手足を鎖で縛られる

和泉奏

文字の大きさ
上 下
669 / 804
現在

93

しおりを挟む






「…(…でも、)」


俯いて、ぎゅ、と服を握った。

…今からお風呂入ったら、くーくんとえっち、するって、


「ね、真冬。ちょっとだけだから」


少し強い口調でそう言ってくる澪に


「っ、…う、」


…促されるままにこくん、と頷こうとした瞬間、

ぐい、と手を引かれる。
おれを澪から守るように、黒色の浴衣が視界を塞いだ。



「今日は無理。俺はまーくんと一緒にいるって約束してるから」

「…っ、」


凛とした低めの声。
その声にぱっと顔を上げると、チラッとこっちを見たくーくんと目が合って優しく微笑んでくれた。

それから、きゅ、と握られる繋いだままの手。


「…ぅ、」


自分が言いたかったことをそのまま言葉にしてくれて、救われた気持ちになる。


「…ッ、ぐー、」


涙声に加え、濁音になっている自分の口を塞ぐ。
この場に二人しかいなかったらきっと泣き崩れてた。

けど、くーくんがこうして代わりに言ってくれたんだから。

おれだって、自分の口でちゃんと伝えないといけない。

…ごく、と緊張に唾を飲みこむ。

きっと澪は断られたくないはずなのに、先程のくーくんの言葉に喜んでしまった自分の気持ちに対する罪悪感と申し訳なさに気分が沈む。



「その、…おれとくーくんの約束、があるから。…ごめんなさい。澪の用事…後でいい…?」

「…後…、そっか…」


おれの言葉に、俯いてそう言葉を零した。

……諦めてくれたのだろうか。

一瞬凄く悔しそうに唇を噛んだように見えた澪が、ふいに不安そうな表情を浮かべる。
俯いていた顔を上げ、緊張しているような声を零した。


「ですが、…どうしても今から、蒼様にお話ししたいことがありまして」

「…話?」


怪訝に眉を寄せるくーくんの腕を掴んで、耳元に唇を寄せる。
かなり近づく二人の距離。

唇がくーくんの耳に触れてしまいそうな、

そう思えるほど傍で何かを囁いている澪の姿 に


「っ、」


思わず、手を伸ばしかける。

けど、途中で止めて、胸の前でぎゅ、と握った。

(…苦しい、)

…そんな二人の些細な仕草にさえドキっと心臓が跳ねて、反射的に目を逸らす。

バクバクと鳴る心臓の辺りを手で押さえた。

(…そんなに、大事な用なのかな)

ここまで食い下がってくる様子を見ると、その用事ってよっぽどのことなのかもしれないと思い始めてくる。

くーくんもおれが嫌がってるのをわかって、…きっとああいう風に言ってくれたんだろう。

多分、おれがあのとき…澪に聞かれた時にすぐに頷いていれば、こんな変な雰囲気にならなかった…はずだ。

そう思うと、段々辛くなってきた。
重石にのしかかられたように、気持ちが沈んで、心臓が早鐘を打つ。


「……(…くーくんだけじゃない。二人の、…迷惑になってる…)」


頭に浮かんだその言葉に、…だめだ、と思う。
おれは、もう誰かの迷惑になりたくない。
邪魔者だって思われたくない。

…このままここで駄々をこねて、くーくんに嫌われたくない。


でも、とくーくんを女の人と一緒に行かせたくないという気持ちが邪魔になって、自分の心の中に黒い渦を濁らせた。

こそこそっと何かを話す二人の様子に耐えられずにただ下だけを視界に映す。
…胸辺りの浴衣を痛いくらいに握っている自分の指。

その指が唇と同じぐらいに…震えているのを、見た。


「……、」


頭が痛くなりそうなくらいに一生懸命考えて…ふ、と身体から力を抜く。




それから、

…意を決して言葉を吐き出した。



「……………行ってきて、いいよ」

「…まーくん…?」


本当は嫌だった。
いかないでって言いたかった。


しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

無自覚な

ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。 1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。 それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外 何をやっても平凡だった。 そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない そんな存在にまで上り積めていた。 こんな僕でも優しくしてくれる義兄と 僕のことを嫌ってる義弟。 でも最近みんなの様子が変で困ってます 無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

処理中です...