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壊れて、
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しおりを挟む「珍しいな。…もしかして、まーくんに会ったから?」
冷たい表情のまま微笑む蒼に、…ぐ、と顎を引けば「…へぇ」とひとりでに納得したような仕草をした。
「遊ばれ足りないって顔してる」
「っ、」
俺を見る蒼の目が、氷よりも冷たく研ぎ澄まされている。
その目に恐怖以上の何かを感じるのはいつものことだ。
…が、普段の数倍やばい気配を感じた。
瞬間、
「望み通り、夜から数を増やそうか」
「…ッ、!」
「人では物足りないなら動物も必要だな。暇を持て余した金持ちが沢山来てくれるから、精々可愛がってもらえよ」
青ざめた俺に、その整った薄い唇は容赦なく地獄を告げる。
無感情に吐き捨て、そのまま部屋を出ていこうとする蒼に、「待て」と声を荒げた。
「ソイツといると色々大変だろ?丁度いいからここに置いてけ」
「…は?」
「お前のところから逃げて、俺のところに来たのはソイツだ。家畜には俺が必要なんだよ」
今更何を言ったところで夜散々な目に遭うことは変わりないから、いっそのこと怒らせてやりたくなった。
人形みたいなこいつを見てると腹が立つ。
ついでに『くーくん』うるさい、その腕に抱かれてるものにも苛立ちがとまらねえ。
「忘れたか?そもそもお前はソイツに刃物を向けられ、刺されたんだってこと」
「…まーくんの意志じゃない」
「望もうが望まなかろうが、結果的に家畜の手にある凶器がお前に刺さった。どっちにしろその事実は覆らねえよ」
人を手で刺した感覚は、一度味わったら二度と忘れることはできない。
それが自分の大事な人間なら猶更だ。
家畜は、一生蒼を刺したことを、その時の感情を引きずり続けることになる。
そうなれば、もうその二人に幸せは一生訪れない。
忘れろと言ったところで、心の奥底に傷は残る。
(特に、こいつの場合は…)
腕に大事に大事に抱かれている家畜。
一度目は親を刺し、二度目は犯してきた男を、三度目は自分の一番大切な人間を刺した。
もう、普通に生きていくことなんかできない。
「なぁ、そいつに言った?」
答えはわかっている。
言ってるはずがない。
大事な家畜に、こいつが話せるはずがない。
「言えるわけないよなあ。弱い弱ーーい御姫様のことだ。知ってたら、あんなふうにお前を求めたりできないもんなぁ?」
溢れ出る高揚感。愉悦。
俺が手に入れられないもんなら、どこまででも堕ちていけばいい。
クツクツと喉を鳴らし、残念だと溜息をつく。
「知ったら、どんな顔するだろうな」
驚いた顔。
泣きそうな顔。
ショックを受けた顔。
もしくは罪を抱えきれず、壊れるって可能性もある。
だからこそ、コイツは話さない。
「早く教えてやれよ」
持ち上げた唇の端を歪め、眠っている家畜の耳に届くように声を出す。
「――”自分のせいで、お前がもう永くない”ってさ。」
吐き出した言葉に、相手の歩みが一瞬だけ止まった。
けど、今度は振り返ることはない。
その後ろ姿が扉の向こうに消えると同時に、重い鉄の塊が音を立てて閉じ、差し込んだ光が消えた。
――――――
家畜がつけた傷によって、もうすぐあいつは死ぬ。
(その後にでも、壊れた家畜を使い尽くして捨ててやろう)
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