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「…、」
その声にハッとする。
顔をあげれば、いつの間にかどこか知らない部屋の中にいた。
「それでは。失礼いたします」
頭を下げてガラガラと扉を閉めてどこかに行こうとする男の人をぼんやりと見上げる。
……脳内が真っ白で何も返せない。
しばらくぼーっとして、だけど、
「…くーく んの 、 せ え き…」
自分の声すら、どこか遠くから聞こえている気がする。
変わらずに手の中に抱えている温もり。
崩れおちるようにして床に腰を下ろした。
…頭が、ぎりぎり痛い。
「……くーくんが、澪と、えっち…した…?」
…今、も…?
抱き締めて、キスして、身体を重ねて
これはきっとその証拠のはずなのに、だから澪が渡してきたはずなのに、…どうしてだろう。全く現実感がなかった。
『まーくん、好きだよ』
「…うそ、つき…」
たぷたぷ。
白。
ゴム。
あのまま捨てればよかったのに、けど、これを澪に返すことも、捨てることもできずに、持ってきてしまった。
視線を下に向け、ぼうっとしたままそれを見ようとして、ぎゅ、と眉に力を入れる。
…というよりは、目に力を入れた。
「……、?」
(…うまく見えない)
こんなに近くにあるのに。
それなのに、目が汚れているのかと思うくらいに、そういえばさっきからぼやけ続けている視界の違和感に今初めて疑問をもった。
部屋が暗いから、…?
ごしごし目を擦って、腕で擦ってると手首の金属が目にぐちゃって当たって痛い。
ぬるっとした感触に首を傾げ、まぁいいかとひとりでに頷く。
「…、あつい」
ぼたぼた浴衣に何かが上から落ちて、沢山灰色っぽい染みを作っている。
なんだろう。
小学生の時、ぷーるで溺れたときぐらいになんだか息がしづらい。
声もなんだか掠れてる気がするし、熱がぶりかえしてきたのかな。
「…これがくーくんの、代わり…」
その白いのを持ち上げて、ゆらゆら揺れてる様子を見る。
『まーくん』
「…くーくん…、だいすき…だいすきだよ…」
すがるように、額を寄せる。
笑う声が水に溺れていた。
思う。
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