手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
707 / 786
壊れて、

24

しおりを挟む







「珍しいな。…もしかして、まーくんに会ったから?」


冷たい表情のまま微笑む蒼に、…ぐ、と顎を引けば「…へぇ」とひとりでに納得したような仕草をした。


「遊ばれ足りないって顔してる」

「っ、」


俺を見る蒼の目が、氷よりも冷たく研ぎ澄まされている。
その目に恐怖以上の何かを感じるのはいつものことだ。

…が、普段の数倍やばい気配を感じた。

瞬間、


「望み通り、夜から数を増やそうか」

「…ッ、!」

「人では物足りないなら動物も必要だな。暇を持て余した金持ちが沢山来てくれるから、精々可愛がってもらえよ」


青ざめた俺に、その整った薄い唇は容赦なく地獄を告げる。

無感情に吐き捨て、そのまま部屋を出ていこうとする蒼に、「待て」と声を荒げた。


「ソイツといると色々大変だろ?丁度いいからここに置いてけ」

「…は?」

「お前のところから逃げて、俺のところに来たのはソイツだ。家畜には俺が必要なんだよ」


今更何を言ったところで夜散々な目に遭うことは変わりないから、いっそのこと怒らせてやりたくなった。

人形みたいなこいつを見てると腹が立つ。
ついでに『くーくん』うるさい、その腕に抱かれてるものにも苛立ちがとまらねえ。


「忘れたか?そもそもお前はソイツに刃物を向けられ、刺されたんだってこと」

「…まーくんの意志じゃない」

「望もうが望まなかろうが、結果的に家畜の手にある凶器がお前に刺さった。どっちにしろその事実は覆らねえよ」


人を手で刺した感覚は、一度味わったら二度と忘れることはできない。
それが自分の大事な人間なら猶更だ。

家畜は、一生蒼を刺したことを、その時の感情を引きずり続けることになる。

そうなれば、もうその二人に幸せは一生訪れない。
忘れろと言ったところで、心の奥底に傷は残る。

(特に、こいつの場合は…)

腕に大事に大事に抱かれている家畜。
一度目は親を刺し、二度目は犯してきた男を、三度目は自分の一番大切な人間を刺した。

もう、普通に生きていくことなんかできない。


「なぁ、そいつに言った?」


答えはわかっている。

言ってるはずがない。
大事な家畜に、こいつが話せるはずがない。


「言えるわけないよなあ。弱い弱ーーい御姫様のことだ。知ってたら、あんなふうにお前を求めたりできないもんなぁ?」


溢れ出る高揚感。愉悦。
俺が手に入れられないもんなら、どこまででも堕ちていけばいい。

クツクツと喉を鳴らし、残念だと溜息をつく。


「知ったら、どんな顔するだろうな」


驚いた顔。
泣きそうな顔。
ショックを受けた顔。

もしくは罪を抱えきれず、壊れるって可能性もある。

だからこそ、コイツは話さない。


「早く教えてやれよ」


持ち上げた唇の端を歪め、眠っている家畜の耳に届くように声を出す。


「――”自分のせいで、お前がもう永くない”ってさ。」


吐き出した言葉に、相手の歩みが一瞬だけ止まった。
けど、今度は振り返ることはない。

その後ろ姿が扉の向こうに消えると同時に、重い鉄の塊が音を立てて閉じ、差し込んだ光が消えた。

――――――

家畜がつけた傷によって、もうすぐあいつは死ぬ。

(その後にでも、壊れた家畜を使い尽くして捨ててやろう)


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...