607 / 804
現在
31
しおりを挟む短い単語が意外でぽかんと目を瞬くと、ものすごく言いづらそうな顔で少し視線を逸らした。
「まーくんに膝枕、してもらいたい」
「お!良いぞ良いぞ!来たまえ!」
チッ、ちゅーじゃなかった。ちょっと期待しただけに、どっちかというとおれが変態みたいになってしまった。
にこにことご機嫌に、あ、でも膝枕ってどうやってやるんだろう、と漫画で見た知識を振り返って、座ったままでいいかなと脚を前に伸ばした感じでぽんぽんと膝の辺りを叩いた。
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
畳に片手をついて、上半身を倒した彼は、遠慮がちにおれの膝に頭を乗せた。
ふーと息を吐いて、
さらりと揺れて、重力に従う黒髪。
「……な、なんか」
(…意外に、膝枕って顔近い…んだなって、)
しかも恥ずかしいからせめて顔の向きをおれのお腹とは逆のほうに向けてくれればいいのに、何故こっち方向に顔を向けるのか…!!すごく恥ずかしい!!
彼の綺麗な髪をよしよしと慣れない手つきで撫でると、伏目がちだった瞼が、ゆっくりと閉じる。
なんかおれ、やってることが女の子みたいだなーと思いながらいつもとは全然違う覚悟で見下ろして、そうして長いこと撫でていると、眠ったのか目を閉じたまま何の反応もなくなった。
耳を済ませれば寝息まで聞こえてきそうなほど穏やかな表情で瞼を閉じていて、…
「………」
よからぬ衝動が湧き上がる。
悪戯したいな、という感情とちゅーしてやろう、という気持ちで顔をゆっくりと近づけていく。
…と、
不意にその瞼が持ち上がり、目があった。
「ぎゃ!」
息が止まるかと思った。
一瞬の横目遣いのくーくん萌え!とか思ってる場合じゃないけど、自然と体勢的にこっちを見上げる感じが可愛くてぎゃ、やられる!しかも睫毛長くて、羨ましい。おれもこんだけ欲しい。
「…何してるの?」
「ちょ、ちょっとくーくんの顔がかっこよくて直視できないのと、これだけ至近距離で見られると、おれの顔のひどさが露見に…」
だって、これだけ距離が近いと、色々見られたくないとこも見られてしまう可能性がある。くーくんは格好良いからいいけど、おれはそうじゃないから嫌な思いをさせるかもしれないし、不細工って思われたくないし…!
至近距離で目があったのに耐えられずに、バッと反射的に顔を手で覆う。そうすると、手首を掴んでぐいとそこから外された。
こっちを見上げるくーくんの顔が、不機嫌にムっと眉を寄せているのが見える。
「さっきから何聞いてんの」
「…へ?」
「ずっと、俺はまーくんのこと可愛いって言ってるだろ」
「っ、」
心臓が、爆発した。
う、うう…もう、そんな顔でドキドキさせるような言葉を吐かないでほしい!!
「いや、おれは、可愛いじゃなくて、」
「…?」
それもくーくんに言われると嬉しいけど、
「格好いい、とかは?」
やっぱり男だから可愛いよりは、そっちの方が嬉しい気がする。
「んー…まーくんはどっちかっていうと綺麗って言われる方かな」
「凄く綺麗だよ」とおれの頬に手で優しく触れてきたくーくんがまるでホストみたいに口説いてきた。い、いつの間にそんな能力を身につけたんだ。なんか嬉しいのか恥ずかしいのかよくわかんなくて、涙出そうになってきた。「ひ、にゃ」と意味のない言葉が勝手に口から漏れて、「そ、そういえば」とぐるぐる考える。
「くーくん!!」
「…ん?」
「痛いところ、治しに行ってたんだよね?」
「うん。行ったというか、ほとんど無理矢理だったけど」
「さっき、連絡があったって、言ってたけど…」
だいじょうぶ、なのかな。最初、くーくんは大分良くなったって言ってたけど、もしかしてちゃんと全部直してもらってないのかな。
心配になってくる。
だけど、くーくんはチラッとこっちを見て、
「嫌だ。戻りたくない」
ぷいとそっぽを向いた。
そうして、悪戯っ子な子どものような笑みを浮かべる。
「まーくんが心配だったっていうのもあるけど…それよりもすぐに会いたくて、…勝手に抜け出してきちゃった」
「…え、」
「本当はまだ出てきちゃいけなかったんだけど、全部放置してきた」
「あーあ、やっぱりばれた」と軽く笑って、おれのお腹の方を向いたくーくんが膝枕のまま、腰に腕を回して顔を埋めてくる。ぜ、ぜったいに唇触れてる…!!
うぎゃ、吐息がお腹に当たってくすぐったい。
「だったら、」と言いかけると、それに首を振って「もう治ったから大丈夫」と言葉にするくーくんに、「う、うん」とまだ不安なところがたくさんあるけど、だけどくーくんがそう言うなら無理にどうすることもできないしと気分を切り替えた。
「おれに会いたくて、抜け出してきた?」
嬉しくて、もう一度確認するように問うと、こくんと頷く動作。
69
お気に入りに追加
1,088
あなたにおすすめの小説
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
無自覚な
ネオン
BL
小さい頃に母が再婚した相手には連れ子がいた。
1つ上の義兄と1つ下の義弟、どちらも幼いながらに
イケメンで運動もでき勉強もできる完璧な義兄弟だった。
それに比べて僕は周りの同級生や1つ下の義弟よりも小さくて
いじめられやすく、母に教えられた料理や裁縫以外
何をやっても平凡だった。
そんな僕も花の高校2年生、1年生の頃と変わらず平和に過ごしてる
それに比べて義兄弟達は学校で知らない人はいない
そんな存在にまで上り積めていた。
こんな僕でも優しくしてくれる義兄と
僕のことを嫌ってる義弟。
でも最近みんなの様子が変で困ってます
無自覚美少年主人公が義兄弟や周りに愛される話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる