647 / 804
現在
71
しおりを挟むなんだか置いてけぼりにされてる思考で、色々納得はした。
ひとつひとつ整理に時間をかけていくと、
…もしかして、なんて疑問が湧き上がる。
(安全に部屋の中で過ごしてほしかったって、)
「だから、ずっといなかった、とか…?」
いや、でも、まさかそんなわけないだろう、と自分で否定しつつ、聞いてみた。
けど、少しの沈黙の後「…うん」と気まずそうに返された返事に、ぽかんとする。
(…ん…?んん?)
どうにも自分の思ってることと何かが違う気がする。
手の力が緩んだ一瞬の隙をついて、バッと顔を上げた。
「…っ、ちょ、」
「で、でも!さっきはずっと女の人といたって、」
焦った表情を浮かべるくーくんを無視して、おいどうなんだ!とカツアゲするヤンキーみたいな勢いでその服を掴んで軽く引っ張る。
「まさかおれに触っちゃだめだからって理由で、…女のひとと、う、うわ、浮気、を…」
戦いて、ぶるぶる痙攣する。
うわき!これはうわきだ!終身刑だ!
「酷い!この浮気者!ばかたれ!」
「……浮気なんかしてないよ」
「…っ、じゃあ、さっきの発言の意味…教えて」
何度目かの涙目のまま、唇を尖らせて答えを求めるように見上げると…こっちを向いた彼が、動揺したように喉を上下させる。
揺れた瞳が、逃げるように逸らされた。
少し躊躇った後、その唇が、開く。
「…だって」
自分で聞いたくせに、返事を聞きたくなくて、彼の一言一言で心臓がばくばくと鳴る。
聞くのが怖い。
知るのが怖い。
どうしよう。
あの夢みたいに、…くーくんがその人のことを好きで、おれが想像できないようなことを色々しちゃってて、…「…っ、」ううう考えなければよかった。そして下半身も反応するなばか。
一瞬の間の間によからぬ思考が駆け巡った。
…けど、今更知らなくていい。なんて言えないからへにゃりと眉を垂れさせて言葉の先を待つ、
と、
「…まーくんに、嫉妬してほしかったから」
「……」
嘘、ついた。なんて軽く瞳を伏せて言葉を零した彼に、
……あんぐりと開いた口が塞がらない。
「…へ、」
(今、なんて言った…?)
呆気にとられたまま、単語を繰り返す。
「……しっと…?」
「…うん」
「ほんと、に…?」
それだけのために…?
そんなことのために、おれはあんなに苦しんで、ギリギリと心臓を痛めたのか。
…正直に言うと、ぐおおおおふざけるなあああ!と揺さぶってやりたい。ぶんぶんしてやりたい。
でも、それにしても、と見上げて小首を傾げる。
…嫉妬してほしかったって言うのなら、もっと揶揄って楽しそうな、余裕そうな表情でも良さそうなのに。
なのに、彼はいつか見た時と同じで、…今にも泣き出しそうで、苦しそうで、そんな表情のままで、
「…なんで、」
「…まーくん?」
「なんでも、ない」
ぽつりと零れ出た気持ちに反応して問いかけてくる彼に、ふるふると首を振った。
…これが、くーくんがおれに見せたくなかった顔…なのかな。
やっぱり声を聞くだけじゃなくて、実際に見ると、…胸がズキズキする。
(…ずっとそうだった)
どうしておれがみるくーくんは、いつも泣きそうな顔ばっかりなんだろう。
…だって、おれは今…彼を拒絶することはなくて、どんなことをされてもいいって言ったし、本当にそう思ってる。
だから、あの頃とは違って、そうやって辛そうな顔をさせてしまう理由なんてないはずなのに。
でも、それを悲しいと思うと同時に
さっきの…ヤキモチ妬いて欲しかった、なんて子どもみたいな駆け引きをしようとしたらしいくーくんに、
怒りよりもむしろ全身の全てが脱力しそうな程に安堵して、嬉しいと感じてる自分もいて、
「くーくん」
「…っ、」
口になじんだ、その名前を呼ぶ。
それから、手を伸ばして、その頬に触れた。
びく、とその身体が震える。
怯えたような表情をした彼の瞳が恐る恐るこっちを向くから、そんな様子を愛しいと思いながら頬を緩ませた。
「そんなことしなくても、おれ、ずっとくーくんのこと大好きだよ。」
「……」
「それに、くーくんになら傷つけられても良いって言ったのに」
気まぐれに殴られたって、酷く甚振られたって、殺されたって、きっとおれは幸せに感じると思う。
「もう、可愛いなぁ!」と、でへへぐふふと嬉しい心情を隠せずに、にやにや緩み切った頬で笑いながらその首に両腕を回して、ぎゅーっと抱きしめる。
だいすき。
だいすき。
だいすき。
お母さんとお父さんよりも好き。
…世界中の誰よりも、一番大好き。
首筋に顔を埋めて、がぶりとそこを噛みたい気持ちを必死におさえながらただひたずら猫のようにじゃれついた。
くんくん。良い匂いがする。首筋美しい。ごろごろ。それからぎゅー。
60
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる