649 / 804
現在
73
しおりを挟むううう…と嬉しさと恥ずかしさに塗れながら「おれもくーくんのためなら、なんでもする!」と告白おーるおっけー!おれもすき!みたいな勢いで答えながらひたすら彼の胸に顔を埋めた。
「…うん。ありがとう」と優しい声が答えて、満足する。ぶわーっと心が満たされた。
いつものように髪を撫でてくれる手にぐふふとだらしない笑みを浮かべていると、
「まーくんがそのままでいてくれたら、…多分、まだ信じていられるから」
「…っ、う、…お、?」
抱き付いていた身体が離れる。
…と、前髪を手で軽く避けられた。
直後、柔らかい感触がおでこに触れる。
脈絡のなく、予告もなかった行動に、目をぱちくりとした。
そして「…あが、」と変な音を口から発して一瞬後に理解する。
「俺とまーくんは、あの日から…まーくんが俺を助けてくれた日からずっと一緒で、初めては全部まーくんで、誰も他の人間なんかいなくて、」
「…っ、」
何事もなかったように続けられていく言葉。
(…い、今のやつのせいで全然頭に入ってこない…!!)
わざとか、と思えるようなタイミングでむぅと眉を垂れさせる。
あわわわと、その感触が確実に彼の唇のものだと知ってぶるぶる震えて真っ赤になりながらそこを手でおさえて見上げた。
…けど、
「俺は、俺のままでいられてるって、思えるから」
「……っ」
「まーくんの知ってる、くーくんのままだって、」
不意に耳に届いたその言葉に、首を傾げた。
「…おれのしってる、くーくん…?」
「……うん」
慌てるおれなんかに構わず、ふ、と寂しそうな笑みを浮かべて、甘えるようにおれを抱き締めてくる。
そうしたら、と
彼はいつもの言葉の続きを
「…もっと、まーくんが望むような世界を作るために頑張れるから」
そう、呪いの言葉のように、また、”おれ”に約束して、
「…――っ、」
ひく、と喉の奥が痙攣する。
そこから続けられる言葉に、…嫌な予感が、した。
「だから、」
「…だめ」
何かを話そうとしたその口を、両手でふさぐ。
…そんなおれの行動に困ったような表情をするくーくんから目をそらして、知らんぷりした。
その反応にやっぱりって思う。
また、いなくなる気だったんだ。
むぎゅうと眉をこれ以上ないくらいに寄せる。
「…まーくん、」
「また、いなくなるの、だめ…だから」
ふるふると、首を振る。
いつもよりちょっと強い口調で何度も否定した。
「おれを傷つけないために、って、そんな理由で離れられるの…嫌だ」
「……」
「やだ。そんなの、ぜったいにやだ。」
わがままだって言われてもいい。
いい子じゃないって言われてもいい。
どんなことがあっても、くーくんとまた離れるのだけは絶対に嫌だ。
「…ね、くーくん。そんなこと、しなくてもいいんだよ」
「……」
「おれ、くーくんのことがだいすきで、だから頑張ってもらわなくても、今で、充分…幸せ、で…もう、これ以上なんて、」
お願い。お願いだから、もう離れるなんて言わないでください。一人にしないでください。と懇願するように彼にしがみつく。
なのに、
「…違うんだよ」
静かに否定されて、ぴたりと言葉が止まる。
(…ちがう…?)
その声音が、軽く拒絶に近いものを含んでいるのを、感じた。
くーくんのそんな声は聞いたことがなくて、ショックを受ける。
無意識に縋りついた指に力が籠もった。
……ちがうって、
「…なに、が…?…」
「…その好きは、俺の求めてる好きとは違うから」
胸に埋めていた顔を、上げた。
くーくんは大人なのに、こんなに大人になったのに、想像していたどれとも違う表情で
……おれの想いを、全否定した。
「…ちが、…う…?」
「……」
「違うって、なに…?」
ぽつりと、震える唇から零れた疑問。
冷水を頭の上からぶちまけられたように、全身から温度がなくなっていく。
今までだったら、好きって言ったらその言葉を返してくれていたのに。
今までだったら、いつもみたいにぎゅっと抱きしめて好きだよって言ってくれたのに。
呆気に取られたまま、彼を見上げる。
「くーくんと、一緒…だよ?いっしょのすき、で、」
「……違うよ」
また、伝えて
……なのに、また拒まれた。
ひゅっと喉が変に空気を吸う。
なんで
なんで
なんで
さっきまでの嬉しかった気持ちが、嘘のように萎んでいく。
殴りかかるような勢いで、その裾を掴んだ。
じゃあ、そんな風に言うなら、
「…っ、なら、どんな好きなら、信じてくれるんだよ…!!!」
「……」
「違わないって、言ってるのに…っ、くーくんのばか!わからずや!」
指先が白くなるほどぎゅっと握って、内側から湧き上がる怒りと悲しさに涙が零れた。
47
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる