手足を鎖で縛られる

和泉奏

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(…飲ませて、あげるって、…)

何、を…?

確実に怒っている彼の瞳に、心臓が嫌な音を立てて汗が滲んだ。
さっきまでの穏やかだった時間が、感情が、嘘のようにしぼんで消えていく。



「…せい、えき…を…?」

「うん」


肯定を示す頷きに、…精液って、なんだっけ、あれ、あれだ。わかってる。わかってる、気がするんだけど、うまく、思考が働かない…なんて今更ぼんやりと考えていると、彼はおれから距離をとる。
反射的に伸ばしてしまう腕に、また拒絶されることを恐れてぎゅっと膝の上で握った。


…それから、「あんまりこういうこと…しないようにしようと思ってたんだけど、」と片脚をたて、膝の上に腕をおいたくーくんが、少し首を傾げて優雅に笑む。




「まーくん、どっちがいい?自分の精液と、俺の」

「…っ、どっちって、…」



飲むならどっち、ってこと、だろうか。
過去、女の人とお父さんのしていたことを思い出して、唇を結ぶ。

もし、前者を選んだら…自分の、を飲むことになる?
…それは絶対に、やだ。


なら、


「くー、くん、の、がいい…」

「…そっか。俺の方がいいんだ?」


ふ、と唇の端を持ち上げて満足げに微笑んだ彼に、反射的に安堵して気持ちが緩んだ。

…けど、おれのほっとした気持ちを裏切るように、その整った唇が、「じゃあ、」と動く。



「脱いで」

「…っ、なに、を?」



その人差し指が、視線が、スッとおれの浴衣に向く。
…そして、示されている場所に、目を落として、「…へ、」ともう一度呆けた声をあげてしまう。

「もう一回わかりやすく言おうか?」と問いかけてくる彼に、こくん、と予期している答えに身震いしながら頷い、て



「今、まーくんが着物の下に履いてる物…脱いでって言ったんだよ」

「え、でも、」

「…自分が欲しいって言ったのに、俺の言うことに従えないの?」

「…っ、わ、わかった」


若干低くなる声音に、ビクっと身体を跳ねさせた。

慌てて立ち上がる。
これ以上、怒らせたくない。不機嫌になってほしくない。怖いくーくんを…見たくない。



「着物自体は脱がなくてもいいよ」

「…う、うん」


血の気がなくなったような手足で、恐る恐る着物を脱ごうとしていた手を止める。

そうして、その浴衣の下に手を入れて、下着を脱ごうと下から浴衣をたくしあげていると、太ももとか色々な部分がくーくんに見えそうになって、羞恥心に駆られる。

いつもなら多分そんなに気にならないけど、むしろくーくんなら大歓迎だけど、この冷めた雰囲気と静かに注がれる視線に、異常な恥ずかしさが込み上げてきた。

下着のゴムの部分に手をかけ、一瞬躊躇っていると「早く」と声が聞こえて、「…っ、」こっちをじっと見つめている視線に耐えきれずに目をぎゅっと瞑る。震える手で、一気に脱いだ。

それを適当な場所に放り投げて、不安な心のままくーくんを見下ろす。



「これ、でいい…?」

「うん。いい子」

「…ぅ…っ、うん、」



まだ冷たくて、零度以下のままの瞳に泣きそうになりながら、それでも褒めてもらえたことが凄く嬉しくて涙が滲む。

浴衣をまだ着ているから、見た目上ではなんの変化もない。
ただ、股間が無防備で空気に晒されてるし、脚周りがすーすーして、…凄く居心地が悪かった。


これで、もう…いい、かな…、と窺うような目を向けると、冷酷にも告げられる台詞。



「じゃあ、…”それ”持ち上げながら、こっち向きに脚開いて」

「…っ、」



それ、と示されたのは、おれの着てる浴衣の下の部分…で、



「立ったままでも座った状態でも、どっちでもいいよ」

「…ぁ、う…」



言われていることを把握して頬が熱くなると同時に、じわ、と瞼が熱くなってくる。

なんで、なんでこんなことになってるんだろう、なんて考えても仕方ない。
…今、ここにいるのはおれとくーくんだけで、おれはくーくんが大好きだから、嫌われたくないから、言うことに従うしかないんだ。



「……」

「…どうするの?」

「た、立ったままで、いい…っ」


できれば、座りたい。その方がみえにくくなるから。
でも、そんな動作が出来ない程脚が震えてて、座りたくても足が動いてくれない。


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