕から血が流れて床に落ちている。
…手にある小さな刃物で、思い切り腕の皮を引き裂いた跡。
せっかくあんなに丁寧に巻いてくれた包帯が、みるみるうちに真っ赤に染まってしまった。
びりびり。どろどろ。ぼたぼた。
大きな波に痛みを生じ、頭がおかしくなるほどの心臓の捻じれが少しだけ麻痺したような気がした。
気持ちの混乱が、ほんの少しなくなって冷静になる。
(…あと、どこを触られたんだろう)
浴衣を捲り上げた。
刃物を振り上げ、狙いを定める。
…と、
「っ、?!何、して――っ、」
声が、聞こえた。
驚愕と、悲嘆と、絶望と、悲痛と、
叫ぶような声と同時、手に持っていた刃物が奪われた。
放り捨てたのか、カランカランとどこかに当たる音がする。
え、と驚いている間に抱き締められ、バランスを崩して床に倒れた。
背中が、痛い。結構強く打ったから肺が一瞬苦しくなった。
…背に回された腕と、抱擁してくる身体。
黒くさらさらとした髪と、愛しい香り。
「…どうしたの…?」
「……っ、」
声はない。
ただひたすらに、今まで以上に長く抱き締めてくるから、窒息するかと思った。
…そして、どうしてか震えている。
速く乱れた心臓の動きと呼吸、異様な身体の震えが直に伝わってくる。
「くーくん…?」
戸惑い、声をかけ続けていれば…ようやく、おれの背に回っていた腕の力が緩んだ。
ゆっくりと、珍しいほどに鈍い動作で身体を起こした彼を見上げて…息を呑む。
「――…」
酷く、泣きそうな顔をしていた。
押し倒したままおれを見下ろすくーくんの顔が、これでもかってほど泣きそうに歪んでいた。
32
お気に入りに追加
1,076
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる